2020年2月5日(水)
きょうの潮流
帰ってくるものと思うな―。制服で航海に出るとき、家族にそう言っていたそうです。18歳で入隊して以来、国の一大事には命をはってたたかうつもりだった。元自衛官が以前本紙に語っていました▼映画「シン・ゴジラ」に登場した海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」が中東に向けて出航しました。大義もなく、あいまいな根拠のもと不測の事態への懸念を抱えたまま、およそ200人の生身を乗せて▼名目は「調査・研究」。日本に向かう船舶の安全を確保するため情報を集めるといいます。安倍首相は「国民生活に直結する極めて大きな意義を有する」と強調し、政府も独自のとりくみとしています▼しかし実態はどうか。情報集めの目的は定かでなく、「有志連合」に加わらずといっても、すでに海自の隊員が米海軍の司令部に詰めています。トランプ政権からの強い要請がきっかけだった経過をみても、今回の派遣が米軍と一体の行動なのは明らかです▼米国と敵対するイランが自衛隊をその一員とみなす危険が常につきまとう活動。さらに期間の長期化も示唆されています。まともに論議もせず緊迫の渦中に送り込む。すべてに無責任な政権の姿勢そのものです▼「何が起きるか分からない。無事に戻ってきてほしい」。命を守れの抗議のなか、見送りには身を案じ、涙を流す大勢の家族の姿がありました。何のため、誰のため、渦巻く不安や疑問。冒頭の元隊員はみずからの責任を口にします。「後輩たちに代わって、自分が声をあげる」