2022年4月24日(日)
参議院選挙予定候補者会議
志位委員長の発言
19日におこなわれた日本共産党の参議院選挙予定候補者会議で、志位和夫委員長が発言した内容を加筆・補正のうえ紹介します。
|
みなさん、こんばんは。連日のご奮闘に心から敬意を表します。みなさんと一緒に、激烈な政治戦をたたかう決意を込めて若干の発言をいたします。
先日の都道府県委員長会議の「まとめ」で、今度の参議院選挙は、情勢に対する日本共産党の基本姿勢が鋭く問われる選挙になる、ということを話しました。情勢に、攻勢的姿勢でのぞむか、受動的姿勢でのぞむか、そのことで天地の差が生まれるということを強調しました。
攻勢的な姿勢を貫くことは、今度の政治戦の最大の争点の一つになっている、「戦争か、平和か」をめぐる論戦でとりわけ大事になってきます。
攻勢的な姿勢の重要性――二つの出来事にふれて
最近、それを実感した出来事が二つあります。
一つは、自民党のある重鎮の方から、私たちに対してこういう声が寄せられました。
「いよいよ共産党の出番ですね。ウクライナ危機をうけて、自民党の中から、軍備拡大や核共有などの声があがっていることは本当に嘆かわしい。よく『9条で日本を守れるか』などの意見がありますが、戦争をおこさせないために知恵と力を尽くすのが政治の役割です。『日本を守るために、軍事費を増やせ、核共有だ』という人がいますが、そこには政治の役割がなく、これでは戦前の軍がやってきたことと同じです。『9条は理想だ』という人もいますが、理想を実現するために努力するのが政治家の役割です。ぜひ共産党さんには、9条にもとづく外交の重要性を堂々と訴えてもらいたい。共産党は先の戦争に反対した唯一の政党なのですから、その政党として、9条を胸を張って語れるし、その資格のある政党だと思っています。共産党のいう、東アジアを視野に入れ、そこを平和と協力の地域にしていくために、憲法9条を生かした平和外交というのはたいへんに大事な視点だと思います」
いま一つは、一昨日(17日)投開票された、滋賀県の近江八幡市の市議補選で、定数2で、日本共産党の井上さゆり候補が1万2039票、39・8%を獲得して、トップ当選したことです。衆議院比例票の4・23倍を獲得した。どういうたたかいをしたのかを井上さんに聞いてみたところ、つぎのような報告が寄せられました。
「勝因の第一は、論戦で優位をつくりだしたことにあります。とくに、ウクライナ問題で、党の立場と値打ちを語りつくしたことが、党員の立ち上がりをつくり、市民の共感を広げました。それと市政をめぐるさまざまな政策を一体にたたかいました。論戦では、ウクライナ問題を入り口に、危機に乗じた9条改憲NO! 9条を生かした平和外交を進める日本共産党、と訴えて、これに特別に力を入れました。演説のだいたい7分のうち、3分くらいはそれをやりました。選挙戦が進むにつれて、保守系市議が、『今度は後援会ぐるみで井上さんに入れる』といったこれまでにない反応が出始めました。同時にそういう人たちの中から対話の中で、『それでも日本が攻められたらどうするのか』、『自衛隊は使わないのか』という質問があり、日本共産党の自衛隊についての考え方を丁寧に説明して納得してもらっています。ほとんどの方が、『初めて知った』『本当に日本の安全保障政策を考えている党だね、安心できる』といって、保守の方も支持してくれました」
まさに攻勢的対応をやって、情勢を切り開いたという経験として、この教訓は今後に大いに生かしたいと思います。
「国連憲章にもとづく平和の国際秩序の回復」という主張の重要性
「戦争か、平和か」をめぐる論戦について、いくつかの点を述べておきたいと思います。
幹部会報告では、ロシアのウクライナ侵略と日本共産党の立場について、四つの点に確信をもってのぞもうと訴えました。(1)国連憲章と国際法を基準に対応する。(2)核兵器使用を許さず、核兵器廃絶をめざす。(3)綱領の世界論に確信をもって現状と展望をとらえる。(4)「どんな国であれ覇権主義は許さない」との歴史と綱領を持つ党を誇りをもって訴える。この四つの点で、党の値打ちを自信をもって大いに語ろうと話しました。
