2018年2月25日(日)
これでわかる 労働時間データねつ造問題
「働き方改革」一括法案に盛り込まれた「裁量労働制」の拡大をめぐる労働時間データねつ造問題は、政権ぐるみのデータ偽装疑惑の様相を呈しています。経緯と問題点、背景をQアンドAで―。
Q 何が問題に?
A 虚偽データで誘導
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発端は安倍首相が1月29日に「裁量労働制で働く方の労働時間は平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁したことです。
厚労省の「2013年度労働時間等総合実態調査」で、平均的な一般労働者の労働時間は9時間37分、裁量労働者の労働時間は9時間16分だとして、裁量労働を拡大しても長時間労働にならないとアピールしたのです。
しかし、野党の追及でこの数値がねつ造されたものであることが明らかになりました。
一般労働者は、「最も長い1日の残業時間」に法定労働時間の8時間を加えて、長くなるように加工。一方、裁量労働者のほうは1日の「労働時間の状況」の集計で、これも実労働時間でなく事業者が判断した時間でした。
調査方法も性質も異なり比べられないものをねつ造して比較し、偽りの結論へ誘導していたのです。
Q 裁量労働とは?
A 「定額働かせ放題」に
裁量労働制は、仕事の仕方を労働者の裁量に委ねる代わりに、いくら働こうが労使協定で決めた時間だけ働いたと「みなす」制度です。協定で8時間となれば10時間働いてもそれ以上残業代は出ません。労働者から「定額働かせ放題」と批判され、実際に過労死も起きています。
裁量労働は、企画業務と専門業務に限定されています。労働政策研究・研修機構の調査(2014年)によると、1カ月の平均労働時間が、専門型203・8時間、企画業務型194・4時間に対し、一般労働者は186・7時間で裁量労働が長くなっています。
同機構の調査で、「一律の出退勤時刻がある」が企画業務型で50・9%にのぼるなど仕事の裁量もないのが実態です。
一方、「残業代ゼロ」制度は、一定の年収者を対象に労働時間規制を適用除外にするもので、深夜・休日労働などは規制が残る裁量労働とは異なります。
Q 裁量労働の拡大とは?
A 営業職までも対象に
政府案では、企画業務型の裁量労働に「課題解決型提案営業」と「実施状況の評価を行う業務」を加えます。
「提案営業」とは、過労自殺した電通社員の高橋まつりさんが担当していた業務です。商品などを売るだけでなく顧客の要望に沿う提案を行う業務です。営業職の多くはこうした提案営業の側面を抱えており、これが加わると裁量労働者が飛躍的に増加します。
損保ジャパン日本興亜や野村不動産では、禁じられている営業社員に適用して残業代を払っていませんでした。損保ジャパンでは、職員1万8000人のうち6000人以上に適用され、実際の残業時間は「みなし時間」の2倍にのぼっていました。政府の法案は、こうした違法行為を合法化するものです。
Q なぜ、こんなことに?
A 対象拡大ありきに原因
安倍首相は、データねつ造問題で「私や私のスタッフから指示を行ったことはない」と言い訳しています。
しかし、労働政策審議会で議論が始まる直前の2013年6月、安倍内閣が閣議決定した日本再興戦略(骨太方針)で「企画業務型裁量労働制を始め、労働時間法制について検討を開始する」と定めました。2014年6月改定の日本再興戦略でも、「残業代ゼロ」制度の導入とあわせて裁量労働の具体的な拡大を求めたのです。
規制緩和のレールを敷いて“拡大ありき”の態勢をつくりあげたのは、安倍内閣です。データねつ造はこうしたもとで引き起こされたものであり、安倍首相の責任が問われます。
Q 労政審で了承された?
A 労働者の反対押し切る
安倍首相は、労働政策審議会で了承されているから問題ないと言い訳しています。
しかし、“労政審で了承”どころか、労働者委員が「対象拡大に反対」と表明したのを押し切ったのが実際です。
しかも、一般労働者と裁量労働者で調査方法が異なることを説明しないまま審議会に報告されていました。
さらに虚偽のデータが200カ所以上もあることが判明。一方で裁量労働者のほうが一般労働者より労働時間が長くなっている労働政策研究・研修機構の調査(2014年)は報告されませんでした。誤った情報にもとづいて議論が行われていたことになり、正しい政策決定プロセスを踏んだとはいえません。
「働き方」法案にはこのほか、「残業代ゼロ制度」の導入や、過労死ラインまで残業を認める上限規制など問題点だらけです。法案提出は断念し、きちんとした情報に基づいて議論をやり直すべきです。