2019年8月20日(火)
主張
内定辞退率の販売
プロファイリングを規制せよ
インターネットの普及によって個人の生活パターンや交友関係、趣味嗜好(しこう)、思想信条に関わる情報を営利企業が握る社会になっています。分刻みの位置情報やサイトの閲覧履歴、ネット通販での購買履歴、交流サイト(SNS)での通信履歴などです。そうした膨大な個人情報を流用してもうけるビジネスの横行を示唆する、深刻な問題が起こりました。
説明も同意もないまま
就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア社が、サイトに登録している学生の閲覧履歴などをもとに人工知能(AI)が推計した「内定を辞退する可能性(内定辞退率)」を38社に販売していました。5段階のスコア(得点)で内定辞退率を示し、1社あたりの利用料は400万~500万円でした。
同社は、採用試験の合否判定に使わないと約束した企業にのみ内定辞退率のスコアを提供したと釈明します。しかし確かめるすべはなく、合否判定に使った企業があることも判明しています。
学生は説明を受けていませんでした。目を皿にしてリクナビの利用規約(プライバシーポリシー)を読んでも、自分が採用試験を受ける企業に内定辞退率のスコアが提供されることはわかりません。行動履歴などを分析して「採用活動補助のための利用企業などへの情報提供」を行うと抽象的に書かれているだけでした。
リクルートキャリアはこの利用規約で学生の「同意」を得ていたと主張しますが、無理があります。個人情報保護法のガイドラインは同意のとり方について、同意の「判断を行うために必要と考えられる合理的かつ適切な方法によらなければならない」と定めています。内定辞退率について説明しないまま「同意しろ」といっても、できるわけがありません。
あいまいな利用規約への「同意」を拡大解釈し、個人情報を不正に扱って金もうけなどの手段にしていないか。データを蓄積するすべての企業が問われる事態です。
閲覧履歴や購買履歴などの個人情報をコンピューターで自動的に分析して人物像を推定し、選別する手法は「プロファイリング」と呼ばれます。リクナビの問題はプロファイリングの危険性を典型的に示すものです。不正確で不十分な情報に基づき、自動処理で人間を評価すれば、不公正な差別がまかり通る社会になります。
欧州連合(EU)が昨年施行した一般データ保護規則(GDPR)はプロファイリングへの規制を定めています。個人はプロファイリングなどの自動処理だけで決定されない権利を持ち、プロファイリングなどのデータ処理に対して異議申し立て権を行使できます。個人データの管理者に対し自分のデータを遅滞なく削除させる権利(忘れられる権利)も持ちます。
情報の自己決定権保障を
安倍晋三政権は来年の通常国会で個人情報保護法を「改正」する計画です。しかし日本企業のデータビジネスを後押しすることを成長戦略の要と位置づけており、個人の権利の拡充に消極的です。
個人情報が本人の知らないところで使われ、本人に不利益を与えることがあってはなりません。プロファイリングへの規制や忘れられる権利を確立し、情報の自己決定権を保障すべきです。