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2020年1月31日(金)

シリーズ大学入試「改革」

高校生個人情報の管理先に――ベネッセの影

公表住所に事務所存在せず

 主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度を―。大学入試でこんな「主体性」を評価するとして、e―ポートフォリオという活動報告書が高校現場にもちこまれています。資格や検定、部活動、学校行事などを、高校生自らがネット上に書き込む方法です。ところが、そのデータを管理する一般社団法人教育情報管理機構を訪ねてみると…。(染矢ゆう子)


写真

(写真)教育情報管理機構の所在地とされるビル=東京都千代田区

 大学入試の出願や合否判定に活用するために、高校生が学校内外の活動を記録するのが「e―ポートフォリオ」です。そのデータは「JAPAN e―ポートフォリオ(JeP)」に蓄積されます。登録は、2017年10月から始まっています。

 このシステムは、関西学院大学などが文部科学省の委託を受けて、16年度から3年かけて開発。19年4月1日に設立した一般社団法人教育情報管理機構(以下、機構)が、同日から文部科学省の許可を受けて、運営を引き継いでいます。

 ネット上などにある機構の住所は、東京駅に近いタワービルの10階になっています。同ビルの受付を訪れてみると、10階フロアの案内板にあるのは「関西学院大学丸の内キャンパス」はじめ大学の名前など。機構の名前はどこにもありません。

 受付で訪問を告げると、電話はつながりましたが「(今、事務所には)誰もいない」とのこと。こちらの連絡先を告げると翌朝、同大学の職員を名乗る人物から、電話がかかってきました。

 この職員(学長室専任参与)によれば、関西学院大学が機構から事務委託を受けているとのこと。機構の部屋はこのビルにはなく、もちろん常駐の職員もゼロ。事務を委託された同大学職員の数は4人。うち機構から給与をもらう専従職員は1人のみで、会長の山崎光悦金沢大学学長はじめ、理事の給与はゼロとのことでした。

 調べてみると、大学入試改革をビジネスチャンスとする大手教育関連会社ベネッセ“丸抱え”の実態が見えてきました。

国が許可 ベネッセ“丸抱え”JeP

個人データを企業が蓄積?!

目的外での使用も可能に

 「JAPAN e―ポートフォリオ(JeP)のシステム保守や更新など、運営をサポートするのはベネッセです」

 こう話すのは、JePを運営する教育情報管理機構(以下、機構)から事務を委託された、関西学院大学の職員(学長室専任参与)です。「JePのデータは協力会社のセンターにあり、私たちの指示がないとベネッセはデータに触れないし、見れません」

 予備校講師で「入試改革を考える会」の吉田弘幸さんの調査によれば、JePのサーバーを管理するドメイン登録者はベネッセインフォシェルというベネッセが90%出資した子会社でした。吉田さんが今月24日に、ツイッターでその画像を発信すると、その日のうちに情報が更新され、ベネッセ子会社の名前が消され、機構名になりました。(写真)

 ベネッセの名前は、大学入試「改革」でたびたびあがっています。文部科学省の担当部署に、JePのドメイン登録者がベネッセインフォシェルであったことを伝えると、「機構からはサーバーの会社はどこにあるか、お答えできないと聞いている」と答えました。

不都合な事実?

 吉田さんは「ベネッセの子会社の名前が隠されたことは、不都合な事実だったのではないかと疑念がわきます」と話します。

 JePは、ベネッセの模擬試験などを利用したときのID、もしくはベネッセに高校が「学校名、氏名、クラス、出席番号、誕生日」の情報を提供して発行したIDがなければ使えません。「怖いのは高校生のデータがベネッセに蓄積すること」と話すのは、東京都内の私立高校教員です。

 高校生がベネッセのIDでJePに入った場合、本人が記入したデータを「JePと連携して保存する」にすれば、ベネッセにも同じデータが自動的に蓄積されます。「国が運営を許可した機構が、一企業の情報収集を同時に行っていることは問題です」と同教員。

 大学の合否についてベネッセに情報提供を行う「同意書」を生徒に提出させる高校もあります。「高校生が記入する個人情報が大学の合否と紐(ひも)づけられれば、さらに詳細な大学合否判定ができるデータが作成でき、ベネッセが営業に利用できます。高校から言われれば、保護者も子どもも信用してしまう。汚いやり方です」

 文科省は、医学部の不正入試問題をきっかけとして、20年度の入学者選抜実施要項に「評価・判定に用いない情報を入学志願者に求めない」との文言を入れました。

 しかし、JePでは高校生が書き込んだ内容が、入試以外の目的で使われる危険性があります。元高校教員で上田女子短期大学講師の小池由美子さんは、都内のある私立大学の入試意見交換会に参加した時、キャリアサポートセンター長に「高校3年間の教育活動のデータはほしい。大学4年間と合わせて7年間のデータがあれば、マッチングできる企業を選べる」と言われました。

 前出の関西学院大学職員によれば「入試要項に『合格後にJePを大学での参考情報として活用する』と公表してあれば、出願した時点で同意があるとみなされ」、大学によるJePの目的外使用が可能になるといいます。

 入試要項に記載さえすればJePに登録された入学志願者の個人情報を大学が別の目的で使うことができるのです。

 合格後に参考情報・統計データとして活用するため、JePの提出を求めると公表する国公私立大学は現在7大学です。

あり方見直しを

 文科省が定めたJePの運営許可要件はプライバシーマークの取得または、情報セキュリティーマネジメントシステムの認証(ISMS認証)ですが、機構はどちらも取得していません。

 文科省担当者は「機構は(プライバシーマーク等の)取得を準備している」と言います。しかし、プライバシーマーク取得の条件は、従業者が2人以上いること。ISMS認証を行う日本品質保証機構の担当者は「職員がゼロだと、審査する条件はありません」と言います。職員がいない教育情報管理機構はどちらの取得条件も満たしません。

 前述の教員はいいます。「実態がなく、文科省の運営許可要件さえ満たさない団体に全国の高校生の個人情報を管理する資格はありません。国は運営許可を取り消すとともに、『主体性の評価』を重視するとした入試のあり方そのものを見直すべきです」

図

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