2018年10月24日(水)
主張
障害者雇用の偽装
不正まん延させた責任ただせ
中央省庁が雇用する障害者の人数を長年にわたり「水増し」し、障害者雇用率を偽って公表していた問題で、政府が設置した検証委員会が報告書をまとめました。28行政機関の3700人が不正に算定されていたことを認定し、各省庁の対応を「ずさん」などと指摘しました。一方で、不正開始の時期や動機、責任の所在などについては解明が尽くされていません。安倍晋三政権は報告書を受け、障害者雇用の拡大方針などを決めましたが、不正問題をうやむやにしたままでは、真の再発防止につながりません。きょう開会の臨時国会でも徹底解明は不可欠です。
退職者や死者まで算定
中央省庁や地方自治体による障害者雇用の大規模偽装は8月に発覚しました。国や地方の多くの行政機関が、対象にならない職員を障害者としてカウントし、障害者雇用促進法が義務付けた雇用率を達成したように装ったのです。
偽装していた期間も数十年の長期ともいわれ、「水増し」された分だけ、障害者が雇用の機会を奪われていたことになります。障害者雇用を「率先垂範」して推進する立場の国が、障害者をはじめ国民を欺き続けていたことに怒りと批判が沸き上がり、あわてた安倍政権は、検証委員会をつくり、報告をまとめたという経過です。
報告書は、多くの省庁で、驚くべき実態が横行していたことを浮き彫りにしています。例えば視力障害者は本来、矯正視力で判断すべきなのに、裸眼で0・1以下だったとして算定していた省庁がありました。「しぐさ」などから視力が悪そうな人を数に入れていたケースもありました。退職者が91人も含まれ、そのうち3人はすでに死亡していたことまで明らかになったところもありました。ずさんな状況が、国のほとんどの省庁で、長年引き継がれてきたことは、信じがたいことです。
報告書は「対象障害者の計上方式についての正しい理解の欠如」「恣意(しい)的に解釈された基準に基づくあいまいな当てはめ」「法の理念に対する意識の低さ」などの問題を挙げました。しかし、なぜ始まったのか、誰のどういう判断なのかなどは、不明のままとなっています。始まった時期も「遅くとも1997年ごろ」と、はっきりしません。検証委は「水増し」は「意図的でない」としていますが、同じような悪質な手法の「水増し」が省庁を横断し慣行的に行われていたことなどを見ると、国民の疑念と不信は払しょくできません。
報告書は、安倍政権下の2014年に厚生労働省所管の独立行政法人で「水増し」事件が発覚した時、「国の行政機関の実態を確認すべき重要な機会であった」と記述しました。安倍政権が当時、真剣に対応していれば、ここまで深刻な広がりは防げたはずです。首相の責任が改めて問われます。
働ける場の保障を真剣に
今回の問題で明らかになったのは、障害者雇用を真剣に推進するのでなく、表面上の「数合わせ」に終始する中央省庁などの姿勢です。背景には、障害者を雇うことを「お荷物」扱いする差別的思想があるのではないか。雇用偽装が慣行となった大本をただすことなしに、「再発防止」はできません。国でも地方でも、障害者が安心して安定的に働ける仕組みをつくっていくことが急がれます。