2019年2月7日(木)
主張
米大統領一般教書
いっそうの軍拡と分断の恐れ
米東部時間5日夜(日本時間6日午前)に実施されたトランプ米大統領の一般教書演説は、これまで主張してきたメキシコとの間の壁建設を要求し、米社会に分断と混乱をもたらす要因となってきた課題に固執する姿勢をみせました。国際問題では、米朝首脳会談の開催日程を示したものの、イラン核合意からの離脱を正当化し、多国間協力に背を向けて軍拡を進める従来の路線を表明しました。
核兵器廃絶に背向ける
トランプ政権は、この演説直前に、中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄を正式発表しました。この日の演説では、「米国が条約を順守したが、ロシアがたびたび破った」との離脱理由に触れるのみで、自らの核軍拡を正当化しました。核兵器廃絶に向けた国際的流れに背を向けたものでした。
演説で目立ったのは、露骨なイスラエル擁護です。国際社会から強い非難を浴びたイスラエルの占領地を含むエルサレムへの米大使館移転については「数十年にわたって進展しなかった信用に値しない理論ではなく、現実主義をもとにした」と述べ、エルサレムを首都と認定するのは国際法違反という国連決議などを敵視する姿勢を示しました。
イスラエルの占領を擁護する一方、イランに対し「あらゆる選択肢を排除しない」として、分断と強硬姿勢を一層鮮明にしました。
経済問題では、2020年の次の大統領選挙を視野に入れながら雇用や中国との通商協議などを語りました。
しかし、米国で深刻さを増している格差拡大については、その現実への言及すらありません。
富裕層や大企業優遇の税制改革、医療保険制度の改廃など、社会的弱者を痛めつける政策を進めているトランプ大統領には、「貧困から抜け出せない」という現実が突きつけられています。
今回の演説で多くの時間を割いたのはメキシコ国境での壁の建設です。「賢明で戦略的」と壁建設を進める方針を強調しました。
そもそも一般教書演説の1週間延期という異例の事態を招いた原因は、トランプ大統領がメキシコとの国境に壁を建設する57億ドル(約6200億円)の予算に執着したことです。議員のなかで壁建設への批判が強く、予算が承認されないために政府機関の一部閉鎖が1カ月以上続きました。国民生活に大きな影響が出ました。
国境の壁での対立の背景について、有力経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「この問題は、米国の変わりゆく姿を歓迎する人々と、それに警戒感を抱く人々の間にある深刻な文化的分断を明確に示している」(1月22日電子版)と分析しています。
米ロの軍拡競争やめよ
米国のINF条約離脱による日本への影響も無視できません。菅義偉官房長官は米国のINF破棄について4日の会見で、「条約が終了する状況は望ましくないが、米国が発表するに至った問題意識は理解している」と述べています。米国がロシアへの「対応」として、今後、新型の中距離核ミサイルを開発・研究する方向を示しており、日本への持ち込みの恐れもあります。日本政府は対米従属を脱し、唯一の戦争被爆国にふさわしく、米ロの軍拡競争の自制を呼びかけるべきです。