2018年6月9日(土)
主張
陸上イージス配備
緊張をあおる動きは本末転倒
安倍晋三政権が北朝鮮のミサイルに対処するためとして強化を進めている「弾道ミサイル防衛」(BMD)について、防衛省が全ての弾道ミサイルを迎撃するのは困難だと分析していることが判明し、その「限界」が浮き彫りになっています。2004年度から整備が始まったBMDの予算は総額で2兆円を超えます。昨年末に新たな導入を決めた陸上配備型迎撃システム2基の取得費は最低でも2000億円と見込まれます。北朝鮮問題の対話による平和的解決という前向きの情勢が劇的に展開している下、BMD強化を急ぐ安倍政権の姿勢はあまりにも異常です。
防衛省が「限界」を明記
陸上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の導入に関する防衛省の内部文書(17年12月6日付)は、「弾道ミサイル防衛」の「課題」として「(北朝鮮から)飽和攻撃を受けた場合、全ての弾道ミサイルを迎撃することは困難」「ロフテッド軌道への対処能力が限定的」と明記しています。
文書は、防衛省が日本共産党の穀田恵二衆院議員の求めに応じて提出しました。
「飽和攻撃」とは、相手の防御能力を上回る多数の弾道ミサイルを短時間に一斉にまたは連続して発射することです。「ロフテッド軌道」による攻撃とは、弾道ミサイルを通常よりも高高度に打ち上げ、落下速度を高速にして迎撃を困難にするものです。
これらの攻撃については自民党内からも「ミサイル防衛の層をいくら厚くしても、やはり飽和攻撃とかロフテッドに対しては限界がある」(佐藤正久元防衛政務官、17年5月15日、参院決算委員会)、「イージス・アショアを導入したとしても、北朝鮮からの飽和攻撃を受けた場合、その全てに対応することは大変難しい」(江渡聡徳元防衛相、18年2月14日、衆院予算委員会)などの指摘が上がっていました。防衛省が公文書でこうしたBMDの「限界」を明記していることが分かったのは初めてです。
山本朋広防衛副大臣は、穀田氏の指摘に対し「(文書の)真(しん)贋(がん)を含めてお答えできない」と述べました(6日、衆院外務委員会)。しかし、「真贋を含めて答えられない」となれば、防衛省が偽物の可能性のある文書を穀田氏に提出したことになります。そうした言い逃れは到底通用しません。
BMDの「限界」を認識しているにもかかわらず、安倍政権が「イージス・アショア」の導入を推進していることは重大です。同システムは米国製です。トランプ米政権による兵器購入圧力に応えたものであることは明白です。
防衛省は23年度からの運用開始を狙う「イージス・アショア」の配備候補地として、秋田県の陸上自衛隊新(あら)屋(や)演習場と山口県の同むつみ演習場を選定しています。夏にも現地の地盤測量や電波状況の調査などを行おうとしています。関係自治体や住民からはレーダーの運用の際に発生する強力な電磁波の影響や施設が攻撃目標になる危険などの懸念や反対の声が上がっており、強行は許されません。
平和促進の外交努力こそ
安倍政権に強く求められるのは北朝鮮問題をめぐり今進展しつつある平和へのプロセスを促進する外交努力です。軍事的構えの強化を急ぎ、緊張をことさらあおることは本末転倒に他なりません。