2022年4月21日(木)
志位和夫著『新・綱領教室 2020年改定綱領を踏まえて』(上・下巻)
一つひとつ、理を尽くして語りかける
長久理嗣
日本共産党の志位和夫委員長による党綱領論の新著が刊行されました。2020年の一部改定を踏まえて綱領全体を概説したものです。「ジェンダー」の視点が戦前論にも、「ルールなき資本主義」論にも、世界論にも、貫かれたことをはじめ、さまざまな新しい解明があります。
世界と日本の諸問題でのメッセージ
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本書には、何よりも、世界と日本が直面する諸問題について、政党の党首として発信した、論理的で熱いメッセージがあります。
第一に、ロシアによるウクライナ侵略が続くなかでの、世界論です。志位さんは、綱領の「いくつかの大国で強まっている大国主義・覇権主義は、世界の平和と進歩への逆流となっている」を引き、「どんな国であれ覇権主義を許さない」、「国連憲章にもとづく平和の国際秩序」を築く――「この立場での国際連帯を広げ、平和の国際秩序を築くために、力をそそごうではありませんか」と述べています。覇権主義をふるう大国の力は大きいが、平和の国際秩序を築くことは「各国人民のたたかいによって可能だ」と。植民地体制の崩壊という20世紀の「世界の構造変化」が、「逆流や複雑な出来事に満ちている21世紀の世界で、深部から世界を動かす力を発揮して」いるからだと、綱領の世界論を説いています。
国際問題への対応基準として、国連憲章と国際法がすえられています。中国に対しても、人権問題であれ覇権主義の行動であれ国際法にもとづく冷静な批判を貫いてきたことが論じられていますが、これはロシアのウクライナ侵略に対して日本共産党がとっている立場にも通じるものです。アメリカという国を日本共産党がどう見ているか――ブッシュ大統領からバイデン大統領までの歴代政権論も、お読みいただきたいところです。
第二に、アメリカへの日本の国家的従属の異常が解明され、たたかいが呼びかけられています。在日米軍が、「日本防衛」とは無縁の、海外の戦争への介入と干渉を専門とする「殴り込み」部隊であること、「この事実は、国民に徹底的に明らかにしていくことが大切だ」と強調されます。アメリカの戦争に「ノー」と言えない国であることが、ベトナム戦争、イラク戦争の検証・総括を問う岸田文雄外相(当時)との論戦(2015年)を示して語られています。綱領の、対米従属下での日本独占資本主義と日本政府の対外活動の規定に照らして、情勢が解明されています。アメリカが対中国戦略を立て、それに日本を丸ごと従わせていくことで一貫していると指摘され、日本政府がこの戦略に自らをより従属的に組み込んでいく姿がうきぼりになっています。日本が安保法制をもつにいたった危険に警鐘が鳴らされています。「台湾問題への日米共同での軍事的介入」に論及、「安保法制の廃止は、文字通りの急務になっています」と。「台湾問題の解決」にどう臨むか、党の見解が示されていることも、注目です。憲法9条改悪について「安保法制が強行された現状」での「議論の整理」をし、「危険な策動を許さない一大国民運動」が呼びかけられています。
第三は、日本経済をめぐる問題です。「ルールなき資本主義」(財界・大企業の横暴な支配)について、気候危機、「ジェンダー不平等」を含めた新たな解明があります。なぜ「ルールなき」日本になってしまったのか、「新自由主義」とは何か、その暴走の歴史、アメリカからの「新自由主義」(「アメリカ式モデル」)持ち込み、コロナ危機での「新自由主義」の破綻が解明され、日本経済の大転換として「やさしく強い経済」が提唱されています。
自民党などの攻撃を打ち破る綱領論
