2020年3月26日(木)
主張
東京五輪の延期
憲章の理念に立ち返ってこそ
2020年夏に予定されていた東京五輪・パラリンピックを1年程度延期し、21年夏までに開催することが決まりました。安倍晋三首相と国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が24日夜の電話協議で合意し、その直後のIOC理事会で正式に承認されました。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けたものです。120年を超える近代五輪の歴史をみると、戦争で中止したことは過去に複数回ありますが、延期となるのは初めてです。
選手の声と世論が動かす
新型コロナウイルスの感染が世界で深刻な広がりを見せる中、20年夏の開催の見直しを求める声が各国の選手や競技団体を中心に急速に高まっていました。ところが当初、IOCも東京五輪組織委員会(会長・森喜朗元首相)も、中止や延期は考えていないと繰り返すだけでした。そんな中、多くの競技の五輪予選が中止や延期になり、代表選考ができない状況が続き、欧米などでは選手たちの練習もままならなくなっていました。
選手や競技団体の厳しい批判の強まりとともに、通常開催した場合、東京五輪への選手団見送りを表明する国も生まれました。IOCは22日の臨時理事会で、延期を含め検討するとし「4週間以内」に結論を出すと方針を転換し、その2日後に「1年程度延期」を急きょ決めたのでした。選手の声と国際世論が事態を動かす大きな原動力になったことは明らかです。
選手たちの気持ちは、自分たちの問題だけにとどまりません。新型コロナウイルスの感染拡大という人類が直面している課題に心を寄せ、「いま五輪よりも深刻な問題がある」「人道的な観点を第一に」などという訴えがありました。
五輪憲章は、オリンピズムの根本原則の目的に「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである」と掲げています。また「社会的な責任、さらに普遍的で根本的な倫理規範の尊重を基盤とする」ともうたっています。
この原則に照らせば、選手やスタッフ、ボランティアをはじめ観客の健康を危険にさらし、世界に感染を広げる結果を招くような五輪の開催はありえません。「1年程度」たってからの感染状況についての予測は非常に困難ですが、つねに五輪憲章の根本原則に立ち返った姿勢を貫くことが必要です。
一方で延期は、選手に新たな負担をもたらすことをはじめ難題が山積しています。33競技分の会場を改めて確保し、それを維持する費用が必要になります。大量の宿泊先を一度キャンセルし、再確保することも迫られます。ボランティアの確保、販売したチケットの扱いなど国民が納得できる対策を丁寧に行うことが不可欠です。
国民の納得と透明性を
東京五輪をめぐっては新国立競技場の総工費高騰など多額な費用が問題になってきました。国の五輪支出について会計検査院が問題視した経過もあります。新型コロナウイルス感染拡大で日本経済と国民生活が危機にある時、五輪延期による新たな負担増や、延期による経済的損失のツケを国民に押し付けることは許されません。運営や費用の透明性確保をはじめ、国民による検証と監視を強めることが一層重要となっています。