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2019年5月9日(木)

主張

保育の質

安全を掘り崩してはならない

 安倍晋三政権が今国会で成立を急ぐ「子ども・子育て支援法改定案」について、子どもの安全が守れない事態が広がるとの懸念と批判が相次いでいます。改定案は、消費税10%増税とセットで幼児教育と保育の「無償化」などを行うというものです。出費がかさむ子育て世帯を直撃する消費税増税と引きかえで「無償化」というやり方自体が大問題ですが、保育士基準を満たさない施設なども給付対象のため、「保育の質」が置き去りにされる危険も隠しようがありません。国民の不安に応えないまま、子どもの命にかかわる法案を押し通すことは許されません。

企業主導型の矛盾も露呈

 改定案では、10月からの「無償化」対象は、認可保育所、幼稚園などを利用する3~5歳の原則全世帯、0~2歳の住民税非課税世帯です。認可外保育施設などの利用世帯は上限つきで補助します。増税と同時実施するため、改定案は急ごしらえでつくられました。担当官庁も「検討の場がなかった」というように、制度は詰めきれておらず、矛盾はあらわです。

 それは認可外施設をめぐる問題に集中的に示されています。改定案では、無認可施設の指導基準すら満たさない施設も、5年間は給付の対象にしました。これは保育士が1人も配置されていなくてもいいことにもなりえます。この方針では、劣悪な施設であっても国がお墨付きを与えることになり、子どもの安全にとって問題がある施設でも、そのまま経営を続けることが可能になります。政府は、指導を強めるなどといいますが、それを実施できる体制は整っておらず、悪質な施設をチェックできる保障はありません。保育事故で子どもを失った親たちからは「子どもの命を危険な状況にさらす。受け入れられない」と厳しい批判が上がっています。政府は、この声を真剣に受け止めるべきです。

 改定案では、安倍政権が“待機児解消の目玉”として普及に力を注ぐ企業主導型保育所も給付対象です。同施設は、社員を対象に企業が設置し、地域の子どもも一定受け入れるとしています。国の助成もありますが、認可外施設で、自治体は設置・監督に関与していません。同事業開始から3年、施設数は増加したものの、定員割れや職員のいっせい退職による閉園など問題が噴出しています。

 実態を調べた会計検査院は4月末に国に改善を要求し、所管する内閣府の調査でも、国の助成を受けた施設の約1割が事業をやめていたことが明らかになるなど、ずさんな状況が浮き彫りになっています。「企業主導型」の普及頼みの方向は、安全・安心の保育を求める親の願いに反します。

公的責任後退させるな

 私立保育所と公立保育所への国の補助の割合が大きく異なる改定案の中身も重大です。市町村に全額補助を負担させる公立保育所の廃止・民営化に拍車がかかる恐れが指摘されています。

 緊急に必要なのは、待機児童解消に向け、公立を含む認可保育所の大増設です。そのために保育士が安定的に働けるよう、抜本的な処遇改善を急ぐことです。消費税に頼らずに、大企業・大資産家に応分の負担を求め財源を確保すれば実現できます。安全・安心の保育、保護者らの負担軽減に責任を果たす政治の実現が不可欠です。


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