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本書の二つ目の特徴として、日本共産党綱領にたいする自民党などによる攻撃を「根底から打ち破る内容にすることに心がけて」仕上げられたことがあります。安保条約、自衛隊、天皇の制度、共産主義―どの問題でも、“現実離れ”どころか、“日本共産党が政権に加わったら、こういう対応、方針で臨む”ことが、綱領の規定にそくして一つひとつ示され、諄諄(じゅんじゅん)と説かれています。また、どの問題についても、国民の圧倒的多数の合意=「国民の総意」で改革に取り組んでいく立場が強調されています。
安保問題での「二重の取り組み」
安保条約への対応では、「二重の取り組み」(安保条約への是非を越えて一致する緊急の課題で力を合わせる「取り組み」。安保廃棄の国民的多数派をつくる党独自の「取り組み」)が貫かれます。緊急課題での一致が広がり、安保法制廃止は市民と野党の共闘の「一丁目一番地」として共有されています。同時に、ASEANの「東アジアサミット」の枠組みも生かした平和の地域協力の課題、核兵器禁止条約への参加など、国際問題でも一致を追求しようと呼びかけられ、日本共産党の「外交ビジョン」の提唱が紹介されます。
安保廃棄の国民的多数派をつくる努力では、国民の疑問や不安にかみあって、「安保条約をなくして平和は守れるか」、同条約10条によって条約を終わらせる方針、「対等平等の立場にもとづく日米友好条約を結ぶ」こと、「非同盟・中立こそ世界の本流」という四つの解明があり、これらの“そもそも”論を積極的に語っていこう、と呼びかけられています。
当面する野党連合政権で安保条約の問題にどう対応するか。志位さんは、「二重の取り組み」の立場を野党連合政権に対する立場としても貫く、と表明しています。連合政権としては安保条約を「維持・継続」の対応をとるとした2015年の方針の説明があります。最後に、“安保条約廃棄は「国民の圧倒的多数の合意=総意で」ことを進めるので「どうか安心してください」と話していこう”と呼びかけられています。
自衛隊問題の段階的解決
自衛隊の問題では、まず1994年の第20回党大会決議で、恒久平和の理想を極限まで具体化した憲法9条の国際的な「先駆的意義」を明らかにしたことが語られます。「9条の完全実施」の理想に向け現実をどう改革していくか、探究の結果、2000年の第22回党大会で「自衛隊問題の段階的解決」方針を打ち出したと述べ、その内容が詳論されています。
ただ、「もう一つ問題が残っていました」。日本共産党が政権に参加した時に、連合政権として自衛隊に対するどういう「憲法判断」をおこなうか、です。2017年総選挙の「党首討論」での発言――「野党連合政権としての憲法解釈は『自衛隊=合憲』を引き継ぐ」が紹介されます。同年に確認した党の方針にもとづくものでした。本書ではじめて、その方針がまとめて紹介されています。さらに、将来の民主連合政府が憲法9条の完全実施に踏み出す段階での「憲法解釈の変更」をどうするかも「国民の総意」で、と表明されています。
天皇の制度――現在も将来も「憲法に則って」
天皇の制度にかんしては、日本国憲法と現綱領を指針に2019年に「しんぶん赤旗」インタビューで明らかにしたことの要点が語られ、加えての新しい解明もされています。
「現在、もっとも力をそそぐべき中心課題」は、天皇にかんする憲法の「制限規定の厳格な実施」です。この点で、「明仁天皇の時代」、この30年間に起きた、自民党政治による「顕著な逸脱」、天皇の政治利用が3点まとめて指摘されていることに、注目したいと思います。
将来の対応はどうか。「世襲の制度は人間の平等と両立しない」という綱領での党の「立場」の表明とはどういう意味か、懇切に説明されます。では、どう問題の解決をはかるのか、それは「国民の総意」にゆだねることだ、これが対応の「方針」だ、要するに「現在も、将来も、憲法に則(のっと)って」だ、との明快な表明があります。
改革の是非は「国民の総意」で
作家の中村文則さんの発言――共産党は「彼らの意思より国民の判断を上位に置いている」を、「綱領の真髄を理解していただいている」と紹介、どの「改革」も「是非の判断は『国民の総意で』」臨むことが、くりかえし表明されています。本書全体のキーワードだと思いました。
