2019年6月6日(木)
個人の尊厳とジェンダー平等のために
差別や分断をなくし、誰もが自分らしく生きられる社会へ
2019年6月5日 日本共産党
日本共産党が5日に発表した「個人の尊厳とジェンダー平等のために――差別や分断をなくし、誰もが自分らしく生きられる社会へ」は次の通りです。
今度の参議院議員選挙は、各党に候補者を男女同数とする努力義務が課せられた「政治分野における男女共同参画法」が施行されて初めての国政選挙です。ジェンダー平等社会をどのように実現するのか、誰もが尊厳をもって自分らしく生きられる社会へ、どうすすんでいくのかが、問われています。
「性暴力やハラスメントを許さない」「女性をモノ扱いしないで」と声をあげる女性や若者たちの運動が起きています。勇気をもって声をあげた人たちを孤立させてはいけないと、#MeToo、#WithYouの波が日本でも広がってきています。性の多様性を認め合い、性的マイノリティへの差別をなくし尊厳をもって生きることを求める運動も、年々大きくなっています。日本社会にとって大きな希望がある動きです。
その一方で、性暴力やセクハラ被害を告発した女性へのバッシング、医科大での女子受験生減点、女子大学生を性的にランク付けする週刊誌記事など、許しがたいことが起きています。
声をあげた人を決して孤立させず、また、声をあげられずに苦しんでいる人たちの痛みを自分の痛みとして、ともにたたかいたい。
その決意を、この提言に込めました。
一人ひとりが大切にされ、誰もが自分らしく生きられる社会をめざして、ご一緒に力を合わせましょう。
1、ジェンダー平等社会(性差による差別のない社会)を推進します
男女平等のレベルを示す「ジェンダーギャップ指数」で、日本は149カ国中110位です。世界の国々の努力にも学んで、ジェンダー平等社会へと変えていきましょう。
(1)男女賃金格差の是正をはじめ、働く場でのジェンダー平等を確立します
男性の正社員にくらべて、女性の正社員の賃金は7割と大きな格差があります。女性の約6割がパートや派遣などの非正規労働者として働いており、正社員との不当な格差や差別が女性の低賃金、男女格差につながっています。
“女性は残業や転勤ができないから責任ある仕事はさせられない”という理屈で差別が正当化されています。働く場でのジェンダー平等は、誰もが働きやすく、生きやすい社会にしていく大きな力になります。
男女の大きな賃金格差を容認している法律を改正します
○女性も、男性も、同じ仕事なら同じ賃金――「同一価値労働・同一賃金」の原則を、労働基準法、男女雇用機会均等法、労働者派遣法、パート労働法など、関係法令に明記します。
日本の労働法には、ILO(国際労働機関)条約で定めている「同一価値労働・同一報酬」の大原則が明記されていません。日本政府は、「均衡をはかる」などと「努力すればいい」ですませています。関連する労働法に均等待遇=同一価値労働・同一賃金を明記します。
○男女の賃金格差を企業ごとに公表するように、女性活躍推進法を改正します。
女性活躍推進法では、男女の賃金格差を「企業が任意に把握する」としているだけです。これを改正して、企業が男女の賃金格差を把握し、公表するシステムにします。
男女雇用機会均等法を抜本改正し、雇用の平等をすすめます
○「間接差別の禁止」を法律に明記します。
国連やILOなどでは、形式上は「差別」ではないようにしてあっても、一方の性に不利益な影響を与える行為を「間接差別」と規定し、違法な差別としています。ところが日本で「間接差別」とされるのは、募集や採用・昇進の時に「身長や体重、体力を要件」にするとか「転居を伴う転勤ができることを要件」とする程度です。コース別雇用管理で昇進機会や賃金に格差をつけるなど、働く場で横行している「間接差別」のほとんどが野放しです。
○権限のある救済機関を設置します。
現行法では、差別があったことを認め是正を使用者に勧告しても、使用者が従わなければ、それで「終わり」です。差別を是正させ、被害者を救済させる、強い権限をもち政府から独立した救済機関(行政委員会)を設置します。
差別された労働者に立証責任を負わせるのではなく、事業主が「差別はしていない」ことを立証する責任を負わせる――EUでは当たり前の国際標準のルールにします。
育児や介護など家族的責任を男女ともに担える「働き方改革」と「育児や介護は女性の仕事」という性別役割分担の「意識改革」を働く場からすすめていきます
