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2019年12月6日(金)

きょうの潮流

 世界でもっとも貧しい国で、自分の持っているものをすべて注いでその国の人たちのために尽くしている―。井上ひさしさんは、よく講演で尊敬の念をこめてこの人物を紹介していました▼ハンセン病をはじめアフガニスタンで献身的な医療活動をつづけてきた中村哲さん。支援地に向かう途中で銃撃され、現地では無分別な犯行への怒りと“真の友人”を失った悲しみがひろがっています▼そこの実情を知り、住民がほんとうに困っていることに手を差し伸べるのが支援。丸腰のボランティアの信念は医師の枠をこえました。水不足によって多くの命が失われている現実を前に、白衣を脱ぎ、メスを重機のレバーに代えて大地の医者に▼1600もの井戸を掘り、全長30キロ近い用水路をひらき、不毛の地は広大な農地となって数十万の人びとに恵みをもたらしました。命を奪う地雷を命をつなぐ掘削に利用して。「ゼンダバード!(万歳)」の歓呼は各地であふれました▼「有害無益」。2001年、同時多発テロの報復として米国がアフガンに爆弾を落としはじめたとき。国会に呼ばれた中村さんは、自衛隊の派遣に反対。十数年かけて築いてきた日本への信頼が一挙に崩れ去ってしまうと訴えました▼大好きな昆虫にかこまれ、ファーブルのような暮らしを夢見ていた中村さん。生きるものすべてに愛情を注いできた気骨の医師は世に問いかけます。「私たちが持たなくてもよいものは何か、そして人として最後まで失ってはならぬものは何か」


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