2019年5月9日(木)
観光と農業の町
消費税増税の影
来客は減り 営農厳しく
長野県山ノ内町(やまのうちまち)は志賀高原や北志賀高原のスキー場、湯田中渋(ゆだなかしぶ)温泉郷などを抱える観光の町です。2000メートル近くの標高差を誇り、大型連休を過ぎても桜の見頃が続きます。この町にも安倍晋三政権が10月にねらう消費税増税が暗い影を落とします。(清水渡)
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倒産は県内最多
「以前なら年に2回、当館を利用していた老人クラブが年1回に減らすようになりました。参加人数も1回あたり40人から20人といったように減っています。会社の慰安旅行のような利用も減りました。景気がいいと宣伝されていますが、この町には無縁のようです」。山ノ内町の中堅旅館「ホテルおもだか」のおかみ、山口禮子さん(68)は話します。
そこに消費税増税が強行されたら―。山口さんは「経費に占める人件費が多い旅館業は増税による負担が重く響きます」と話します。人件費には消費税がかからないため、仕入税額控除の対象とならず、税率引き上げは納税額の増加に直結するからです。客への影響も気がかりです。「懐が寂しくなれば、まず削るのは行楽。お客さんが減ることは確実です」と不安な面持ちです。
日本共産党町議の渡辺正男さんは観光の現状について次のようにいいます。
「志賀高原を舞台にした映画がヒットしたバブルのころが観光のピーク。1998年には長野五輪の会場にもなりました。スキー客は混雑を嫌い、別のスキー場を利用するようになりました。いまは、観光客も観光消費もピーク時の半分程度です。観光客の増加を当てこみ巨額の設備投資をした旅館の廃業も相次いでいます」
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2月に長野市で開かれた衆院予算委員会の地方公聴会では、山ノ内町で会計事務所を営む土屋信行税理士が意見陳述。山ノ内町では旅館・ホテルの倒産が県内最多であることなどを指摘し、「10月からの消費税増税を受け入れるのは、かなり厳しい」と訴えました。
山ノ内町では近年、スノーモンキーが話題です。湯田中渋温泉郷の一つ、地獄谷温泉につかるニホンザルのことです。頭に雪をのせた写真が話題になり、海外からの観光客が増えました。外国人宿泊者数は2000年の1749人から17年は6万7272人へと40倍近くに急増。山口さんは「海外から観光客が増えて町が活気づきました。でも、食事はコンビニなどですませ、素泊まりを希望するなど観光スタイルが異なります。食品のお土産は検疫などで海外に持ち出せないからとあまり売れません。お客さんの増加ほど売り上げは増えていません」と話します。
山口さんは消費税増税とともに導入される予定の複数税率にも頭を痛めています。
「消費税増税のもと、食料品が8%に据え置かれれば、お菓子とキーホルダーで税率が変わります。ロビーで売っているアイスをソファ席に提供すれば外食扱いで10%、屋外で食べれば8%の税率になると聞きます。こんな複雑な手間がかかるのなら、増税しないのが一番です」(山口さん)
コスト増え困難
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山ノ内町は農業の町でもあります。とりわけ果実はリンゴやブドウ、モモなどを中心に栽培されており、16年の農業産出額34億3000万円のうち26億1000万円を占めます。消費税増税は果物生産も危うくします。
生産者でグループをつくり、リンゴなどを出荷している小嶋秀治さん(68)は「消費税を簡易課税で納めています。増税後の扱いが不安」と語ります。
果実は食料品なので8%の税率で出荷します。一方、肥料や農機具などは10%の税率で購入します。「実態にふさわしい簡易課税の仕組みにしてもらわないと経営を続けられるだけの利益が確保できません」
グループの中には免税業者もいます。小嶋さんは「免税業者からは販売価格の引き上げを求める声もあります。売り上げの分配が複雑になります」と話します。免税業者は仕入れにかかった消費税を差し引くことができないため、増税によるコスト増がより大きくあらわれるためです。
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「消費税増税により続けられなくなる仲間が出れば、安定した出荷が続けられません」
小嶋さんたちは30年前、仲間たちで資金を出し合い工場を設立。売り物にならないリンゴをジュースにしています。「買いたたかれてきた傷のあるリンゴを有効活用しています。農閑期の現金収入にもなります。工夫でつないできた農業を増税がダメにします」
「リンゴを産直販売しています。増税されたら値上げをお願いすることになりそうです」と話すのは畔上(あぜがみ)時雄さん(64)です。前回の増税時には自らの利益を削って、値段を据え置きました。「消費税増税反対の旗を振ってきただけに、消費者に転嫁するのは心苦しい。でも増税でコストが増えれば、値上げしないと経営が成り立たなくなります」と悔しそうに話します。
政権倒せば中止
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山ノ内町でも消費税増税に反対する運動は粘り強く続けられています。昨年5月には隣接する中野市と山ノ内町で軽トラパレードに取り組みました。パレードでは消費税増税反対のほか、「守れ平和憲法」「安倍政治は許さない」などを訴えました。
渡辺町議はいいます。
「16年の参院選では比例代表で長野出身の武田良介さんを日本共産党から当選させることができました。選挙区でも野党統一の杉尾秀哉さんが当選。17年の総選挙でも長野1区では野党統一候補が勝ち、自民党候補は比例復活もできませんでした。山ノ内町を含む北信地域には自民党の国会議員が一人もいません。野党共闘の勝利と日本共産党の躍進で安倍政権を倒せば、消費税増税を中止できます」