討論のまとめでは、この4点というのは、どれも、日本共産党ならではの訴えだと強調しました。
ここでは、それに付け加えて、2点ほど話したいと思います。
一つは、「国連憲章にもとづく平和の国際秩序の回復」というわが党の訴えの重要性についてです。
この間の、国会での岸田首相の答弁の特徴は、ロシアの侵略を、「国際法違反」とまでは言うのですが、「国連憲章違反」ということをできるだけ言わないようにしているということです。もちろん、聞かれたら「国連憲章違反」と言います。先日の質疑で、田村智子政策委員長が、「国連憲章違反と認識していますか」と首相に質問しました。その時には「国連憲章に違反している」と言うのですが、聞かれないと言わない。「国連憲章」という言葉を最大限使わないようにしています。さらに、「国連憲章にもとづく平和秩序を回復する」という解決の方向は、一切語りません。
この背景にはアメリカの姿勢があります。バイデン大統領は、ロシアの侵略が始まった後の一般教書演説で、ロシアへの激しい非難は行いましたが、「国連憲章」という言葉を一切語りませんでした。彼が強調したのは、「民主主義VS専制主義」というスローガンでした。もちろんプーチン政権が専制主義であることは間違いありませんが、今問われているのはあれこれの「価値観」ではありません。「国連憲章を守るのか、壊すのか」です。「国連憲章を守れ」の一点で、あれこれの「価値観」を超えて世界が団結することが何よりも重要なのです。アメリカに追随して「民主主義VS専制主義」という世界を二分する角度で対応すれば、解決の力も、解決の方向も見えなくなってしまいます。
どうやってこの戦争を終わらせるか、みんなが胸を痛めて毎日のニュースを見ているわけですが、解決方法は、幹部会報告が述べたように、「国際世論の力で侵略を止め、侵略者に責任をとらせ、国連憲章にもとづく平和秩序を回復する」という決着が強く求められています。世界の多数の国ぐにはこの立場に立っているわけですが、日本共産党がこのことを自覚的に主張しつづけていることは、たいへんに重要であります。
プーチンはロシア帝国の末裔、マルクス、エンゲルスの立場を引き継ぐ日本共産党
もう一点話しておきたいのは、覇権主義とのたたかいの問題です。
先日、民青同盟の学生オンラインゼミで、「ロシアによるウクライナ侵略について、科学的社会主義の見地からどういった分析ができるか」との質問がありました。
これは重要な質問です。プーチン大統領がなぜ侵略に乗り出したか。その原因はいろいろあると思いますが、私は、プーチンを突き動かした最大の動機は、ロシアの歴史的な覇権主義にあると思います。彼は、「ロシアとベラルーシとウクライナは一つだ」と言った。つまり、ウクライナを主権国家として認めない。まさにロシアの歴史的な覇権主義が彼を突き動かして戦争にかりたてたのです。
それでは、ロシアの歴史的な覇権主義はどこからはじまったのか。18世紀以来の帝政ロシアからです。19世紀には帝政ロシアは、フィンランド、バルト3国、ポーランド、ウクライナなどを、すべてのみ込み、支配下においていました。そういう状況を前にして、マルクス、エンゲルスは、ヨーロッパの労働者階級がたたかわなければならない覇権主義が二つあると、告発し、訴えています。一つは、ロシア帝国の覇権主義、膨張主義です。もう一つは、イギリス資本主義の植民地主義です。この二つの覇権主義と正面からたたかわないと、労働者階級の解放はないということを繰り返し強調しています。「どんな国であれ覇権主義は許さない」というのは、マルクス、エンゲルスの立場でした。
ロシア帝国は、1917年のロシア革命によって倒れます。レーニンが指導した初期の時期は、歴史的な覇権主義を根本から断ち切って「民族自決権」の旗を掲げ、現実にそれを実行していきました。フィンランド、ポーランド、バルト3国は、分離・独立しました。これはその後の植民地体制の崩壊につながる歴史的業績となりました。
