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2018年10月5日(金)

主張

ノーベル医学賞

真理探究が開いた画期的成果

 人間の体を守るべき免疫が、がん細胞にはなぜ働かないのか―。今年のノーベル医学・生理学賞は、この謎を解き明かし、がん細胞に対する免疫の働きを回復させる治療薬の開発に成功した本庶佑(ほんじょたすく)京都大学特別教授と米テキサス州立大学のジェームス・アリソン博士に授与されることが決まりました。

がん克服の足掛かり

 本庶氏の治療法は、副作用が少なく、幅広いがんに持続的な効果があるという優れた特性をもち、がんの克服に向け、画期的な足掛かりを築きました。真理の探究に挑み、がんに苦しむ多くの人々の命を救い、大きな光明をもたらす偉業に心から敬意を表します。

 免疫細胞は、活発になりすぎると健康な組織まで破壊します。本庶氏らは、免疫細胞の働きにブレーキをかける遺伝子「PD―1」を1992年に発見しました。さらに、がん細胞が、PD―1というブレーキを踏んで、免疫細胞の攻撃から逃れていることを突き止めました。このブレーキが利かないようにブロックすれば、免疫細胞ががん細胞を攻撃し、がん治療ができると提唱しました。製薬会社と共同で2014年に治療薬「オプジーボ」の実用化に成功し、外科手術、放射線、抗がん剤という従来のがん治療に加えて、「免疫療法」という新たな治療法に道を開きました。

 本庶氏らの当初の目的は、がん治療ではなく、免疫細胞であるT細胞の「アポトーシス」(プログラム化された死)の解明でした。その中で偶然発見したのがPD―1でした。この特性を明らかにしようと、まずアポトーシスとの関係を実験で調べましたが、関係はありませんでした。そこでPD―1遺伝子を壊したマウスをつくったところ、マウスは自己免疫疾患を起こしました。これでPD―1が免疫のブレーキ役であることが分かり、がん治療薬への応用ができるようになったのです。

 これは、研究者の知的好奇心にもとづき、真理を探究する基礎研究が、想定外の画期的な成果に結びつくことを教えています。本庶氏も自らの研究姿勢について「できることばかりやっていると目標を見失う。常に何が知りたいか問いかけながら研究をやってきた」と語っています。

 本庶氏は、記者会見で「生命科学に投資しない国は未来がない」とのべました。「もうかっている分野にさらにお金をつぎ込んでいては、後れを取る。基礎研究を組織的、長期的な展望でサポートし、若い研究者が人生をかけて良かったと思える国になることが重要」だと強調していることは、傾聴すべきです。

長期的視野の基礎研究を

 安倍晋三政権は、国立大学運営費交付金などの基盤的経費を削減する一方、競争的資金を増加させる「選択と集中」により、資金獲得競争を激しくさせ、成果主義をまん延させてきました。

 しかも「統合イノベーション戦略」(6月)で、民間資金の獲得額に応じて交付金の増減を強める仕組みの導入を決めています。交付金の獲得競争が一層激化し、民間企業の投資が見込めない長期的な視野に立った基礎研究などはますます切り捨てられます。

 本庶氏ら科学者の訴えに耳を傾け、基礎研究を重視する政策に転換することを強く求めます。


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