「家族のことは女性にまかせて、男性は夜遅くまで働く」――長時間労働の背景に「育児や介護は女性の仕事」という性別役割分担論があります。男女ともに家族的責任を果たすことを保障する働くルールを確立し、職場から意識改革をすすめます。
○育児や介護など家族的責任を持つ労働者は、男女を問わず、時間外労働・深夜労働・単身赴任や長時間通勤を伴う転勤を原則禁止し、看護休暇や育児介護休業制度を拡充します。
○残業代ゼロ制度の廃止、残業時間の上限を「週15時間、月45時間、年360時間」と労働基準法で規制するなど、長時間労働を是正します。
(2)選択的夫婦別姓――同姓にするか、別姓にするか、自分たちで決める――を実現する民法改正をすみやかに行うとともに、民法・戸籍法などに残る差別的条項をなくします
夫婦同姓を法律で義務付けている国は、世界で日本だけです。国連の女性差別撤廃委員会も、法律で夫婦同姓を義務付けることは女性差別で改正すべきだと勧告しています。
結婚時に、女性が改姓する例が96%です。姓が変わることで、仕事上などさまざまな不利益を受けているたくさんの女性がいます。
女性のみに課せられた再婚禁止期間、婚外子差別規定など、民法・戸籍法などに残る時代遅れの差別的な条項をなくします。
(3)政策・意思決定の場への女性登用を促進します
女性の政治参加の促進は民主主義にとって重要な課題です。しかし、国会議員(衆院・下院)に占める女性の割合は、日本は10・1%(参院を含めると13・6%)で、193カ国中165位、G20諸国で最下位です。地方議員でも女性の割合は、都道府県議会議員10・0%、市区町村議会議員13・4%(政令市含む)にすぎません(総務省 2018年12月末現在)。
「政治分野における男女共同参画法」が成立したもとで、各政党の真価が問われています。この法律ができて最初の全国的な選挙であった統一地方選挙で、日本共産党の当選者のうち女性の割合は、道府県議で52%、政令市議で52%、区市町村議で40%です。最初の国政選挙である参議院選挙での日本共産党の候補者は50%が女性です(6月3日現在)。いっそうの努力をしていきます。
国と自治体の幹部職員への女性の登用、審議会等の委員も男女同数をめざすなど、女性の政策・意思決定の場への参加を飛躍的に拡大させます。民間に対しても、企業はもとより、あらゆる分野・団体での意思決定の場に女性の参加を拡大させる努力を求めていきます。
2、性暴力、DV(ドメスティックバイオレンス)――女性に対する暴力を許さない社会に
国連は、セクハラ、性暴力、DV等を「女性に対する暴力」と規定し、女性差別撤廃のために対策を抜本的に強化すべきだと締約国に示しています。日本はこれらの法整備と被害者への支援体制がきわめて不十分であり、早急に改善することが求められています。
(1)性暴力をなくすための施策と法改正をすすめます
性暴力被害者への支援体制を抜本的に拡充します
性暴力被害者の6割が「どこにも(誰にも)相談しなかった」と答え、苦しみを一人で抱え込んでいる実態があります(内閣府「男女間における暴力に関する調査」)。警察に相談した人は3%で、ほとんどの加害者が野放しとなっています。「性犯罪は加害者が悪い」「被害者は悪くない」「相談を」というメッセージを大きく打ち出し、相談体制を充実させ、被害者へのケアを十分に行うとともに、潜在化も防ぐ対策を強化します。
○性暴力の被害にあった人がいつでも相談でき、心身のケア、証拠保全、包括的な支援を行うワンストップ支援センターを抜本的に充実させます。すべての都道府県に1カ所以上の病院拠点型ワンストップセンターの設置を急ぎます。
○野党が共同提出している「性暴力被害者支援法案」の成立をめざします。
刑法の性犯罪規定を抜本的に改正します
2017年の刑法改正は、性犯罪を非親告罪とするなど、長年に及ぶ関係者の尽力が実りました。しかし、強制性交等罪の「暴行・脅迫要件」が残され、性交同意年齢が13歳にとどまるなど、国際水準からは大きく遅れています。
現行法では、「同意のない」性交=強制性交であっても、被害者が拒否できないほどの「暴行・脅迫」があった、もしくは、酒や薬、精神的支配などにより抵抗できない「抗拒不能」の状態にあったと認められなければ、犯罪になりません。
○強制性交等罪の「暴行・脅迫要件」を撤廃し、同意要件を新設します。
○性交同意年齢を16歳に引き上げ、子どもへの性暴力は罪を加重します。子どもが被害者の場合は時効を停止するなどの見直しを行います。