しかし、レーニン死後、スターリンが権力を握り、より乱暴な形で覇権主義が復活しました。そして、スターリンが死んだ後も、その後継者によって覇権主義が続きました。そして1991年、ソ連はついに崩壊しました。しかしソ連は解体しても、覇権主義は残ったのです。ロシア帝国、スターリン、プーチン――脈々と歴史的に続いた覇権主義が猛威を振るっているというのが、現在の状況だと思います。
つまりプーチンはロシア帝国の末裔(まつえい)なのです。共産主義とは何の関係もありません。反対に、科学的社会主義をつくったマルクス、エンゲルスが厳しく反対した、覇権主義・ロシア帝国の末裔なのです。そして、日本共産党こそ、「どんな国であれ覇権主義を許さない」というマルクス、エンゲルスの立場を引き継いでいるのです。そういう大きなところでも確信を持って頑張ることが必要ではないかと思います。
「軍事対軍事」を厳しく拒否し、9条を生かした外交で東アジアに平和を創出する
そのうえで、「危機に乗じた9条改憲を許さず、9条を生かした外交で東アジアの平和を創出する」という、選挙戦の熱い争点にかかわって若干のことを述べたいと思います。
この論戦の対決軸はどこにあるか。これは幹部会決定が述べているように、「軍事対軍事」を断固退ける。そして9条を生かした積極的・能動的な外交の力で、東アジアに平和を創出する。ここに対決軸があるわけです。
軍事に対して軍事――抑止力で対応する。やれ「敵基地攻撃」だ、やれ9条改憲だ、はては「核共有」だと。これは「安全保障のジレンマ」に陥り、軍拡競争のエスカレートを招き、一番危険なことになります。通常兵器であれ、核兵器であれ、軍事的抑止力で対応するという立場を、私たちは断固拒否します。
日本にとっての現実的な危険はどこにあるか。安保法制を発動して、日本が攻撃されていないのに、米軍が軍事行動をはじめたら、集団的自衛権を発動して、自衛隊が米軍と一体になって、相手国に「敵基地攻撃」で攻め込む。その結果、戦火を日本によびこむ。これこそが日本が直面している最大の現実的な危険です。
それを絶対に許さない。日本を「軍事対軍事」の危険な道に引き込む9条改憲は許さない。ここにたたかいの中心課題があります。
そして9条を生かした外交の力で東アジアに平和を創出する。この基本に徹する。これが日本共産党の安全保障政策の根本です。
よく「攻められたらどうする」という議論を、自民党などはやります。しかし「攻められたらどうする」ではなく、いかにして“紛争を戦争にしない”――平和な国際環境をつくるかが何よりも大事だということを訴えていきたいと思います。
東アジアに平和をつくる日本共産党の「外交ビジョン」――現実的で合理的な提案
この点で、幹部会報告でも述べた、東アジアに平和をつくる日本共産党の「外交ビジョン」は、東アジアに平和をつくる現実性もあるし合理性もある提案だということを強調したいと思います。
というのは、この提案は、東南アジア諸国連合(ASEAN)と、東アジアサミット(EAS)という、現にある枠組みを生かして、平和を創出しようという提案だからです。これから新しい枠組みをつくるのではなく、現にある枠組みを生かし、それを強化して、東アジアに平和をつくっていこうという提案ですから、誰も否定できない、現実的で合理的な提案なのです。
そしてこれは排他的アプローチではなく、包括的アプローチだということが重要です。軍事ブロックのように外部に敵をつくらないで、みんなを包み込んで、話し合いのテーブルをつくり、実践していこうということですから、これは国連憲章の精神にもかなっているし、何よりも憲法9条の精神と合致したものです。
東アジア規模での友好協力条約が可能だという根拠を二つほど強調したい。一つは、ASEANは、東アジアサミットに参加している全部の国と個別にTAC(東南アジア友好協力条約)を結んでいるということです。「バイ(2国間)の形」ではすでにTACを締結しているのです。ならばそれを「マルチ(多国間)の形」でのTACに発展させることはできるはずです。
