2022年4月19日(火)
高齢者施設クラスター 現場から
入院できる体制早く
厚生労働省によると、今年に入って2人以上の新型コロナウイルス感染者が出た高齢者施設は3385件(12日現在)。同省は自治体に医師らを施設へ早期に派遣するなどの体制強化を要請しています。一方、現場からは必要な入院ができるよう早急に体制整備を求める声が上がっています。(西口友紀恵)
関西圏のある特別養護老人ホームでは、感染が急拡大した2月初旬にクラスター(感染者集団)が発生。収束までの約1カ月間に入所者、職員約40人が感染しました。
ある感染者は39度の発熱と酸素吸入が必要な状況で、2度救急搬送されました。医師から「入院が必要だが満床だ」と告げられ施設に帰されました。3度目の搬送でようやく入院できたものの数日後に亡くなったといいます。
この施設の職員は「医療機関のひっ迫で施設での療養もやむを得ない面があったが、一番の問題は必要な時に入院できなかったこと」といいます。
「軽症は施設内」
東京都多摩市の特養では2月中旬にクラスターが発生。施設を運営する社会福祉法人の鶴岡哲也常務理事は「最初に5人の感染が分かり入院を求めたが、軽症者は施設内療養が基本とされた」と話します。
職員も感染し、現場は過酷を極めました。拡大防止の懸命の努力にもかかわらず1カ月間で50人が入るフロアの半数以上が感染。「もしかしたら感染しなくてすむはずの人まで広がったかもしれません。非感染者も、入浴が一定期間できなくなるなど生活全体が大きく制限されました」
京都市で特養を運営する社会福祉法人の井上ひろみ理事長は「高齢者はあまり症状が出なくても、基礎疾患があり急激に重症化しやすい。軽症が多いとされたオミクロン株でも重症化すると即、命にかかわります。治療がきちんと行き届く段階から入院できる体制整備が欠かせない」と力をこめます。
高齢者施設での感染拡大について厚労省は4日、感染者が出た高齢者施設に医療支援の強化を図るとして自治体に対し▽原則24時間以内に支援チームを派遣できる体制をつくる▽必要な場合に医師や看護師による往診などを確保できる体制になっているかを全ての施設に確認する―などを要請しました。
求められるのは
厚労省の要請について大阪で特養を運営する社会福祉法人の正森克也理事長(社会福祉経営全国会議副会長)はこう指摘します。
「『施設に医療スタッフ派遣』と言えば聞こえはよいが、『派遣をするから入院はさせない』ことにならないか心配です。今求められるのは医療そのものであって、専門スタッフのアドバイスではありません。療養場所を施設に求める限り、感染拡大や重症化は免れないのではないでしょうか」
定期・頻回検査も必須
日本共産党都委員会新型コロナ対策本部長、谷川智行医師の話 厚労省の方針は、感染した高齢者を施設に留め置くことを前提にしており問題です。高齢者施設は、環境、人的資源、入所者の特性のいずれを考えても、感染を広げず安全に患者を治療する場としてふさわしくありません。高齢者施設等の入所者が感染した場合は「原則入院」とし、その体制を本気で構築することが必要です。入所者・スタッフの公費による定期・頻回検査(週2回)は必須です。