2020年3月22日(日)
主張
羽田新ルート
危険な都心低空飛行は撤回を
羽田空港(東京国際空港)の国際便を増やすため国は新しい離着陸ルートを29日から運用しようとしています。東京都心や川崎市の上空を旅客機が低空飛行します。騒音被害や事故、落下物の危険があり、新ルート下の住民が反対運動に立ち上がっています。新ルートの撤回こそ必要です。
政府の想定を上回る騒音
国土交通省は、南風時、北風時のそれぞれで新ルートを設定し、1時間当たりの国際便の発着回数を現在の80回から90回に増やすとしています。南風時は、国際便が集中する午後3~7時の時間帯に埼玉県南部から都心上空を降下し羽田に着陸します。
1月末から2月12日に行われた試験飛行では政府が想定した最大値を上回る騒音(速報値)が測定されました。東京都品川区、港区などで地下鉄車内並みの80デシベル超、川崎市で会話がほとんど不可能とされる90デシベル超が記録されました。品川区内では東京タワーより低い約300メートルの高度を飛行機が通過しました。住民から「保育園の子どもが泣きだした」「飛行機の腹が見えた」との実態が寄せられました。飛行機から部品や氷塊が落下する不安も広がっています。
羽田空港の増便は、安倍晋三政権が「成長戦略」で打ち出した政策です。首都圏空港の発着容量を世界最高水準の年間約100万回に拡大することが目標です。羽田では2020年に発着容量を年間約4万回増やします。
国交省は広報資料「羽田空港のこれから」で、増便によって「アジアの都市との競争を勝ち抜き、世界中からヒト・モノ・カネを東京に呼び込みます」と述べています。多国籍企業を呼び込むことが主眼です。「豊かな生活を実現していくため」とも言いますが、住民を危険にさらして豊かな生活も経済成長もありません。騒音や事故の危険を避けて空港を郊外に移すのが世界の流れです。容量が限界に達している羽田で発着を増やすなど逆行しています。
国が騒音軽減を理由に滑走路へ降下する角度を世界標準の3度から3・5度へ引き上げたことにはパイロットや航空会社の国際組織が危険な急角度だとして懸念を表明しています。東京西部などに広がる米軍管理の「横田空域」を避けることが本当の理由ではないかとの指摘に国交省は答えません。
渋谷、品川、港区議会は新ルートの見直し、再検討を求める決議や意見書を採択しています。各地で住民が「反対する会」「考える会」を結成し、品川区では新ルートの賛否を問う住民投票実現に向けた運動が起きています。
住民の声に耳を傾けよ
安倍首相は昨年の施政方針演説で「地元の理解を得て」増便を進めると明言しました。政府は都や特別区長会の意見をもって「理解を得た」として、住民の反対を無視する構えです。住民団体は「地元の理解を得ぬままのスケジュールありきの計画推進」だとして運用の見合わせを国交省に申し入れています。19日には超党派の国会議員が、住民の理解が得られていない新ルートの運用開始を見送るよう国交省に求めました。新型コロナウイルス感染拡大にともなう国際線の減便によって29日から新ルートを運用しなければならない理由はなくなりました。国は住民の声に耳を傾けるべきです。