しんぶん赤旗

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2018年5月19日(土)

撤回・廃案しかない「働き方」改悪法案

来週明けにも衆院通過狙う

 安倍内閣は、「働き方改革」一括法案の今国会成立に向けて、来週明けにも衆院通過をねらっています。労働時間データの改ざんや過労自殺隠しで法案提出の資格が問われ、長時間労働や過労死に拍車をかける危険性が明らかになっており、撤回・廃案にする以外にないことが浮き彫りとなっています。


■データの信用“崩壊”

写真

(写真)「働かせ方」大改悪を許さないと抗議する人たち=18日、衆院第2議員会館前

 厚生労働省は、ねつ造が発覚していた労働時間データ問題を精査した結果、全1万1575事業所のうち2割強に当たる2492事業所のデータを削除しました。

 加藤勝信厚労相は、残りのデータも正しいと明言できないなど、調査全体の信用が崩壊しました。

 問題のデータは、「2013年度労働時間等総合実態調査」。裁量労働制の対象拡大、「残業代ゼロ制度」である「高度プロフェッショナル制度」創設にかかわる審議をしてきた労働政策審議会の冒頭、議論の出発点として提出されました。厚労省は審議会に幾度にもわたって同調査を示し、議論が進行。審議の基礎として活用され続けてきたものです。

グラフ:時間外労働の実績

 新旧データを比較すると、一般労働者の時間外労働は、いずれも低下(グラフ)。裁量制適用労働者よりも一般労働者の方が労働時間が長いといってきた安倍首相の言い分が、いよいよ成り立たなくなりました。

 「働き方改革」一括法案は、現在の労働実態を反映しない、虚偽データに基づいて審議・作成されたもので、もはや国会審議にかける資格はありません。

 加えて、野村不動産で違法に裁量労働制を適用された労働者の過労自殺隠しも、いまだに真相が明らかになっていません。

 厚労省東京労働局は昨年12月、野村不動産への「特別指導」を公表。しかし、特別指導のきっかけが、違法適用の結果として起きた過労自殺の労災申請だった疑いが濃厚になっています。

 新宿労働基準監督署は昨年10月、過労自殺を労災認定する方針でしたが、特別指導の公表後に労災認定を発表したことが明らかになりました。

 裁量制ですら違法適用を事前に見抜けず、過労自殺を防止できなかった可能性が高いにもかかわらず、適用業務がさらに不明確な高プロで適切な指導ができるのか、厳しく問われます。

 安倍首相、加藤厚労相は過労自殺を知りながら隠ぺいし、裁量制の違法適用に対する指導の典型としてアピールしようとした疑惑が深まり、法案提出の資格が問われています。

 労政審に審議を差し戻し、議論をし直すことこそ必要です。

■論戦で危険浮き彫り

表:「高プロ」は究極の「働かせ放題」制度

 衆院厚生労働委員会での野党の論戦で、法案の危険な内容が明らかになっています。

■残業代ゼロ制度…長時間労働の歯止めなし

 法案に盛り込まれた「高度プロフェッショナル制度」(残業代ゼロ制度)は、労働時間規制を撤廃します。政府は、企業に「健康管理時間」を把握させ、一定時間を超えれば医師に面談させて健康を守ると説明してきました。「健康管理時間」とは、在社時間と事業場外の労働時間を合わせたものです。

 日本共産党の高橋千鶴子議員は9日の質問で、「企業に『健康管理時間』の把握をさせても、上限時間の義務付けがないから長時間労働を是正できない」と追及しました。

 加藤厚労相は、「(残業相当分が)100時間を超えれば医師が面談する」というだけで、長時間労働に歯止めがないことを否定できませんでした。

 加藤氏は、16日の国民民主党・山井和則議員の質問に、医師の面談後も残業を続けさせ月200時間にのぼっても、「違法性は問えない」と認めました。

 時間規制外しはだれのためなのか―。加藤厚労相は「夜間の賃金が高くなれば(会社から)やめてくれとなるが、(高プロなら)夜型の方も自分にあった時間に働ける」と答弁(9日)。深夜・残業手当を払いたくない使用者の願いに沿ったものであることが分かりました。

■残業の上限規制…150時間の抜け穴

 残業時間の上限規制は単月100時間、平均80時間という「過労死ライン」にお墨付きを与える内容です。

 高橋議員は「上限規制」以内の月75時間残業でも、月をまたいで残業が集中すれば、30日間で150時間残業もあると指摘。加藤厚労相は「そういうことはありえる」と答え、上限規制の「抜け穴」を認めました。

■同一労働同一賃金…法案に一言もなし

 安倍首相が繰り返す「同一労働同一賃金」という言葉は、法案に一言もありません。高橋議員の質問に厚労省は「差別的取り扱い禁止」の対象となるのはパート労働者の1・5%だと答え、正規と非正規の格差是正も名ばかりであることが明らかになりました。

 審議すればするほど法案の危険性や問題点が明らかとなっています。

■広がる共同 阻止必ず

 安倍政権は、「働き方」法案の衆院強行をねらう動きを強めていますが、世論調査でも今国会成立は「必要がない」が68・4%(共同通信)と多数です。

 過労死遺族や弁護士らは「働きすぎで家族を亡くす地獄のような苦しみをだれにもさせたくない」(寺西笑子・全国過労死を考える家族の会代表)として、「高プロ」導入に反対する声明を発表するなど幅広い共同のたたかいが広がっています。

 日本共産党は、野党と共同して法案阻止のたたかいを広げるとともに、政府案への対案として、「『働かせ方』大改悪をやめさせ、まともな働き方改革を実現するために」と題した「労働基準法等改正大綱」を発表しました。

 政府案の高プロは削除し、残業時間の上限は現行の月45時間、年360時間とするなど「8時間働けば普通に暮らせる社会」の実現を打ち出しています。

 日本共産党の志位和夫委員長は17日の記者会見で「人間の命がかかった法案を、その前提が完全に崩壊しているままで強行などとんでもない。法案の撤回と労政審への差し戻しを強く求める」と表明しました。


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