それから2011年の11月に、インドネシアのバリで、東アジアサミットは「バリ宣言」を採択しています。「バリ宣言」の中にはTACの政治的な中身がみんな入っています。政治宣言としてすでに合意しているわけですから、それを条約にすれば良いだけです。意思さえあれば可能なのです。
改憲勢力は「9条で平和を守れるか」といいますが、9条を生かしたこういう外交努力の方向こそ、一番現実的で、一番建設的な方向なのです。軍事的抑止力で対抗することこそ、危険なだけではなく、およそ現実には成り立たない話なのです。
こうした点も含めて、確信をもってぜひ語っていこうではありませんか。
岸田政権の致命的問題は、こうした外交戦略をもたないということです。外交がなくて軍事ばかりやっている。ここに致命的問題があるわけです。その角度で、厳しく批判していく必要があります。
自衛隊の段階的解消の方針、「活用」論をめぐって
そのうえで、万が一のことが起こったとき――急迫不正の主権侵害が起こったときの心配にもこたえていこうというのが、幹部会報告の提起です。
わが党が参加する民主的政権ができたときに、日本共産党としては、9条を生かした外交で東アジアの平和創出のために力をつくすことによって、日本の平和を確保することを、安全保障の大方針として追求します。
同時に、このプロセスが成熟するには一定の時間がかかります。外交努力によって平和的環境をつくることに力をつくしつつ、その途上で、万が一、急迫不正の主権侵害が起こった際には、民主的政権として、自衛隊も含めてあらゆる手段を行使して命と主権を守る。自衛隊を活用する。これが幹部会報告で述べた立場であります。
この問題は、参院選に向けて必ず議論になってきます。攻勢的にこの問題でも党の立場――自衛隊問題の段階的解決(自衛隊の段階的解消)の方針を語ることが重要です。この方針を決定した2000年22回大会の大会決議と中央委員会報告・結語は、ぜひ読んでいただければと思います。『新・綱領教室』でも、この問題についての中心的な論点を解説しましたので、読んでいただければと思います。
そのうえで、3点ほど述べておきたい。
第一は、この方針の位置づけについてです。この方針にかかわって、「軍拡議論にのることにならないか」という心配の声もあるといいます。それは違います。さきほど述べたように軍拡競争をもたらす「軍事対軍事」による対応を厳しく退ける。9条を生かした外交の力で東アジアに平和を創出する。これがわが党の主張の中心点です。
そのうえで、このプロセスには一定の時間がかかるわけで、その途上でもし「万が一」の事態が起きたときの対応について述べているのです。
9条にもとづく外交の力で東アジアに平和をつくりだすことを最優先に力をそそぐという流れのなかに、この方針を位置づけて、理解し、語っていっていただきたいと思います。
第二は、なぜ今回の幹部会報告であえて自衛隊の活用に言及したか。それは、2000年の党大会でこの方針を決めた時と、22年たった現在とでは、日本をとりまく国際環境に違いが生まれているからです。そのことを念頭において攻勢的な対応が必要となっているからです。
第22回党大会での中央委員会報告では、日本に対する急迫不正の主権侵害は、「現実にはほとんどありえない」と言っています。現実にはほとんどありえないけれども、理論的な設問に理論的な回答をきちんと持っておく必要があるという立場から、自衛隊を活用するという方針を表明しました。「現実にはほとんどありえない」という情勢認識には根拠がありました。22年前の2000年というのはどういう状態かというと、中国は今のような覇権主義の行動をやっていません。北朝鮮をめぐる情勢も、当時は、1999年には、超党派の訪朝団が平壌を訪問しました。2000年には南北首脳会談が行われました。2002年には日朝平壌宣言がかわされました。対話による解決の流れが起こっていました。「現実にはほとんどありえない」と言ったのは、22年前には根拠のある認識だったと思います。
