2019年11月13日(水)
きょうの潮流
赤く色づいた、いくつものリンゴが泥に埋まっていました。木にぶら下がったまま砂ぼこりにまみれた姿も。いつもならリンゴ狩りでにぎわう頃なのに、収穫の喜びも華やぎもありません▼大雨で千曲川の堤防が決壊し、一帯が泥水に沈んだ長野市北部の穂保(ほやす)地区。リンゴ畑がひろがる付近は土砂に覆われ、いまも電柱が倒れています。店が立ち並ぶ通称アップルラインには、がれきを積んだトラックが走っていました▼リンゴ農家の70代の夫婦は「もう、続けられない」。一本一本、手塩にかけて育てた成木は積もった泥のなかに立っていました。近くの避難所では寒さ厳しい冬の到来を前に「早く自宅に帰ってゆっくり眠りたい」と話す被災者も▼まちや人びとのくらしをのみ込み、各地に深い傷痕を残した台風19号の上陸から1カ月。泥をかき出し、がれきや廃棄物の片づけに追われる日々。ボランティアなどの支援はあるものの、今後の不安のなかで、被災者は心身ともに疲弊しています▼いまだに道路が寸断され孤立状態にある集落や、住民の集団移転を検討している町も現れています。相次いだ台風による被害や農林水産業にあたえた損害は甚大で、全容さえつかめていない状況です▼被災のありさまは地域や一人ひとりそれぞれです。なんとか生活を立て直そうとしている被災者に寄り添い、希望を届けることが政治の役割のはず。新時代だと浮かれている場合ではありません。安心できる営みがあってこそ国の繁栄もあるのですから。