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2018年2月24日(土)

労働時間データねつ造 政府の言い分次々崩壊

裁量労働拡大ありき

 裁量労働制に関する労働時間データのねつ造問題で、安倍晋三首相の言い分が次々破たんしています。その背景には、国民の批判に目を向けず裁量労働制の対象拡大ありきで突き進む安倍政権の戦略があります。


発端は安倍首相自身

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 「法案の準備をしっかり進めていきたい」。安倍首相は、データねつ造が明らかになった後も裁量労働制の対象拡大などを盛り込んだ「働き方改革」一括法案の今国会提出に固執しています。

 そもそも今回のデータねつ造問題の発端は安倍首相自身でした。1月29日の衆院予算委員会で、厚生労働省が2013年に行った労働時間調査を基に「一般労働者より裁量労働制で働く人の労働時間が短い」と答弁しましたが、その後野党側が次々と厚労省調査の根拠データへの疑義を国会で追及。2月14日に答弁を撤回し、謝罪する事態に追い込まれました。野党側が指摘した根拠データの疑義について加藤勝信厚労相は7日に把握していながら、安倍首相も加藤厚労相も14日の答弁撤回まで「精査している最中」と責任回避に躍起になりました。

 19日には厚労省が、首相答弁の根拠となった同省の調査データを公表し、一般の労働者の労働時間が長くなるように「最長の残業時間」を使うなど“ねつ造”されていたことが判明。ところが安倍首相は「データを撤回すると申し上げたのではなく、精査が必要なデータに基づいて行った答弁を撤回した」と“珍”答弁(20日)。算定方法が異なるデータを比較したのは「不適切」かもしれないが、データの中身そのものは問題ないと強弁し始めたのです。

 しかし、これも崩れました。日本共産党など野党6党が行っている厚労省に対する合同ヒアリングで、一般労働者の残業時間データで新たに117件にのぼる誤りが発覚。その後もデータの誤りは増え、237件以上になっています。さらに加藤厚労相が「なくなっている」と国会答弁していたデータの基となる調査原票も厚労省本庁の地下倉庫から見つかりました。22日の衆院予算委では、裁量労働制の労働時間データは平均的な数字でなく、「企業の方で選んだもの」(加藤厚労相)と極めて恣意(しい)的なものであることも明らかになりました。

 国会答弁の根拠となったデータのねつ造問題が深刻化するなか、データの再調査を一貫して拒んできた安倍首相は、1万件以上にのぼる調査原票を「精査する」と言いだし、あげくに1年施行延期まで検討する事態に追い込まれています。

レール敷いた安倍政権

 今回の労働時間データねつ造問題の背景には、裁量労働制の対象拡大ありきというべき安倍政権の姿勢があります。

 裁量労働の対象拡大を含む労働基準法の見直しは、厚生労働省の労働政策審議会(労政審)で2013年9月から議論が始まりました。

 しかし、議論のベースとなる労働時間の実態については、裁量労働のほうが一般労働者より労働時間が長くなっていた、労働政策研究・研修機構の労働時間に関する実態調査結果は審議会に報告されませんでした。逆に一般労働者のほうが長くなるようにねつ造された厚労省の「2013年度労働時間等総合実態調査」が報告され、議論がすすめられていきました。

 なぜ、裁量労働拡大の危険性を示すデータが審議会の委員に報告されなかったのか。

 その背景には、審議会が始まる直前の同年6月、安倍内閣が、経済財政諮問会議や産業競争力会議での議論をへて閣議決定した日本再興戦略(骨太方針)がありました。同戦略で、「企画業務型裁量労働制を始め、労働時間法制について、早急に実態把握調査・分析を実施し、本年秋から労働政策審議会で検討を開始する」と定めたのです。

 同じく6月に閣議決定された規制改革会議の規制改革実施計画でも「企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制等労働時間法制の見直し」と明記しました。経済財政諮問会議も産業競争力会議も規制改革会議も労働者代表は一人もおらず、財界が求める労働法制の規制緩和がそのまま盛り込まれたのです。

 この閣議決定を受けて始まった労働政策審議会で、厚労省の村山誠労働条件政策課長は「閣議決定に即しまして、労働政策審議会の中で、労働時間法制を所掌していただいている労働条件分科会にご審議をお願いしたい」と発言しました。

 審議会では、実態データは厚労省が提出し、論点やとりまとめ案なども、すべて厚労省が原案を作成。最終報告では、労働者代表の反対を押し切って財界の要求通りの規制緩和が盛り込まれました。

 安倍首相は、裁量労働拡大のために都合のいいデータをつくらせたのではないかと国会で質問され、「私や私のスタッフから指示を行ったことはない」と関与を否定しました。

 しかし、日本再興戦略などで規制緩和のレールを敷いて異論を許さない態勢をつくりあげたのは、安倍内閣です。都合の悪いデータは隠ぺいし、都合のいいデータだけを垂れ流す事態は、こうした安倍内閣のもとでつくられたものであり、安倍首相の責任が厳しく問われます。

■労働法制改悪のレールを敷いた安倍政権

2013年6月 日本再興戦略を閣議決定

「企画業務型裁量労働制はじめ労働時間法制について検討開始」

    同 規制改革実施計画を閣議決定

「企画業務型裁量労働等労働時間法制の見直し」

   9月 労働政策審議会労働条件分科会で議論開始

  10月 労政審で厚労省「労働時間等総合実態調査」を報告

14年1月 労政審で労働政策研究・研修機構調査の労働時間分を報告せず

   5月 労働政策研究・研修機構調査を報道発表

15年2月 労政審が建議。労働者委員が反対意見

    同 労基法改定案の法案要綱を答申。労働者委員が反対意見


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