22年前と比較すると、日本を取り巻く国際環境には違いが生まれています。ただ、この違いを言うときに、自民党などは過大に危機感を扇動します。事実にもとづかない過大な危機あおりは私たちきっぱり退けなければなりません。それでも22年前と比べると、日本を取り巻く国際環境に、いろいろな“きな臭い”要素が出てきているのは事実です。たとえば、中国は2008年から、とくに2012年以降、尖閣諸島の領海や接続水域に公船を侵入させるということを行っています。北朝鮮は軍事挑発を繰り返しています。一方で、アメリカは、中国などに対して、軍事的対応で抑え込もうという戦略をとっています。こうしたもとで、わが党が参加する民主的政権ができた場合に、安全保障をどうするかがより切実に問われる状況があります。
そういう状況のもとで、幹部会報告で述べたように、9条を守り生かすことと、国民の命を守り抜くことと、その両方を統一的に追求する――これが日本共産党の立場であることを、訴え抜くことが大事になってきています。
「軍事対軍事」は断固退ける、東アジアに外交の力で平和を創出する、このことを前面に訴えながら、「万が一」の時にはこういう対応をしますということを、「この問題は難しい問題だからできるだけ避けた方がいい」というのではなくて、「胸を張って訴えていく」ことが、現在の情勢のもとで大事になっています。だから「はてな」リーフにも、「万が一」の場合の対応について言及しています。幹部会報告でも言及したのは、そういう状況を踏まえてのものです。
第三に、この問題で述べておきたいのは、幹部会報告では、万が一、急迫不正の主権侵害が起こった時には、「自衛隊を含めてあらゆる手段を行使」、「自衛隊を活用する」と言っていますが、ここでいう「行使」する主体、「活用」する主体はいったい誰かということについてです。これは言うまでもなく、わが党も参加する民主的政権の対応として言っているわけです。そのことは、「行使」「活用」という表記で明瞭です。自衛隊を活用する――実力組織を活用するというのは、政府でないとできません。民主的政権というのは、緊急の課題での野党連合政権、そして民主連合政府などの全体を含むものです。
すなわち、わが党が参加する民主的政権ができた場合には、日本共産党は、「軍事対軍事」の悪循環に陥ることを厳しく退け、9条を生かした平和外交によって、東アジアに平和を創出する努力を最優先で行う。そうした努力を重ねても、その努力の途上で、万が一、急迫不正の主権侵害が起こった場合には、民主的政権がどういう対応するかについて述べたものです。
自公政権が、かりに安保法制を発動して、日本が攻撃されていないのに、集団的自衛権を行使して、米軍と自衛隊が一緒になって、「敵基地攻撃」に乗り出して、その結果、戦火が日本に及んできた。そういうケースは急迫不正の主権侵害とは言いません。わが党は、安保法制の発動に断固反対ですし、安保法制廃止を強く訴えています。こうしたケースは、わが党が述べている「自衛隊活用」論とはまったく別の話です。災害救助で汗を流している自衛隊員を「殺し、殺される」海外の戦場に投入するなど絶対に反対を貫くというのが、日本共産党の立場であることは、いうまでもありません。
実は、こういうケースについては、第22回党大会の中央委員会報告で解明しています。「周辺事態法」を、自民党政府が発動して、自衛隊が海外での米軍の軍事活動に参戦して、結果として、戦火が日本に及ぶようになった場合に、これは急迫不正の主権侵害とは言えないと言って、次のように、大会決定は述べています。
「安保体制のもとで日本国民にとっての現実的な危険は、米軍が『日本周辺』で介入・干渉戦争をはじめ、日本が戦争法を発動してそれに参戦し、その結果としてその戦火が日本におよんでくるケースであります。これは不当な介入戦争のなかで生まれてくる事態であって、『急迫不正な主権侵害』にはあたりません」
この22年前の大会決定の提起は、まさに今にも当てはまります。今の日本にとっての現実的な危険は、さきほども強調したように、安保法制を発動して、自衛隊が米軍と一緒に海外での戦争をやることにあり、その結果、戦火が日本に及んでくることにあります。それは急迫不正の主権侵害とは呼べないし、私たちの述べている「自衛隊活用」論とはまったく別の話です。
