2020年4月14日(火)
介護体制 崩壊の危機
全日本民医連事務局次長 林泰則さんに聞く
新型コロナウイルス感染症が介護現場に深刻な影響を与えています。全日本民医連の林泰則事務局次長は、3月に実施した加盟法人を対象にした調査を手に、国の補償がなければ地域の介護サービスの提供体制が崩壊すると訴えます。(佐久間亮)
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いま、介護現場は、利用者や職員に感染者が出れば介護サービスの提供と事業所の存続に致命的な打撃となりかねないと、極度の不安と緊張を強いられています。現場の職員の利用者・事業所を守る頑張りに報いる支援がどうしても必要です。政府の「緊急経済対策」に、介護事業所を継続させるための経済支援が書かれていないことに驚いています。
感染の不安から利用者のキャンセルが相次いでいます。事業所の側でも、密集を避けるためデイサービス(通所介護)の受け入れ数を減らしたり、新規の受け入れをやめたりしています。サービス付き高齢者住宅や有料老人ホームではデイサービスを含め外出を制限しています。
調査では、5~6割の事業所で3月に利用者が大きく落ち込み、大幅な減収が見込まれることが分かりました。利用者の減少の幅は1~2割、多いところで3割に上ります。約100床の特養ホーム・ショートステイで1カ月に約300万~400万円の減収。ほぼ正規職員1人分の年間の人件費に相当します。介護報酬は保険請求から2カ月遅れで入ってくるので、今月から来月にかけて影響がでてきます。
一方、経費は増えています。学校の一律休校に伴う臨時職員の雇い入れや職員への休業補償に加え、マスクなど衛生材料も割高になっています。このままだと資金ショートを起こす事業所も出かねない状況です。
マスク入手困難 人手不足に拍車
感染予防に必要なマスクや消毒液といった衛生材料の不足も、職員の不安感を加速させています。調査では、事業所の約1割でマスクの在庫がすでになく、約半数の事業所も残りわずか。8割の事業所は今後の確保の見通しが立たないと答えています。1日1枚しか職員にマスクが配れない事業所が多く、3日に1枚、4月に入ったら1週間に1枚という所もあります。消毒液も、ほとんどの事業所が4月中に在庫が切れると答えています。
本来、ヘルパーは利用者の状況によって訪問先が変わるたびにマスクを変えなければならない場合がありますが、現実はそうなっていません。職員が個人的に持っているマスクを使ったり、布製マスクを洗濯したり手作りしたりして、なんとかしのいでいる状況です。政府の2枚の布マスク配布は焼け石に水です。
虐待の懸念
介護現場のもともとの人手不足に、新型コロナが追い打ちをかけています。消毒や清掃、休んでいる職員の仕事のカバー、ボランティアの受け入れ中止による職員の負担増に加え、デイサービスを休止した場合の利用者の安否確認やケアといった新たな対応も必要になっています。
1人暮らし世帯や老老世帯、認知症のある高齢者がいる世帯では、サービス中止で状態や病状の悪化、認知症の進行、身体機能の衰えによる転倒リスクの高まりなどが起きています。家族の負担が増えることで家族関係が悪化し、虐待につながらないか懸念する報告もありました。
多くの事業所が新規受け入れを断るなか、これまで介護を利用していなかった人で最近健康状態が悪化した人がどうなっているのかも心配です。
サービス別の影響を調べたところ、特別養護老人ホームでは、面会や外出の制限で入所者のストレスが非常に強まっていることが分かりました。
週2回のデイサービスがまともな食事や入浴の機会になっていた利用者にとって、デイの中止は生活の質の低下に直結しています。
支援に支障
ケアマネジャーは、サービス利用を中止した利用者の対応やサービスの調整に日々追われています。
訪問介護は移動が多く、自宅でのサービス提供になるため、ヘルパーの感染リスクが高まります。国は、デイサービスの利用を中止した人に訪問でフォローをといいますが、そもそもヘルパーは不足しており、また感染リスクが高い高齢のヘルパーが多く、簡単にはいきません。
日用品の買いだめによって、ヘルパーの買い物支援ができなくなっているとの報告もあります。ヘルパーが品物を求めて何軒もお店を回ったり、長いレジに並んだりすると、買い物だけで時間が終わってしまい、掃除や洗濯ができない事態も生じています。
いまはなんとかしのいでいますが、長期化したらとても踏ん張り切れない。大方の事業所で、事業の存続自体が難しくなるという危機感を多くの職員が感じています。地域の事情を聞くと、これまで地域の介護を支えてきた小規模事業所が危機に陥っています。
国には、減収に対する補てんや膨らんでいる経費に対する助成など、事業所が抱えている困難を打開する施策をぜひ打ってほしい。衛生材料の手配も不可欠です。
制度見直せ
介護保険制度は、介護の給付費を見込んで介護保険料を徴収する仕組みです。介護報酬が事業所に渡らないということは、その分が市町村の介護保険財政に積み上がっていくことになります。過去の給付実績に基づいて介護報酬という形で事業所に給付するよう国が指示することも考えられます。
そのうえで、介護保険制度そのものの全面的な検証と抜本的な見直しが必要です。介護事業所は、低い介護報酬によって人手不足や経営難に苦しんできました。そこに新型コロナ問題が起きたことで、地域の介護サービス基盤が致命的なダメージを受けようとしているのです。介護報酬や給付費の抑制路線を転換すべきときです。