○日本共産党は、刑法の性犯罪規定の抜本改正が必要だと考えます。同時に、幅広いみなさんが、立場の違いをこえて、知恵と力を合わせることを呼びかけます。
14歳から実父に性交を強要され続けていた女性が19歳になって父親を訴えた裁判で、性交に同意がなかったことを裁判所が認定したものの、「抗拒不能」が認められず父親が無罪となった判決は、社会に大きな衝撃を与えました。被害者団体も、「不同意性交」を処罰する諸外国の立法にならい、同意要件を新設すべきだと主張しています。
同意要件について、「冤罪(えんざい)が増える」などの批判がありますが、重要なことは、人権と人間としての尊厳を守るという立場から、性犯罪をなくし、被害者を救済するために、現行法の不備をどうするのか、知恵を出し合うことではないでしょうか。立場の違いをこえて、知恵と力を合わせることを呼びかけます。
子ども・若者を性暴力の被害者にも加害者にもしないために、相談体制の充実、学校教育での性教育と幅広い啓発活動を強化します
JKビジネス、AV出演強要など、子ども・若者が性被害のリスクにさらされています。子どもや女性を性の商品化するビジネスの法規制と相談や啓発の体制を強化します。
(2)DV対策を強化します
全国287カ所の配偶者暴力相談支援センターには、年10万件を超す相談が寄せられています。被害者が逃げ回るしかない理不尽なケースや、子どもがいる場合など離婚後の生活の不安から逃げられない被害者も少なくありません。DVと児童虐待が同時に発生しているケースも多くあります。
○DV被害者の保護、自立支援を充実させます。民間への財政支援と関係機関との対等な連携をすすめ、切れ目のない支援体制を確立・強化します。
○加害者更生プログラムの制度化など、加害者の更生対策をすすめます。
○生活困窮、DV、社会的孤立、性的搾取など、さまざまな困難を抱える女性たちの支援法を制定します。
婦人相談所・婦人保護事業は、根拠法が「売春防止法」で、女性の人権の理念に欠けています。根拠法を支援法に改め、人権と尊厳を尊重し、十分な支援が行えるようにします。
3、ハラスメントに苦しむ人をなくします
セクハラ、パワハラ、マタニティーハラスメントなどが、大きな社会問題になっています。ハラスメントは個人の尊厳・人格を傷つけ、多くの被害者が、事後の適切な対応はおろか謝罪さえ受けることなく、心身に不調をきたしたり、休職・退職に追い込まれたりしています。
○ILO条約を批准できる水準の、ハラスメントの禁止を明確にした法整備を行います。
セクハラを禁止する法規定がない国は、OECD(経済協力開発機構)加盟36カ国の中では日本を含む3カ国のみです。政府は、セクハラ・パワハラ対策を盛り込んだとする女性活躍推進法等改定案を国会に提出し、成立させましたが、ここにもハラスメント禁止規定はありません。ILOは、今年6月に、「労働の世界における暴力とハラスメントを除去する条約」を採択します。法律に禁止規定を設け、この条約を批准できる水準にする必要があります。
○ハラスメントの加害者の範囲を、使用者や上司、職場の労働者にとどめず、顧客、取引先、患者など第三者も含めるとともに、被害者の範囲も就活生やフリーランスを含め、国際水準並みに広く定義します。
○被害の認定と被害者救済のために、労働行政の体制を確立・強化するとともに、独立した救済機関を設置します。
○学校やスポーツ団体、大学・研究所など、社会のあらゆる分野でハラスメントをなくすために、国としての実態調査と、それぞれの分野に対応した相談・支援体制をつくります。
4、LGBT/SOGIに関する差別のない社会をつくります
2019年、同性婚を容認することを求める訴訟が全国4都市で始まりました。同性パートナーシップ条例・制度をもつ自治体は全国20自治体(2019年4月現在)に広がりました。日本経団連が実施した「LGBTへの企業の取り組みに関するアンケート」では、90%以上の企業が「性的少数者に関して社内の取り組みが必要」と回答しています。性的マイノリティに対する差別をなくすための運動が、社会を大きく動かしています。
同時に、多様な性のあり方への無理解や偏見に苦しみ、自尊感情を育てることができずにいる子どもや若者たち、アウティング(本人の性のあり方を、同意なく第三者に暴露してしまうこと)の問題など、まだまだ克服すべき課題が多くあります。多様な性のあり方を認め合う社会ほど、社会のすべての構成員が個人の尊厳を大事にされ、暮らしやすい社会になる――この立場で、みんながよりいっそう力を合わせるときです。