自衛隊の段階的解消という方針は、22回党大会のさいに、練りに練って大会決議案を提案し、全党討論を行って、大会で採択した方針です。これを機会にしっかり身につけて、縦横に論戦できるように努力していきたいと思います。
|
討論での質問にこたえて
発言を聞いて、工夫しながらこの問題について語っておられる。訴えでは、平和の問題だけでなく、もちろん暮らしの問題も切実です。そうしたことも含めて、どうやって党の主張の全体を語るかということについても、いろいろな工夫が伝わってきました。お互いに工夫しながら、演説をよりよいものにしていきたいと思います。
そのうえで、発言の中で出た疑問にも答えながら、若干の点をお話ししたいと思います。
NATOの問題について
一つは、なぜロシアによるウクライナ侵略が起こったのかということです。侵略の原因論として、NATO(北大西洋条約機構)やアメリカの対応の問題点を、もっと踏み込んで語った方がいいのではないかという意見がありました。
この問題については、私たちもずいぶん検討しました。その到達点は、幹部会報告で述べた論立てです。わが党は、そもそも軍事同盟全般に反対しています。軍事同盟というのは、「軍事対軍事」の対抗をつくりだして、決して平和をつくりません。だから、軍事同盟全般に反対であり、軍事同盟のない世界を目指すと綱領に掲げています。NATOについて言えば、その東方拡大や域外派兵に対して、わが党は厳しく反対をしてきました。そのことも幹部会報告で述べています。
しかし、今回のウクライナ侵略の原因がそこにあったという論の立て方はしていません。もしそういうふうに論を立てると、プーチンの側にも「一分の理」があったとなります。侵略の原因論としてNATOの問題を論ずるのは、現状ではやるべきではないと判断しました。かりにNATOの東方拡大への「懸念」があったにせよ、どんな理由にせよ、国連憲章に違反する侵略は許されないという点で、世界が団結する必要がある。そういう立場を、幹部会報告では表明しています。
そのうえで強調したいのは、日本の進路については、日米軍事同盟で今問われている具体的な問題を、具体的に告発することが何よりも重要だということです。日米軍事同盟で今問われているのは、「日本をどうやって守るか」という話ではありません。日米が一体になって、海外で集団的自衛権を発動する危険という問題です。そのために9条を改変するという問題です。このことを具体的に告発し、それを許さない。その論戦とたたかいをやり抜くことが何よりも重要であります。
急迫不正の主権侵害とは
それから、「急迫不正の主権侵害とはどういうことか」という質問がありました。「急迫不正の主権侵害」と私たちが言っているのは、国際法上の個別的自衛権を発動する前提になるような主権侵害のことです。国際法上、個別的自衛権の発動の前提になる主権侵害とは、単なる武力行使でなく、烈度の高い、最も重大な形態の武力行使――すなわち武力攻撃であるとされています。そういう武力攻撃が発生した場合に、自衛隊を活用することも含めた対応をするということです。そうした武力攻撃にいたらない侵害に対しては、どんな場合でもすぐに自衛隊の出動ということでなく、外交努力、警察力などで対応するということを最大限重視することが重要になるでしょう。
個別的自衛権について
発言のなかで、子どもさんが「日本を守るためにたたかう」と言ってきて、ギクッとしたという話がありました。この気持ちは本当によくわかります。戦争というのは何であれ反対だ。人が人を殺すのは何であれ反対だ。これはみんなが共有すべき当然の気持ちですし、私たちも共有している気持ちです。
そのうえで言っておきたいのは、日本共産党は自衛権――個別的自衛権は、国民の命と日本の主権を守るために必要だということを、一貫して主張しているということです。個別的自衛権は、9条のもとでも自然の権利としてあると主張してきました。この立場は、圧倒的多数の憲法学者の共通の見解でもあります。急迫不正の主権侵害が起こった場合には、この権利を行使して、それを排除するためにたたかう。その場合には必要なたたかいをやる――これがわが党の立場であります。
