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2022年5月6日(金)

平和考

9条の力 全面発揮今こそ

外交強化こそ最大の安全保障

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(写真)阿部浩己氏

 「『戦争の最大の代償は常に市民の命であり、戦争は絶対に起こしてはならない』―。国連のグテレス事務総長がウクライナで語った言葉だ。市民の立場からは、戦争に勝者はなく戦争を起こした時点で敗北だ。これこそがウクライナ危機から私たちが学ぶべき最大の教訓だ」

 明治学院大学の阿部浩己教授(国際法)はこう述べます。

信頼関係を築く

 「では、戦争を起こさないためにどうするか。武力衝突は、戦争を起こす能力と意思が一致して起こる。信頼関係が破たんして戦争の条件がつくられる。東アジアで戦争を起こさないためには、日本が周辺国、世界各国との信頼関係を築くことを再確認するべきだ。それが日本国憲法の理念であり、諸国民の公正と信義に信頼して外交を強める。それが最大の安全保障だ」

 これに対し、ロシアによるウクライナ侵略を前に、自民党、日本維新の会や日本会議勢力は、「9条では日本は守れない」として、敵基地攻撃能力の保有をはじめとする大軍拡、核共有、9条改憲を強くあおっています。

 「力には力で」「軍事には軍事で」という論理は、際限のない大軍拡、軍拡競争に陥り、戦争への危険を高めていきます。

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(写真)佐々木寛氏

 新潟国際情報大学の佐々木寛教授(平和学)は「安全保障のジレンマ」を指摘します。「こちら側が軍備を拡大し、安全保障を追求しようとすればするほど、相手も同じことをする。その結果、自らの安全を脅かすことになる。これが安全保障のジレンマだ」

 佐々木氏は、この点に加え、「戦争を始めるのも終わらせるのも米国が決める。安保法制をはじめ日本は米国の下請けに組み込まれ、米国の決定で自衛隊が命のやり取りをする状況に巻き込まれる。軍拡派はこれらの問題を全く見ようとしていない」と批判します。

鋭さ増す対抗軸

 9条による平和外交の本格的展開か、軍拡と軍事同盟強化か―。戦争の現実を前に、対抗軸は鋭さを増しています。

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(写真)千葉眞氏

 千葉眞国際基督教大学名誉教授(国際政治)は「東アジアでは『米国と日本』『米国と韓国』『米国と台湾』など、すべて米国機軸、米国依存の安全保障で、中国や北朝鮮との緊張を高めている」と指摘。「敵味方をしゅんべつして敵対関係を強めるやり方は根本的に見直すべきで、東アジア全体を包括して中国、北朝鮮、ロシアも含めた枠組みをつくる努力が求められる。その真ん中で日本が役割を果たす。そういう平和外交を進めるチャンスがやってきた。今こそ憲法9条の出番だ」と語ります。

 佐々木氏は「冷戦構造と日米同盟で封じ込められてきた憲法9条の力を、いまこそ全面発揮する。安保と9条ではなく、9条の枠内でその構想力をもって安全保障を語るべきときだ」と強調します。

共産党の平和戦略提案

ASEAN外交 憲法と共鳴

軍拡より「平和の準備」

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(写真)「守ろう平和・いのち・くらし」と一斉にアピールする憲法大集会の参加者=3日、東京都江東区

 日本共産党は、「軍事対軍事」の悪循環の道をしりぞけつつ、9条に基づく平和の外交戦略を提起。ASEAN(東南アジア諸国連合)が築いてきた平和の地域共同体の取り組みに学び、ASEAN諸国とも手を携え、日米中ロなども参加する東アジアサミット(EAS)の枠組みを活用しながら東アジアを平和と協力の地域にしていくことを提起しています。

戦争しない合意

 EASでは、日米中ロなどの参加国が、ASEANとの間で紛争の平和手段による解決を義務付けた東南アジア友好協力条約(TAC)を締結しています。これを米中、米ロ、日中などのEAS加盟国相互のマルチ(多角的)な関係に発展させていけば、東アジアに新たな平和の枠組みをつくることができます。

 新潟国際情報大の佐々木氏は「戦争に備えるのではなく、望まない戦争が起きない仕組みを国際的に共通につくっていく。そういう考え方をASEANはヨーロッパからも取り入れ、独自のやり方(Asean Way)で進めてきた。そういうことを東アジアでも模索していくべきだ」と述べます。

 東アジアは、東南アジアとは異なる条件として、米中ロなど覇権国が存在し世界有数の核の集中地域という事情も存在します。佐々木氏は「ASEANとの協力も含め、日本はまさに新しい安全保障や外交のモデルをこの困難な地域でつくる使命がある」と語ります。

 国際基督教大名誉教授の千葉氏は「一挙にASEANのような友好協力条約にまでたどり着けなくても、例えば5段階ぐらいのロードマップを考えながら政策提言を持っておくことは重要だ。共産党の政策活動にも期待したい。ウクライナの状況を見て国民も危機感を強めているもとで、冷静な理詰めの議論の存在は貴重だ」と語ります。

 中国との懸案であり国民の不安を呼んでいる尖閣問題でも千葉氏は、中国艦艇の日本領海や接続水域への侵入に対し中国側にはっきり抗議の意思表示をしつつ、「武力紛争を起こさない」ための合意を呼びかけていくことが重要だとし、現状ではそうした働きかけが欠如していると懸念を表明します。

 明治学院大の阿部氏は「ASEANとの距離を近づけていくことは東アジアの安全保障を考えるうえで非常に重要だ。この可能性はもっと議論、報道されてよい」と述べます。

 そのうえで日本国憲法との関係についても「自国の安全を守るために、地域全体で、各国とある種の信頼関係を築こうとしている。そういう信頼関係を築くのは日本国憲法の安全保障の理念であり、ASEANのやり方は日本国憲法と共鳴するところが大きい。敵基地攻撃能力を持つより、はるかに努力のいる大変なことだが、自分たちをかけていく価値のあるものだ」と指摘。「このやり方は、敵基地攻撃能力で互いに危険な日常にいくより、はるかに安全保障の度合いを高める」と語ります。

9条の精神実践

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(写真)志位和夫委員長

 日本共産党の志位和夫委員長は、東アジアの友好協力条約をつくる平和構想の特徴の一つとして、国連憲章、日本国憲法の精神にかなっていることを繰り返し強調しています。志位氏は「国連憲章の本来の精神は、集団安全保障にあり、国連憲章では、地域的な集団安全保障も重視されて明記されている。そして日本国憲法の精神は、紛争の平和解決――『紛争を戦争にしない』ということ。人類の社会からは紛争はなくならないかもしれないが、人類の英知で紛争を戦争にしないことはできる。これが日本国憲法第9条の精神であり、この精神を実践しているのが今のASEANのとりくみと言えるのではないか」と述べています。

 ロシアによるウクライナ侵略は世界に衝撃をもたらし、反戦平和の声が広がっています。その中で、日本国憲法9条の能動的側面が歴史的試練に立たされています。

 「九条の会」呼びかけ人で評論家の故・加藤周一氏は、2005年11月の講演会で「平和を望むなら、戦争を準備せよ」というラテン語のことわざを紹介しつつ、これは「間違っています」と指摘。「戦争の準備をすれば、戦争になる確率が大きい。もし平和を望むなら戦争を準備せよじゃあない。平和を望むならば、平和を準備した方がいい」と語りました。今の瞬間に通ずる重い言葉です。

 (柴田菜央、中祖寅一、中野侃、目黒健太)


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