しんぶん赤旗

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日本共産党

2018年3月1日(木)

予算案強行

裁量労働制拡大 根拠崩れる

 政府・与党は、野党が求めている裁量労働制の労働時間の再調査、「働き方改革」一括法案の国会提出断念の要求には応えないまま、「数の力」で2018年度予算案の衆院採決を強行しました。予算案を含め、厚生労働行政のあり方が根本から問われる裁量労働制をめぐる労働時間データの捏造(ねつぞう)問題で、政府が今国会で成立を狙う最重要法案の根拠が根底から崩れているにもかかわらず、国民への説明責任を一切放棄したなかでの暴挙です。(佐藤高志、和田肇)


政府与党 説明責任を一切放棄

 「きっちり実態把握をしないかぎり、政府全体として前に進めない」―。安倍晋三首相は予算案の採決に先立って行われた28日の衆院予算委員会で、こう答弁しました。裁量労働制拡大の根拠で示した労働時間データの捏造問題がいよいよ政権を揺るがす事態に発展していることを物語る答弁です。

二重三重に

 厚労省のデータをめぐっては二重三重にデタラメであることがすでに誰の目にも明らかになっています。

 厚労省は、一般労働者には「最長の日の残業時間」を聞いて1日の労働時間を算出したのに対し、裁量労働制で働く人は1日の「労働時間の状況」の集計で算出。調査方法も性質も異なるこうしたデータを比較して、一般労働者の労働時間の方が長くなるようデータを加工していました。

 さらに、もとになったデータにも明らかな誤りがあることが野党の指摘で次々と発覚。28日の衆院予算委員会の審議でも日・週・月の残業時間に整合性がない誤りが新たに57件見つかり、これまで判明した誤りと合わせると400件超にものぼる異常事態です。

 そのうえ、労働政策審議会(労政審)の建議では「長時間労働の抑制」を「喫緊の課題」としているにもかかわらず、政府からは「裁量労働制が長時間労働にどういう影響を及ぼすか」についてまともなデータは一切示されていません。労働政策研究・研修機構の調査では、裁量労働制で働く人の方が一般労働者よりも労働時間が長いという調査結果が出されていますが、労政審には提示されていなかったことも明らかになっています。

責任を転嫁

 ところが、安倍首相には、真摯(しんし)な反省も、労働現場の実態にまともに向き合う姿勢も見られません。野党の追及によって「実態把握」を口にはしたものの、その手法は「加藤勝信厚労相を中心に検討する」と丸投げするだけ。「労働者の声をしっかり聞くという方針を示してほしい」と迫られても、安倍首相は「厚労相が答弁した通り」と人ごとのような態度を繰り返しています。

 安倍首相は、捏造データをもとにした答弁撤回に追い込まれた際も、「厚労省から上がってくる答弁(書)を参考に答弁した」「一つ一つの資料を正しいか確認しろなんてありえない」と厚労省に責任を転嫁。「働き方改革」一括法案を今国会の「目玉」と位置づけながら、自らの答弁にも責任を持とうとしていません。

 働く者の命がかかった法案を国会に提出しようとしているにもかかわらず、安倍首相のこんな開き直りの答弁がまかり通るなら、まともな国会論戦すら成り立ちません。

安倍首相の答弁(衆院予算委)

開き直り

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(写真)答弁する安倍晋三首相(左)と加藤勝信厚労相=2月26日、衆院予算委

 ●「(1月29日の質疑で『裁量労働制で働く方の労働時間は平均的な方に比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある』とした答弁を撤回したことについて)データを撤回すると申し上げたのではなく、精査が必要なデータに基づいて行った答弁を撤回した」(2月20日)

 ●「データの精査をしている中で、データ自体を撤回することは適切ではない」(2月26日)

丸投げ

 ●「すべて私が詳細を把握しているわけではない」「短い時間で(質問への答弁検討を)効率的にやるしかない」「役所から上がってきた資料をある程度信頼して答えるのは当然のことだ」(2月20日)

 ●「(データの精査が終わらなくても『働き方改革』一括法案を国会提出するのかと問われ)与党での審査があるから、いま確定的なことはいえない」「法案を提出するかどうかは党として決めることだ」(2月26日)

“興奮するな”

 ●「(与党側がヤジを飛ばし、安倍首相が自席からヤジを飛ばしたことを野党議員が指摘すると)あまりにも委員が興奮されるから。こういうのはしっかりと落ち着いて議論をしましょうよ、働き方の話なんですから」(2月26日)

6野党結束 潮目変える

「反対」多数

グラフ:裁量労働制の対象拡大について

 「働く人の視点・立場に立った改革」という安倍首相の偽りの「働き方改革」の正体を暴露し、政府・与党に法案提出を先送りさせている力は、6野党の結束した対応と事実に基づいた追及でした。野党の国会共闘は潮目を変え、世論調査では裁量労働制の拡大について「反対」が多数になっています(グラフ)。

 日本共産党、立憲民主党、希望の党、民進党、社民党、自由党の6野党は、厚生労働省の担当者を招いた合同ヒアリングを計11回開催し、恣意(しい)的な操作でデータが作られたことを確認しました。大切な人を無理な働かされ方で奪われた「全国過労死を考える家族の会」と連帯し、裁量制の拡大が「労働者の命にかかわる」と連日追及。加藤勝信厚労相が「なくなった」としていた調査原票の入った段ボール32箱を公表しました。

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(写真)2月27日に国会内で開かれた野党合同院内集会。あいさつしているのは日本共産党の小池晃書記局長

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(写真)国会内で厚労省からヒアリングする6野党の議員ら=2月27日

 さらに、節目ごとに国会対策委員長会談や書記局長・幹事長会談を開催。▽裁量労働制の実態を把握する再調査▽「働き方改革」一括法案の提出断念▽佐川宣寿国税庁長官、安倍昭恵首相夫人、加計孝太郎氏の証人喚問―を一貫して要求してきました。

 2月26日には断続的に深夜まで与野党書記局長・幹事長会談が続けられました。翌27日、6野党は23日に続く2度目の合同集会を開催。各党の書記局長・幹事長が、法案提出撤回に向けて一致団結することを口々に訴えました。日本共産党の小池晃書記局長は、6野党の結束が急速に進み「旧知の友のような連帯感が幹事長・書記局長の間に生まれている」と語っています。

 予算委員会では、与党が野党の質問時間を減らそうと画策するなか、計64時間37分に及ぶ質疑を行いました。野党は、裁量労働制の方が労働時間が短いとする安倍首相の答弁の基になったデータの不備を独自に調査し追及。安倍首相は答弁の撤回・陳謝に追い込まれました(2月14日)。

 世論の怒りが広がる中で与党も動揺し、厚労省を批判しはじめます。安倍首相は28日、「働き方改革」法案の提出に「相応の時間を要する」と表明せざるを得ませんでした。

財界の要求

 しかし、安倍政権は「働き方改革」法案を断念したわけではありません。背景に、財界の強い要求があります。

 日本共産党の高橋千鶴子、塩川鉄也、藤野保史の各衆院議員は予算委で、現状でも違法な裁量労働が野村不動産といった大企業でも横行していると指摘。裁量制拡大は、違法なサービス残業を合法化するばかりか、営業職にまで広げるものだと告発しました。

 日本共産党は今国会の論戦のはじまりとなった代表質問で、「働き方改革」法案を「徹頭徹尾、大企業の立場に立った『働かせ方大改悪』だ」(志位和夫委員長)、「過労死の合法化だ」(小池書記局長)とただしました。この間の質疑で、その指摘はいよいよ重要になっています。


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