2019年10月18日(金)
鼓動
五輪 マラソン・競歩会場変更
選手第一に見直しを
国際オリンピック委員会(IOC)は16日、猛暑が懸念されている2020年東京五輪のマラソンと競歩の会場を札幌に変更する提案を発表しました。
五輪のマラソンが開催都市以外で実施された例はありません。大会まで10カ月を切った時点の変更とともに異例ながら、選手の健康と体調管理を第一に考えた提案に踏み切ったことは評価できます。
本紙はこの間、専門家の指摘を示しつつ、真夏開催という時期の変更に加えて、少なくともマラソン・競歩で、日陰が多く風通しのよいコースに見直すことなどを求めてきました。
ドーハ契機に
この時期の変更となったきっかけは9、10月の世界陸上(ドーハ)にあります。
マラソンや競歩は深夜スタートにもかかわらず、暑さで棄権者が続出しました。スタート時点で気温32度、湿度74%の女子マラソンは68人中28人が途中棄権し、完走率が60%を切りました。過酷な条件下の競技に「二度とこういうレースは走らせたくない。昼やっていたら死人が出たのでは」と憤る指導者がいたほどです。
今年の東京は五輪開催予定の17日間中、35度を超える日が6日間あり、湿度は80%前後で推移。「暑さ指数」(WBGT)で「運動は原則中止」となる日も14日間ありました。スタート時刻を繰り上げてもドーハと同様の事態になることが懸念されていました。
そもそも7、8月に夏季五輪を開催するのは、IOCが巨額の放映権料を払う米テレビ局の要求を最優先しているからです。IOCは、東京だけでなく今後の夏季五輪を考える上で、この問題に正面から向き合うことが不可欠です。
組織委対応も
この間の組織委員会の対応も不十分でした。とくに競歩は選手から「ほぼ日陰がなくて脱水になってもおかしくない。可能ならコースを再考してほしい」と変更を求める声が上がっていながら、変更の検討には消極的でした。選手第一の運営が貫かれていない問題が露呈した形です。
IOCの新提案についてトーマス・バッハ会長は、「選手の健康と良好な体調は常に私たちの懸念の中心にある。マラソンと競歩の会場を移す新しい提案は、そのような懸念を真剣に受け止めていることを示している」と説明しました。
新提案は30日から東京で開かれる調整委員会で議論されます。会場変更に伴うさまざまな困難や課題があったとしても、選手が良好な状態で競技に臨める環境を整えることが最優先されなくてはなりません。
さらにマラソンと競歩に限らず、すべての屋外競技についても、この点を中心にすえた見直しを議論するべきです。(青山俊明)