2019年8月3日(土)
核兵器禁止条約発効 一刻も早く
24カ国が批准、70カ国署名
市民社会後押し 核保有国を包囲
人類史上初めて核兵器を違法なものにする「核兵器禁止条約」が国連の会議で、122カ国の賛成で採択されて2年がすぎました。今その発効に向けて、各国の市民社会が政府を後押ししています。「核兵器のない世界」の実現を求める世論が核兵器保有国を包囲する一方で、保有国は自国の核兵器にしがみつき、最新鋭化を図っています。最大の保有国の一つである米国は、実際に核兵器を使用する戦略を捨てていません。一刻も早い核兵器禁止条約の発効が期待されます。
|
核兵器禁止条約を批准した国は7月31日現在24カ国、署名した国は70カ国になっています(表参照)。同条約は50カ国目の批准書が国連に寄託された後90日で発効します。
今年4~5月にニューヨークの国連本部で開かれた核不拡散条約(NPT)再検討会議第3回準備委員会で、核兵器保有5カ国(P5=米ロ英仏中)は改めて、核兵器禁止条約に反対を表明する共同宣言を発表しました。一方で、多くの国が核兵器禁止条約を認める立場を示しました。
同条約への署名、批准、発効を求める声は、米国をはじめとする保有国の中でも強まっています。
米国とロシアによる中距離核戦力(INF)全廃条約は、トランプ政権が破棄を決定。ロシアが義務履行停止を宣言して半年がたった8月2日に失効しました。同条約で廃棄された核兵器は約2700基ほどですが、一方で両国は新たな核兵器の開発を進めました。
核兵器保有国の思惑に沿った「軍縮」の限界はもはや明らかです。
核兵器禁止条約は核兵器を「非人道的」だとし、「開発、実験、生産、製造、取得、保有、貯蔵」とともに、「使用、使用の威嚇」も禁止。こうした活動を「援助し、奨励しまたは勧誘すること」も禁止するなど、あらゆる抜け穴をなくして、文字通り核兵器を全面的に禁止しています。
【核兵器禁止条約批准国】(2019年7月31日現在、24カ国)
ガイアナ、バチカン市国、タイ(17年9月20日)、メキシコ(18年1月16日)、キューバ(1月30日)、パレスチナ(3月22日)、ベネズエラ(3月27日)、パラオ(5月3日)、オーストリア(5月8日)、ベトナム(5月17日)、コスタリカ(7月5日)、ニカラグア(7月19日)、ウルグアイ(7月25日)、ニュージーランド(7月31日)、クック諸島(9月4日)、ガンビア、サモア、サンマリノ、バヌアツ(9月26日)、セントルシア(19年1月23日)、エルサルバドル(1月30日)、南アフリカ(2月25日)、パナマ(4月11日)、セントビンセント・グレナディーン(7月31日)
【同署名国】(同日現在、クック諸島を除く〈注〉批准国を加え70カ国)
アルジェリア、バングラデシュ、ブラジル、カボベルデ、中央アフリカ、チリ、コモロ、コンゴ、コートジボワール、コンゴ民主共和国、エクアドル、フィジー、ガーナ、グアテマラ、ホンジュラス、インドネシア、アイルランド、キリバス、リビア、リヒテンシュタイン、マダガスカル、マラウイ、マレーシア、ネパール、ナイジェリア、パラグアイ、ペルー、フィリピン、サントメプリンシペ、トーゴ、ツバル(17年9月20日)、ラオス(9月21日)、ジャマイカ、ナミビア(12月8日)、ボリビア(18年4月16日)、カザフスタン(3月2日)、ドミニカ共和国(6月7日)、コロンビア(8月3日)、アンティグア・バーブーダ、ベナン、ブルネイ、ギニアビサウ、ミャンマー、セーシェル、東ティモール(9月26日)、アンゴラ(9月27日)、カンボジア(19年1月9日)
注=クック諸島は署名せずに批准書を寄託
核弾頭減少も最新鋭化続く
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は6月に公表した2019年版年鑑で、核兵器の数は昨年より減ったとする推計を発表しました。
核不拡散条約(NPT)で核保有を「特権的」に認められた米英仏中ロと、インド、パキスタン、イスラエルが保有する核弾頭は、昨年の1万4465基から1万3865基に減りました。北朝鮮については、情報が不確実で世界の総計数に含まれていませんが20~30基保有しているとしています。
米ロ両国で計615基減らしましたが、SIPRIは「全ての保有国が核兵器の最新鋭化を続けている」と指摘しています。
米政権、核兵器使用辞さず
トランプ米政権は2018年2月に公表した「核態勢の見直し」(NPR)で、核使用の条件を緩和し、低爆発力の核弾頭の開発などによって、さまざまな状況に応じた核の選択肢を広げました。核をより「使いやすく」して「抑止力」を高めるというものです。
オバマ前政権が打ち出した「核兵器の役割を縮小する」という方針を大きく転換。米国が核兵器で攻撃されなくても、核兵器を使用することまでも明記しました。
トランプ政権は、こうした方針をさらに強化しています。米統合参謀本部が6月11日付でまとめた文書「核作戦」は「敵対者が核兵器にますます頼っている」と決めつけ、「核兵器は、決定的な結果と戦略上の安定を取り戻す条件を生み出しうる」「核兵器を使うなら、戦闘の領域は根本から変わり、司令官が紛争でどのように勝利するかを左右するような状況が生み出される」と「勝利」のために核兵器を使うと明言しています。
さらに「核戦争の範囲は戦術的な利用から…限定した地域的使用、友好国および/または敵対国による地球的規模での使用にまで広がるかもしれない」と表明。「限定核戦争」から全面核戦争までを見通した作戦行動への備えを提起しています。
限定的・戦術的な核使用をめぐっては、トランプ政権がNPRで打ち出した低爆発力核弾頭の開発のため、予算も要求しています。ただ民主党が多数派の下院では予算案から削除されています。
なお、この文書「核作戦」は統合参謀本部のホームページでいったん公表後、削除されました。米メディアによると、同本部は「部外秘」の文書だったからと説明しています。ただ同文書には「核緊急事態計画をつくることで、敵対国に対し、米国には核兵器を使う能力も意志もあるという重要なサインを送る」とも書かれています。この文書が意図的に公開された可能性も否定できません。
いずれにせよ、トランプ政権は、核兵器使用も辞さず、世界の世論に真っ向から背く姿勢を取り続けています。
|