綱領第四章の民主主義革命の部分で「段階的発展、多数者革命、統一戦線」の方針を明らかにし、第五章で社会主義的変革にもその態度を貫くことを明記しているわけですが、攻撃する側はこれらを一緒くたにして“共産党を政権に入れると、先々にまで連れていかれる”と言っているのですから、本書で、あらゆる段階での「基本的立場」が解明されているのは、理にかなったことです。
市民と野党の共闘の発展の特徴が論じられています。さらに、「支配勢力の妨害や抵抗を打ち破るたたかい」を綱領に明記していること、この間の2回の総選挙の経験、「平和的・合法的」な変革の道が説明され、「最大の教訓」として「強く大きな党をつくる」活動が呼びかけられます。
不断の古典研究と、未来社会論
本書を読むと、科学的社会主義の古典を研究する著者自身の不断の努力が伝わってきます。たとえば、「生産手段の社会化」を説明したマルクスの綱領的文書に「フランス労働党綱領前文」(1880年)があります。10年前の「綱領教室」でも引用されましたが、本書ではこの文献を「自由の観点」で読み直し、「生産者は、生産手段を所有する場合に、はじめて自由でありうる」に光を当て、新しい論点を提起しています。
『資本論』への多彩な関心が広がっています。この機に、日本共産党がどういう問題意識で『資本論』を研究しているかも知っていただけたらと思います。その点で、本書は良きガイドとなります。
資本主義とは何か――「利潤第一主義」が生む「恒常的矛盾」から抜け出せない資本主義を考察した『資本論』第三部の文章の解説が試みられています。気候危機や新しい感染症の多発をとらえる上で、「利潤第一主義」による産業活動が「人間と自然との物質代謝を攪乱(かくらん)している」という第一部の文章が紹介されています。
資本主義から社会主義への道筋――経済社会の健全な発展のためにも「大企業の民主的規制」の方針が合理性、必然性をもつとの観点で、第一部の解明が紹介されます。第一部のその先の部分では、労働時間規制の「工場法」が産業界全体に広がることは「新しい社会の形成要素と古い社会の変革契機とを成熟させる」ことも明らかにされます。第三部には、「信用制度・銀行制度」という「経済を社会的に規制・管理するしくみ」が社会変革のテコとなることを示唆した文章もあります。
未来社会のどこに、「人間の自由で全面的な発展」の保障を見いだすのか――第三部の、労働時間の抜本的短縮を根本条件とする「真の自由の国」論が詳細に解説されています。
これらの研究を読むと、「2020年の一部改定も含めた現綱領の全体が、自由についてのわが党の立場を全面的に表明するものになっている」(4中総の結語)ことがわかります。社会主義的変革の中心=「生産手段の社会化」自体が、自由への変革です。そして、未来社会の特質としての「人間の自由で全面的な発展」論。その未来社会への道は、民主共和制のもとで進められること。発達した資本主義国の社会変革では、「生活と権利を守るルール」の成果も継承されます。この部分で、資本主義の枠内での「大企業に対する民主的規制」の推進と、生産手段の「管理・運営」の変化、将来の「所有」の「社会化」との区別と関連について、興味深い示唆があります。
「立党の原点」を生かす
どの問題についても、“それは、こうです”“この点は、こう考えています”と、理を尽くす解明があります。それぞれの方針発展の説明があり、1961年綱領以来の“綱領史”論となっているとも思いました。「綱領とは何か」、「現綱領にいたる改定の歴史」、「綱領全体の合理的な構成」を論じた「序論」は、本書を読む“導きの糸”となるでしょう。
戦前の「立党の原点」が語られています。志位さんは『宮本顕治著作集』を通読し、宮本顕治さんの、「歴史の審判」を確信した不屈の姿勢と同時に、「事実と論理を突き詰めながらデマを決定的に論駁(ろんばく)」した戦時下の不屈の法廷闘争を紹介しています。思うに、党創立100年に、本書を読み、綱領をめぐる焦点の諸問題一つひとつを丁寧に語ることもまた、この「立党の原点」を受け継ぐ努力の一歩となるのではないでしょうか。
(ながひさ・みちつぐ 党学習・教育局次長)