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2020年4月16日(木)

2020焦点・論点

新型コロナ 特徴と影響・対策

ウイルス学・元国立感染症研究所室長 加藤茂孝さん

感染爆発抑止と補償を併行して常に議論できる専門組織が必要

 新型コロナウイルスによる感染症の拡大防止と、国民生活を守ることが急がれています。ウイルス学が専門で『人類と感染症の歴史』(正・続)の著書もある加藤茂孝さん(元国立感染症研究所室長)に、今回の感染症の特徴と影響、今後の対策について聞きました。(山沢猛)


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(写真)かとう・しげたか 1942年生まれ。東京大学理学部卒。米国疾病対策センター(CDC)客員研究員、理化学研究所チームリーダーなど歴任。専門はウイルス学、特に風疹ウイルス。著書に『人類と感染症の歴史』(2013年、丸善出版)、『続・同』(18年)。

 ―新型コロナウイルスとはどういうものですか。

 コロナとは「王冠」のことで、分類は、電子顕微鏡でみた形で決まります。細菌は単独でも生きられ培養液でふえますが、ウイルスは単独では生きられず培養液でもふえない。動物の細胞に入って初めて増殖できます。

 これまでヒトに感染するコロナウイルスは七つ見つかっています。このうち4番目までは、ただの風邪のウイルスで、注目されませんでした。ところが、5番目が2003年に世界に広がったSARS(サーズ、重症急性呼吸器症候群)です。感染者8千人、死者800人でした。6番目が2012年のMERS(マーズ、中東呼吸器症候群)で、サウジアラビアのラクダから人間に広がり、15年に韓国に持ち込まれてかなり死者を出しました。

 7番目が今回の新型コロナウイルスで「COVID―19」(コビッド―19、2019年に発生)と呼ばれます。これも呼吸器症候群で、いまのところ致死率が5・5%です。サーズが10%、マーズが35%でした。

 サーズやマーズは重症の肺炎を引き起こすのですぐわかるのですが、今回は軽症や症状のない人が多く、感染者の8割も占めます。広がってやっとわかった、ということが起こります。対策のいちばん難しいところです。

 ―過去のサーズやマーズの教訓が今回、生かされていますか。

 サーズは中国の広州が起源で、初めの患者をみた医師から東南アジアを中心に広がりました。ところが、世界保健機関(WHO)や米政府の疾病対策センター(CDC)が中国に調査に入ろうとしたら中国政府に止められてしまいました。

 サーズが新型肺炎であることを最初に発見したのが、ベトナムにWHOから派遣されていた医師でイタリア人のカルロ・ウルバニ氏でした。彼は積極的に診断・治療に参加し、研究成果をWHOに提供していましたが、自らも感染して2003年に亡くなりました。彼の検体を手に入れた米国CDCはウイルスの分離とウイルス遺伝子全部の配列決定に成功します。それで、対策が進んだのです。

 最初から情報が隠されていなければ、中国・広州にとどまったはずです。「早期発見、早期治療」、これが最大の教訓です。

 今回の新型コロナウイルス感染は、中国政府も最初は情報を抑えたのですが、途中で公表に踏み切り、それからすごい勢いで対策をとるようになりました。科学技術を生かしウイルスを分離し、遺伝子配列も明らかにして世界に公表しました。

 感染症の疑いを「隠してはいけない」というサーズの教訓が生かされずにくり返したという問題と、半面、その後の情報公開が比較的早かったという前進面もあります。

 ―医療崩壊の可能性をどうみていますか。

 台湾はサーズのときの教訓から、今回、患者がゼロのときから優秀な担当者を抜てきし医療の備えを厚くしました。致死率が0・4%ときわめて低いのです。

 日本は、専門病院の指定などはすでにあったけれど、対策の規模がたいへん小さく、医療崩壊の危機も高まります。急激な感染爆発を抑えこんで、その間にいろいろな準備をすることが求められました。重症患者をみる病院と、軽症者、別の病気の患者をそれぞれ分けなければなりません。軽症者用に寮やホテル、体育館などを使う。それを考える自治体もでています。

 本来大事なことは普段、流行していないときに計画を考えるグループや組織が必要だということです。日本では、流行が少し広がってから専門家会議をつくったけれど、中国・武漢の事態がわかってすぐにつくるべきでした。政府は今回の対策が終われば専門家会議を解散するといいますが、それではいけません。平時の人材・施設の確保、医療関係者の訓練こそ大事です。感染症を甘く見ています。

 家庭に布マスクを2枚配るよりも、医療システムを完備する方がはるかに重要です。病院にベッドをふやし置く場所をつくる、医者や看護師などの全身防護服を確保する、人工呼吸器を増加するなどでずっと助かる人がふえます。

 21世紀の20年でWHOが「新興感染症」と呼ぶものの流行が5回起きています。サーズ、新型インフルエンザ、マーズ、ジカウイルス、今回のコビッド―19です。それ以外にもエボラ出血熱があります。このうち日本に入ってきたのは新型インフルエンザと今回です。10年に1回と思っているかもしれませんが、世界では5年に1回起きているのです。新興感染症はいつでも起こるものなのです。

 ―安倍晋三内閣が7日「緊急事態宣言」を出しました。自粛の要請と一体での補償が重要ですが。

 そのとおりです。今回の感染症は、1カ月程度では収まりません。世界的な流行で、アメリカと欧州の感染拡大が激しい。仮に日本でいったん抑えてもまた入ってくる。長期戦になります。

 ですから、感染症を爆発させない対策と、経済活動や国民生活を持続させることを、併行して進めなければなりません。安倍首相の打ち出した経済対策を見ましたが、自粛で打撃を受ける弱者への補償や教育継続への観点が弱いです。

 新興感染症は人類とともにあるので、日常的に備えなければなりません。常に議論し考えておく専門的な組織こそ必要です。


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