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2019年8月5日(月)

きょうの潮流

 「重重」。写真展のタイトルには、彼女たちの顔に刻まれたしわと、心に積み重なった苦痛の重さが込められています。日本の人々に伝えたいと▼中国に残された朝鮮人日本軍「慰安婦」。韓国人の写真家、安世鴻(アン・セホン)さんは異郷で生きるおばあさんたちを訪ね、その写真を公開してきました。しかし以前、東京のニコン会場で予定された展示会が中止に。それをきっかけに市民有志が4年前に開催したのが「表現の不自由展」です▼そこに「その後」をつけた企画展が愛知で開幕した国際芸術祭の一つになりました。安さんの写真や「慰安婦」を象徴する少女像、公民館だよりに掲載を拒否された9条俳句をはじめ、これまで展示を拒まれたり、撤去された作品を並べました▼タブーとされがちなテーマの作品がいかに排除されたか。そこから表現の自由を考える意図でした。ところがテロ予告や脅迫が相次ぎ、わずか3日で打ち切る事態に▼芸術監督の津田大介さんは「安全管理上の問題がほぼ唯一の理由」だといいます。まさに展名を体現するような状況をつくり出す、今の日本をとりまく不穏な空気。政権や政治家の圧力もそれを醸成しています。高ぶる国民感情を鎮めるどころか、率先して敵意をむき出しているのですから▼表現者のみならず見る者にとっても失うものは大きいと安さん。表現の自由の担い手は送り手と受け手の双方。伝え、知り、感じ、思考する機会を奪われ、屈していく社会がどうなるか。私たちは経験しているはずです。


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