2018年5月6日(日)
主張
貧困と住まい
安心の住宅提供へ責任果たせ
低所得の高齢者や若者たちの「住まいの貧困」が依然深刻です。防火設備が脆弱(ぜいじゃく)な共同住宅に住まざるをえなかったり、ネットカフェを転々としたり…。人間らしく暮らせる住まいの提供は急務なのに、安倍晋三政権の施策は大きく立ち遅れています。「住まいは人権」の立場から、住宅を確保することが困難な人たちに安全・安心の住宅を十分保障するために、国は責任を果たすべきです。
新制度は開始されたが
高齢者や若者に広がる「住まいの貧困」を解決することは差し迫った課題です。今年1月、札幌市の生活困窮者の自立支援を掲げる共同住宅の火災で11人が死亡するなど悲劇は後を絶ちません。老朽化などで防火設備が不十分な住居が、行き場を失った生活困窮者の「受け皿」とされる現状をもはや放置することはできません。
東京都が今年1月に発表したネットカフェや漫画喫茶などオールナイト店舗の利用者についての調査では、「住居喪失不安定就労者」の利用が1日あたり約3000人と推定されました。20代では11・8%、30代は38・6%で全体の50・4%を占めており、若い人たちに低額で安心できる住宅を確保することは、待ったなしです。
昨年4月の国会で改正住宅セーフティネット(安全網)法が成立し、新たな住宅セーフティネット制度が同年10月にスタートしました。この制度は、高齢者、低所得者、子育て世帯、障害者、被災者など「住宅確保要配慮者」の入居を「拒まない住宅」として、民間の賃貸住宅や空き家を登録してもらい、国や地方自治体が家主にさまざまな補助をする仕組みです。住宅改修費の補助は最大150万円、低所得者に貸した場合は最大月4万円を補助し家賃を低減できる(家賃低廉化補助)などです。
しかし登録数は全国で81件、622戸です。国は今年3月末までに2万5千戸を計画したのに、わずか2・5%にすぎません。東京都、愛知県でもゼロ戸です。地方自治体が補助の2分の1~3分の1を負担することが“重荷”となっていると指摘されています。
家賃低廉化補助の弱点も浮き彫りです。同補助の対象は登録された住宅の1割しかありません。国が地方自治体任せのため、人員や予算が不足している自治体では実施に困難を抱えます。要配慮者専用の住宅には入居者を支える「居住支援」の仕組みづくりが必要ですが、その体制を保障する居住支援協議会は全国の自治体の2%程度でしか結成されていません。同補助の対象が、借りた人ではなく家主であるため、実際に低廉になる保証のないことも問題です。
住まいのセーフティネットを確実に構築するには、制度が進まない原因にメスを入れ、改善を行うことが求められます。
土台支える仕組みを整え
国交省は昨年10月、「住宅確保要配慮者」への賃貸住宅の供給促進に関する基本的方針に「必要となる公営住宅の整備やストックの改善を計画的に進めることが必要である」と明記しました。低所得の人たちの住宅問題を抜本的に打開するには、公共住宅を確実に供給することがなにより不可欠です。
生活困窮者の暮らしや住まいの土台を掘り崩す生活保護費削減など制度改悪を中止させ、「生活保障法」に改革することが重要です。