国際的にもこの権利は当然のものです。いまウクライナがやっている抵抗は、国連憲章・国際法上は合法かつ正当なたたかいです。ロシアが国連憲章・国際法上、不当・不法な侵略戦争をやっているもとで、それに抵抗して主権を守ることは、合法かつ正当なのです。わが党は、ウクライナの政権のこの間の対応をすべて支持しているわけではありませんが、ウクライナの抵抗は合法かつ正当なものです。
9条の立場は、無抵抗主義というものではありません。幹部会報告で述べたように、「9条を将来にわたって守り生かすことと、国民の命と日本の主権を守るための政治の責任を果たすことの両方を、統一的に追求」するという立場が大切です。この立場でこそ、命を守る政治の責任を果たせるだけでなく、私たちの宝である9条を守り抜けるということも強調したいと思います。
ベトナム侵略戦争の時に、ベトナム人民は侵略に抗して勇敢にたたかい、それを打ち破りました。私たちはベトナム人民のたたかいに連帯しました。これは大義ある連帯のたたかいでした。国連憲章・国際法にてらして、武力行使には、不法・不当なものと、合法・正当なものの二つがあるのです。
お子さんが「たたかう」と言ったらギクッとするという気持ちはよくわかります。それから、「たたかい」をあおりたてて、この機に乗じて、9条改憲をあおりたてることは絶対反対です。この機に乗じて、「お国のためにたたかえ」とあおる言説もあります。それには絶対に反対です。同時に、今述べたような整理を、冷静にきちんとしておくことは、たいへんに重要だと考えます。
自衛隊の「活用」という用語について
自衛隊の「活用」という言葉にちょっと引っかかっているという発言がありました。
そこで議論の整理をしておきたいと思いますが、わが党は、個々の自衛隊員のみなさんが、「日本を守りたい」という思いからこの職業を選び、災害救助などで汗を流していることに対して、敬意の気持ちをもっています。個々の自衛隊員のみなさんには、敬意をもって接する必要があることは、当然のことです。
また、「万が一」のとき、自衛隊に防衛出動を求める場合には、自衛隊員のみなさんには危険をともなう職務を求めることになるわけですが、自衛隊員の命を最大限に守る対応をすることも、当然のことです。また、自衛隊員を海外での「殺し、殺される戦場」に派兵することには断固反対を貫くことは、すでに述べてきたとおりです。さらに、ジュネーブ条約など国際人道法を守る行動を自衛隊がとるようにすることを、厳格につらぬきます。すなわち、急迫不正の主権侵害を排除する過程で、命を大切にし、人道的対応を大切にすることを、最大限に重視していくということが、わが党の立場であります。
同時に、強調しなければならないのは、民主的政権ができた場合に、自衛隊という組織を、主権者である国民のコントロールのもとにしっかりと置かなければならない――「シビリアンコントロール」(文民統制)を実行しなければならないということです。この点で、組織としての自衛隊には、さまざまな問題があります。この間、明らかになったように、防衛省・自衛隊は、国民を監視し、反戦デモを敵視し、抑圧する訓練もやっています。また、自衛隊が、米軍に従属した形で運用されているという事実があります。わが党が参加する民主的政権ができた場合には、そういう実態をもつ自衛隊という実力組織を、国民主権という大原則のもとで、政府がしっかりと統制しなければなりません。そういうことも考慮して、「活用」という言葉を使ってきました。ですから基本は、この言葉でよく理解してもらうことが大事だと思います。
ただ、いつでもどこでもこれを使わなければならない、ということではありません。幹部会報告では、二つの言葉を使っています。「活用」という言葉と、自衛隊を含めてあらゆる手段を「行使」するという言葉です。「行使」の方が使いやすかったら、そちらの表現でもかまわないと思います。内容が伝わればいいのですから、自分の言葉で語っていただければと思います。しかし、ことの性格は、いま述べたようなところにあることを、しっかりととらえていただきたいと思います。