○同性婚を認める民法改正を行います。
○同性カップルの権利保障をすすめるパートナーシップ条例・制度を推進します。
○野党が共同提出している「LGBT差別解消法案」の成立をめざします。
○性別適合手術の保険適用の拡充、学校教育や企業内研修、当事者である子ども・若者のケアなど、社会のあらゆる場面で権利保障と理解促進をすすめます。
※LGBTは、レズビアン(女性同性愛)、ゲイ(男性同性愛)、バイセクシュアル(両性愛)、トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の英語の頭文字で、性的少数者の総称です。同時に、性的指向や性自認はさらに多様です。そこで、SOGI(ソジ)という言葉も使われるようになっています。セクシュアル・オリエンテーション(SO=性的指向)とジェンダー・アイデンティティー(GI=性自認)の頭文字からつくられた言葉で、性的少数者の人も、異性愛者の人も、すべての人の多様な性的指向・性自認を認め合おうという意味で使われるようになっています。
5、国籍や民族の多様性を認め合い、共生する社会を
出入国管理法(入管法)が改定され、外国人労働者の増加が予想されます。国籍や民族の違いを理由に、人権が制約されたり、差別されたりすることがあってはなりません。多様性を認め合いながら共生する社会をつくっていきましょう。
在日外国人の人権と労働者としての権利を守る体制の確立を
技能実習生の深刻な実態が明らかになりました。職場移転の自由がなく、多額の借金を抱えて日本に働きに来ているため最低賃金以下などの違反があっても黙って働かざるをえない事例が多数報告され、2010~17年の8年間に、「溺死」「自殺」「凍死」「転落死」などで174人も亡くなっていたことも明らかになりました。
○制度本来の目的からかけはなれ、人権侵害の温床となってしまっている技能実習制度は廃止します。改定入管法は、外国人労働者を雇用の調整弁とするものであり、抜本的に改めます。
○外国人の人権、労働者としての権利を守る体制を早急に確立します。
ヘイトスピーチを許しません
特定の国籍や民族にたいする常軌を逸した攻撃は「ヘイトスピーチ」と呼ばれます。差別をあおるこうした言葉の暴力は、「ヘイトクライム」(民族や性的指向等への憎悪にもとづく犯罪)そのものであり、人間であることすら否定するなど、人権を著しく侵害するものです。
○ヘイトスピーチの根絶は、日本国憲法の精神が求めるところであり、日本も批准している人種差別撤廃条約の要請です。ヘイトスピーチ解消法(2016年成立)も力に、ヘイトスピーチを社会から根絶していくために、政府、自治体、国民が、あげてとりくみます。
個人の尊厳とジェンダー平等を前にすすめる政治をつくろう――差別と分断のない社会をみんなの力で
安倍政権は、口では「女性の活躍」と言いながら、差別の実態には目をふさぎ、ジェンダー平等に背を向け続けています。
政権の内部から、「子どもを産まないのが問題」、「セクハラ罪という罪はない」など、公然と女性を差別し、セクハラ加害者を擁護する発言が繰り返されています。「生産性がない」などとLGBTの人たちへのひどい差別発言を行った議員を擁護し、発言を容認しています。選択的夫婦別姓を、「家族の絆が壊れる」と否定しています。働く場での女性差別や賃金格差も、女性の貧困も「自己責任」だという考え方も、ふりまかれています。ヘイトスピーチを野放しにする政治姿勢も露骨です。差別と分断を持ち込む安倍政治は退場させましょう。
これらの根底には、侵略戦争と植民地支配の美化、男尊女卑、個人の尊厳の否定、個人の国家への従属という、時代逆行の思想があります。多様な人々の人権の尊重は、国際社会が求める普遍的価値です。「個人の尊厳を守る」「ジェンダー平等」は、憲法をこわす安倍政権から立憲主義を取り戻そうと立ち上がった「野党共闘」の共通テーマでもあります。これまでの政治に聞き届けられなかった声を束ねて、ジェンダー平等を前にすすめる政治に変えていきましょう。
差別や分断に苦しめられている人たちの、声なき声に耳を傾け、心を寄せ、さまざまな差別意識や偏見を克服する努力をしていくことが大切ではないでしょうか。
「WithYou」(あなたとともに)の輪を広げ、差別や分断を一つひとつ、乗り越えていきましょう。私たちも、一緒に歩み続けます。