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2019年7月26日(金)

政治考

1人区10敗 与党に衝撃

3分の2割り「勝利感ない」

図

 「痛かったのは1人区での敗北。秋田、岩手、山形、宮城の東北4県と滋賀と新潟。ことごとく接戦を負けた。当初から激戦と見込まれたが、衝撃的な結果だ」

 21日投開票の参院選結果について自民党議員の一人はこう述べます。

 市民と野党の共闘は各地で政権与党との大激戦の末、32ある参院選1人区で10勝という大きな成果をあげました。

総力投入したが…

 その結果、最大の焦点だった改憲勢力3分の2(164議席)を割り込み、「4議席」足りないことになったのです。2016年参院選での1人区で野党11勝の成果も土台になっています。

 自民党関係者の一人は、「『3分の2』のためには、これらの激戦区は絶対に取りこぼしの許されないところだった」と苦渋の表情をみせます。東北4県をはじめ、自民党自らが設定した「激戦区」での勝利が「3分の2」を維持できるか否かの分かれ目だったからこそ政権・与党は総力を投入したのです。

 公示日の4日以降、安倍晋三首相はこれら激戦区に2度入り、さらに政権と自民党の幹部を連続投入。徹底的なテコ入れ、組織の引き締めを図りました。

 菅義偉官房長官は各県に赴くと「まっすぐ創価学会に行く」(地方紙記者)と言われたように、公明党・創価学会との協力を最大限稼働させました。新潟では改憲・右翼団体「日本会議」系ジャーナリストの桜井よしこ氏が最終日の20日に、自民党候補の応援に登場。日本会議勢力も必死となりました。

 前出の議員は述べます。「あそこまでやって勝てなかった。『3分の2』を失った。勝利感はない」

 新潟の自民党県議の一人は、「党本部は、昨年の新潟県知事選、新潟市長選で野党共闘に一定の歯止めをかけた。“参院選で3度目の勝利をすれば共闘はつぶれる”―そう言ってあれだけ幹部がしゃかりきになって押しかけてきた」と語ります。「しかし、安倍さんは原発事故の問題でも、地方経済の問題でも人々に寄り添う人ではない。それで『憲法改正』と力んでも、保守の人たちには響かないし、動かせない」

「地殻変動起きる」

 別の自民党関係者は「野党統一候補は強かったということだ。新しい政治風土ができつつある。もともと自民党が強かったところで、地殻変動が起きている」と述べます。「東北では共闘は当たり前になりつつある」(地方紙記者)のです。

 激戦区の応援に入ったある自民党議員は、市民と野党の共闘について「共産党を軸にして完全に機能している」「共闘は16年のときより力を増している」と印象を語ります。

 安倍首相も各地の演説で、「野党統一候補、その中の強力な中核部隊が共産党だ」(13日、秋田県大館市)として、共産党に攻撃を集中。共闘にダメージを与えることを狙いました。しかし、そのもくろみはどこでも失敗に終わりました。

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(写真)声援に応える(左から)枝野、山田、小池の各氏=10日、福井市

 今回の選挙を通じて市民と野党の共闘が大きく発展しました。

 序盤の党首討論では、安倍晋三首相が、“野党共闘はバラバラ”と難癖をつけ、立憲民主党の枝野幸男代表に対し、日本共産党の公認候補で統一した福井選挙区をあげ、「福井に住んでいたら誰に投票するのか」と2回も同じ質問をしました。

 これに対し枝野氏は、「野党統一候補に投票する」ときっぱり。10日には福井を訪れ、生活破壊、民主主義破壊、憲法破壊から国民を守るという共闘の大義を太く語り、共産党の山田和雄候補の押し上げを熱く訴え。壇上で日本共産党の小池晃書記局長と握手を交わし、山田候補の手を上げると聴衆は大歓声で応えました。

統一候補で押す

 こうした中で、かつて共闘内で「共産党が来ると票が減る」などと言われる風潮も変わってきました。それは自民党側からも言われています。

 激戦区の応援に入ったという自民党議員は「野党共闘を見て一番感じることは、共産党に対するアレルギーはなくなっていることだ」と語ります。東北の応援に行ったという自民党関係者も「不思議なくらい共産党の『マイナスイメージ』の影響はなかった」と言います。

 選挙中盤には、5野党・会派で一本化した候補を、「野党統一候補」として押し出す動きが進みました。

 大激戦を勝ち抜いた滋賀選挙区では、嘉田由紀子候補(無所属)への支持を広げる中で、「無所属の嘉田由紀子」より「野党統一候補の嘉田由紀子」と押し出したほうが有権者の反応が良いという経験が語られました。

 国民民主党の徳永久志滋賀県連代表(元参院議員)は、「この傾向は滋賀にとどまらず、全国共通であることが分かった。ポスターやビラに『野党統一候補』と記名していないところでは、シールを貼るように中央選対が指示を出した。宣伝では『野党統一候補』と連呼している」と語りました。

有権者の共感が

 こうした動きを受け、日本共産党、立憲民主党などの5野党・会派間でも「野党統一候補」のシールを作成しました。野党が結束して立ち向かう姿に共感する有権者の感覚が、野党間の結束を強める方向に作用したのです。

 各地で各党代表が並び立つ街頭宣伝が開かれ、「安倍1強」に対抗する市民と野党の共闘は、「本気の共闘」を強めていきました。

 21日の開票経過を見ながらの中継で、立憲民主党の枝野代表は、共闘の効果が示されたとしたうえで、次期衆院選挙への展望を聞かれて次のように述べました。

 「今回の5党・1会派の枠組みをしっかりと生かして、しっかりとこういう連立政権を組みますというような姿を私の責任で示していく」(テレビ東京)

 本気の共闘への発展から、連立政権合意も視野に共闘を進める姿勢を示したのです。

 日本共産党の志位和夫委員長は、枝野氏の発言を受けて「大変重要な発言です。総選挙ということになると、政権の枠組みということがどうしても問われてきます」とし「政権問題についての前向きの合意を得るための話し合いをぜひやっていきたい」と述べました。

 (中祖寅一)


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