2019年9月2日(月)
シリーズ共闘の力(6)
尊厳守る 二つの源流
日本共産党が国政選挙での共闘を決断した背景には、新しい市民運動と「オール沖縄」のたたかいという「二つの源流」がありました。
共に立ち向かう
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8月22日、翁長雄志前沖縄県知事を「偲ぶ会」が豊見城市内で行われました。翁長氏は、保革の違いなどを乗り越え、沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設反対で一致する「オール沖縄」の中心の一人でした。2014年11月の県知事選で当選し、昨年8月に急逝するまで新基地建設阻止へ全力で奮闘しました。
「私たちは本当に日本人として見られているのか。『魂の飢餓感』という翁長前知事の言葉は、抑制的な表現だ」―。「オール沖縄」の金城徹元那覇市議会議長は語ります。金城氏は元自民党那覇市議です。
「米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落しても、警察も消防も追い出され米軍が規制線を張る。裁判そのものもゆがめられている。安保は憲法より上にある。保守として使いたくない言葉だが、沖縄が置かれた現状は本質的に植民地ではないですか」
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金城氏は、「沖縄の『宗主国』は二つ、日本政府とアメリカ。巨大な敵に立ち向かうとき、これ以上基地はつくらせないという一致できる点は一致したほうがいい」と、「オール沖縄」の原点を指摘。長い保守と革新の対決の歴史から、手を結ぶことに「整理しきれない気持ちはあった」としつつ、「オール沖縄の求心力は、まさに腹八分、腹六分だ」と述べます。「保守は革新に敬意を持ち、革新は保守に敬意を持ち、お互いに尊敬しあう関係になっていきましょう」と呼びかけた翁長前沖縄県知事の言葉につながります。
市民目線が力に
もうひとつの源流は、2012年3月に始まった原発ゼロを目指す官邸前行動に端を発する新しい市民運動です。安倍政権による集団的自衛権行使容認の「閣議決定」(14年)、安保法制=戦争法に反対する運動は、空前の高まりをみせました。
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「安保関連法が国会で審議されていた2015年7月、『だれの子どももころさせない』をスローガンに、安保法制への不安、恐怖、怒りで『ママの会』は始まりました。それまで市民運動にかかわったことのない人たちも参加する運動として、国会前に来れなくても、地元で活動を行って、地方、地域でどんどん広がりました」
「安保関連法に反対するママの会」の長尾詩子さんはこう語ります。
「オール沖縄」と市民と野党の共闘は、7月の参院選へ向けた13項目の共通政策で大きく結合しました。
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「ママの会」の長尾さんは「参院選での共闘の要となった13項目の共通政策の第4項目に、辺野古の新基地建設は『直ちに中止』と入りました。最賃1500円や消費税10%増税反対も入りました。これは市民感覚では当然です」と指摘。「ただ今まで政党側の足並みが市民感覚に追いつかず、合意に至らなかったところも、きゅっと入れて13項目合意ができた。それをベースに32の1人区すべてで統一候補を立てられたことはすごい」と振り返ります。
“市民目線”が、沖縄の基地問題を全国的な共通政策へと押し上げた大きな力でした。
市民の怒りと決起が出発点
野党連合政権の土台ここに
“オール沖縄”から“オールジャパン”へ
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「オール沖縄」の金城徹元那覇市議会議長は、米兵による少女暴行事件や沖縄戦で軍命による集団自決を歴史教科書から消そうとする動きなど、保守派としても「心を痛め、受け入れがたい事態」には、「県民総ぐるみで抗議してきた」と沖縄の歴史を指摘。さらに民意を無視した辺野古新基地建設強行のため、安倍政権と自民党本部がこれに反対する「沖縄県連」を変節、屈服させようとしてきたとき、分かれ道だったと言います。
2013年11月、自民党は沖縄選出の5人の国会議員に新基地建設反対(県外移設)の公約「撤回」の記者会見をさせたうえ、石破茂幹事長(当時)が乗り込んできたのです。最後には仲井真弘多知事(当時)が公約を裏切って辺野古の海の埋め立て承認を出します(同年12月)。
金城氏は、「このとき本土の自民党にのみ込まれるか、それとも県民の側に立つかが問われた」と強調します。金城氏は14年8月に自民党から除名されました。
「二つの源流」は、まさに市民、県民の声という共通項をもっています。沖縄でも本土でも、民意を無視した強権政治に対する市民の怒りと決起が、たたかいの出発点です。
金城氏は、「本土の共闘は『沖縄に学び、小異を捨て大同につく』というが、沖縄が置かれた崖っぷちの状況とは違う」と投げかける一方、「自民党が権力を集中させる動きに、本当に危機感をもって対処していくなら、野党共闘は唯一の救いになる」と語ります。
共通政策実現へ
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翁長雄志前知事の急逝を受けて昨年9月に行われた沖縄県知事選では、オスプレイ配備撤回・普天間基地の閉鎖撤去・県内移設反対などを掲げた2013年の「建白書」の実現を目指す、地域の市民組織「島ぐるみ会議」が大きな力を発揮しました。「島ぐるみ会議という草の根の力が、本島の全ての市町村と離島の数カ所の、全県31市町村に広がった。オール沖縄の力も前進している。市民との共闘の力です」
日本共産党沖縄県議団長の渡久地修さんはこう語ります。
渡久地氏は続けて「もう一つの大きな歩みは、野党共闘の全国への広がりです。これは決定的です。特に今度の参院選は沖縄にとって意義のあるものでした。13項目の共通政策には、辺野古新基地建設の中止などが入り、いわばオール沖縄がオールジャパンに前進することになった。この共闘が今後の選挙で勝利することによって、共通政策が実現する」と語ります。
強力なサポート
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「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)呼びかけ人の中野晃一上智大学教授は、野党連合政権を視野に、市民運動の課題を語ります。
中野氏は「安倍首相が盛んに攻撃する民主党政権は、市民社会に深い土台を持つことなく、いわば風が吹いたという形で政権についた。しかも政権につくと東日本大震災、原発事故など難しい状況が起き、政権基盤が大きく揺らいで、自民党や官僚制の反撃にあって崩れてしまった」と指摘します。
2009年成立の鳩山政権は、沖縄の米軍新基地建設問題で「県外・国外移設」を掲げましたが、米国や防衛・外務官僚とマスメディアから総攻撃を受け、結局「辺野古移設」を容認。
その後、原発再稼働や消費税増税、TPP(環太平洋連携協定)推進など、自民党政治と変わらぬ道に陥って、政権は崩壊しました。
中野氏は、「政権交代すればすぐに厳しい状況が来る。そのとき耐え抜くためには、市民社会に強力なサポートがなくてはどうにもならないというのが民主党政権の教訓でもある」とし「次に政権交代を目指すのであれば、市民社会にきちんと足腰が座った立憲野党の連合による政権交代だ。市民の声を土台に、その声を届けるための政権構想をつくっていくことこそ重要だ」と強調しました。
「安保関連法に反対するママの会」の長尾詩子さんはこう語ります。「私たちの原点は『だれの子どももころさせない』です。この4年間で3回選挙をたたかって、成果もあげてきました。けれども、安保関連法はまだ廃止されていませんし、安倍首相は9条改憲を持ち出しています。安保法制の下で、装備もどんどん拡大強化されている自衛隊を憲法に書きこもうというのです。絶対に許せません。私たちの運動がより求められています」