2020年1月10日(金)
きょうの潮流
箱に身を隠し、出国の保安検査をかいくぐり、プライベート機で海外へ。入念に用意し、軍特殊部隊の元隊員らが付き添う計画は人も金もふんだんに使った大掛かりなものでした▼スパイ映画のような逃亡劇。特別背任罪などで起訴され、保釈中のカルロス・ゴーン被告が不法に出国してレバノンに逃げました。そうまでして何を訴えたかったのか。注目された記者会見でくり返したのは日本の司法制度への批判と、みずからの正当性でした▼正義から逃げたのではなく、不公正と迫害から逃げたのだ―。無実を主張し、日産幹部や検察の陰謀だと批判しながら、それを明らかにする証拠は示さず。なによりも、そこまで自分が正しいというのなら、なぜ正々堂々と裁判でたたかわないのか▼会社を私物化していたというゴーン事件。背景からはカリスマ経営者ともてはやし巨額の報酬を与え、不正を見逃してきた日産の体質もみえてきます▼「改革」と称して断行したことは工場の閉鎖と大量の首切り。グローバル化をおしすすめ、より賃金の安い国で海外生産を拡大していきました。労働者や安全を犠牲にして利益を上げる企業の姿は今も変わりはありません▼それにしても拘置所から出てきたときも変装していたゴーン被告。どこか後ろめたいのか、それとも己の蓄財にまとう労働者の汗と血に恐れおののいたか。ルールなき資本の強欲さ、貧富の格差、働くものの人権さえ奪う経営…。その象徴ともいえる人物や企業に“正義”を語れるのか。