2019年9月7日(土)
主張
障害者雇用
権利条約順守し労働の安定を
官公庁が障害者の雇用数を偽装・水増ししていた問題の発覚から1年が過ぎる中、厚生労働省が先月末、国の障害者雇用状況を発表しました。中央省庁や裁判所の全職員に対する比率は2・31%で、義務付けられている「法定雇用率」の2・5%を下回りました。44機関のうち約4割にあたる17機関で基準に届きませんでした。国は年内に法定雇用率を達成する方針を掲げています。雇用率の達成だけではなく、障害者が職場に定着できるよう適切な配慮や措置を取ることが求められます。
働く機会奪った責任重大
国が昨年10月以降、新規雇用した障害者は3444人で、6月1日現在の雇用障害者数は7577人です。新規雇用のうち161人が6月までに離職しました。理由として体調悪化を挙げた人が31・7%と最も多く、職場環境と答えた人も12・4%いました。
水増し問題を受けて実施された国家公務員の統一選考試験(2月)には、676人の採用枠に対し約7000人が受験しました。10倍超という競争率からも、多くの障害者が就労を希望していることは明白です。障害者雇用について模範を示す立場の国が少なくとも20年以上にわたり、28機関で雇用数を偽装し、障害者の働く機会を奪ってきたことは重大です。
国が不正に「障害者」として算定したのは3700人分にも上り、省庁全体の実際の障害者雇用率は法定雇用率の半分の1・18%でした。地方でも3800人超の雇用水増しがありました。
障害者団体は、偽装の背景に“障害のある人は手がかかる”などの偏見や無理解があると指摘しました。「障害者は役に立たない、価値がない」といった優生思想につながる危険もある問題です。
「官製による障害者排除」との批判が上がり、国は昨年9月、第三者による検証委員会を設置しました。しかし、委員の中に障害のある当事者は入らず、報告書は、長期間にわたり大規模に雇用数を偽装していた理由について解明しませんでした。報告書に基づき、安倍晋三内閣が決めた基本方針も実効性の乏しいものでした。
障害者雇用促進法は、障害者差別の禁止と、障害者が働く際に個々の障害に応じて措置を取る「合理的配慮の提供」を義務付けています。官公庁の障害者雇用数の偽装を受けて先の通常国会で、改正障害者雇用促進法が全会一致で成立しました。国が率先して障害者を雇用する責務を明確にし、国の機関による障害者雇用の偽装を再発させないための対策などが盛り込まれました。
国や地方機関はあらためて、「障害者でない労働者との均等な待遇の確保」のために事業主がとるべきとされる同法の指針について、順守することが肝要です。そのためにも障害者の雇用と福祉を関連付けた施策が欠かせません。
合理的配慮の提供が重要
障害者権利条約は、障害者を受け入れ、障害者の人権と基本的自由を完全に実現することを締約国に義務付けています。同条約27条では、労働に関する障害者の権利が実現することを保障、促進するよう締約国に求めています。
障害者の労働と雇用を安定させるためにも、環境整備だけでなく個々の事情に応じて合理的配慮を提供することが重要です。