2020年4月21日(火)
2020とくほう・特報
コロナ禍 続く公演休止
音楽の危機は心の危機
新型コロナの感染拡大を防ぐために、音楽業界でも公演の休止が続き、多くの実演家が苦境に立たされています。オーケストラ、劇場、バレエ団などの実情は…。(鎌田有希、中村尚代、米重知聡)
オーケストラ
収入ゼロ 募る不安
プロのオーケストラ37団体が加盟する日本オーケストラ連盟(オケ連)の桑原浩常務理事・事務局長によると、2月下旬以降の中止・延期は500公演を超え、損失は全体で15億円から20億円にのぼります。
終息まで長期戦を覚悟しなければならないと言う桑原さんは「指揮者でも仕事がなければ収入はゼロです。国のリーダーには責任をもって、みんなを安心させてほしい。全部でなくても可能な限り補償すると言ってもらいたい」と訴えます。
人の密集をさけようと無観客の演奏をネットで配信するオーケストラもありましたが、楽団自体が60~100人規模のため、それも難しくなりました。「演奏で皆さんを元気づけたいというのは、音楽家の本質のようなもの。それが途絶えると精神的なダメージを受ける。再開のめどが立たないまま、ひたすら待つことのつらさや不安を感じる」と話します。
多くが公益財団法人や公益社団法人である楽団にとって、さらに大きな不安がのしかかっています。現行の公益法人制度では、収入と支出を均衡させることが求められており、もうけをあげて必要以上の利益を蓄えることはできません。そのため、公演収入が絶たれると、途端に危機的な状況に陥ります。
一方で、2年連続で純資金が300万円を下回った場合に解散するという規定があり、今回の公演自粛は楽団の存続を揺るがし、解散に追い込まれる恐れがあります。桑原さんは、「緊急時には適用を猶予するなどの特例措置をとってほしい」と強く求めています。
オペラ・バレエ
劇場での再会待つ
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オペラ、演劇、バレエなどの公演を行う新国立劇場では、新型コロナウイルスの影響で2月28日以降のすべての主催公演を中止しています。広報室長の松延史子さんは、「2月の時点では、3月になれば元に戻るのかなと思っていました。次々とことが深刻になっていって、先が見えないことが苦しい」といいます。
「劇場の使命はみなさんに舞台芸術を届けること。それを何らかの形で果たしたいという思いです。芸術を心の支えにしていただけたら。過去の作品をウェブで配信する『巣ごもりシアター』など楽しんでいただいて、また劇場で会える日を心待ちにしています」と語ります。
踊る場ない苦しさ
バレエ界では、国内の主なバレエ団が協力し、文化庁主催のもと開催される「上野の森バレエホリデイ2020」が、予定していた25~29日の日程すべて中止になりました。
日本舞台芸術振興会(NBS)、東京バレエ団、東京バレエ学校の広報・宣伝の田里光平さんは「ダンサーあってのバレエ団なので、東京バレエ団はダンサーに月々固定の額を払っていますが、国内の多くのバレエ団は、一部を除き1ステージごとの歩合制でダンサーに出演料を支払っています。今回相次いだ公演中止で、多くのダンサーは収入が途絶え、バレエ団もチケット収入がなくなりました」といいます。
1ステージ数千万から億単位の公演もあり、中止により厳しい状況に追い込まれています。加えてダンサーは踊る場がなくなったことが苦しいといいます。
「諸外国では国や自治体の事業としてバレエ団を運営していますが、日本のバレエ団のほとんどは民営で、補償・補てんがないなかでどこも大変に苦しい」と田里さんは訴えます。
「蓄え取り崩し」6割
音楽家ユニオンアンケートから
職業音楽家と音楽関連の労働者約5200人の権利向上に取り組む日本音楽家ユニオンは緊急アンケートを実施、941件の回答が寄せられました。(調査期間3月11~22日)
自粛要請後にキャンセルされた2~4月の公演は合計6694件、レッスンは合計9655件にのぼり、どちらも約5割がキャンセル料をまったく支払われませんでした。
3月以降の生活について59%が「蓄えを取り崩して対応」、16%が「蓄えを取り崩しても足りないので借金をする必要がある」と回答しています。
洋楽を生業(なりわい)とする音楽家の平均月収は25万円(文化庁2014年度統計)で、もともと経済的基盤は脆弱。同ユニオンは「公演のキャンセルだけで少なくとも月収の2~4割を失っている。廃業・転職を余儀なくされる事態になりかねない」と分析しています。
こうした状況に、約35%から「生活不安」が寄せられ、「このままでは首をくくる覚悟」「オンライン上の演奏会・レッスンも考えているが、初期投資が回収できる見込みがない」「国の対策をみると、音楽家という職業が職業として認められていないと感じる」との声や、健康保険料の免除、ローンの支払い猶予、家賃、光熱費など固定費の補てんが要望されています。
同ユニオンは「今回の新型コロナ感染拡大は、実演家やスタッフの社会的地位の低さと経済的脆弱性を明らかにした」と指摘。「文化活動は生活に深く根ざしたもの。必要不可欠だ」と訴え、ドイツや台湾政府の文化支援の例を挙げ、日本政府に補償策を強く求めています。
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