しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2022年4月12日(火)

主張

民事訴訟法改定案

「期間限定裁判」は撤回せよ

 民事訴訟法改定案が衆院で審議されています。審理を6カ月に限定する「期間限定裁判」の新設、裁判IT化が盛り込まれています。民事訴訟は、公正かつ適正で充実したものでなければなりません。期間限定裁判は、粗雑な審理に陥る可能性があります。ウェブ会議での口頭弁論、オンライン申し立ての義務化は、IT機器に不慣れな国民の裁判利用を萎縮させるものです。憲法32条が保障する「国民の裁判を受ける権利」を侵害する改定案は撤回し、裁判所体制を拡充することこそ求められます。

誤判の危険性が高まる

 期間限定裁判は、当事者の同意を要件に、6カ月以内での審理および証拠調べ、口頭弁論終結から1カ月以内での判決言い渡しを裁判所に義務づける制度です。

 当事者が主張と立証を尽くし、裁判官が判決を出すことができると判断したときに審理を終結することが、訴訟制度の大原則です。拙速で不十分な審理では、誤判の危険性が高まり、訴訟による権利保障を損なうおそれがあります。

 当事者双方の主張や証拠が明白で争点が少ない事案であれば、あらかじめ期間を定めなくても迅速な審理は可能です。現行法にも「審理計画」の仕組みがあります。期間限定裁判の必要性はありません。

 当事者間に証拠の偏在や資金的な差などがある場合は、「衡平を害する」おそれがあるため、消費者契約に関する訴えや個別労働関係民事紛争についての訴えでは、期間限定裁判は利用できないとしています。しかし、消費者事件でも製品事故などの不法行為、労働事件でも偽装請負などは利用の対象となりえます。そもそも証拠の偏在や資力の差は、この二つの類型に限られません。

 期間限定裁判は、部分的・簡略な判決となり、不服がある場合に控訴できず、異議申し立てにより、同じ裁判所がもう一度判決を行います。しかし、ひとたび形成された心証を覆すのは容易ではありません。綿密といえない審理による簡易な判決が先例として蓄積され、自由と権利を後退させ、将来の国民に重大な禍根を残します。

 民事訴訟のIT化について、改定案は、裁判所の判断で、当事者の同意がなくてもウェブ会議での口頭弁論や証人尋問を強制できるとします。

 裁判は、関係者が法廷で固唾をのんで見つめる緊張感が必須です。虐待、DV、性暴力被害者などの安全を守る特別な配慮が必要なことは当然ですが、ウェブ会議では、国家賠償事件、大企業を相手どった労働事件、国民的たたかいと結んだ公害事件など多くの訴訟で国民に不利益になりかねません。直接主義、口頭主義、公開主義という根本的な訴訟原則に反します。

 訴訟記録をオンライン上に置くことを当事者に事実上強制することなどは、ネット環境に不得手な国民の「裁判を受ける権利」の行使を著しく萎縮させます。

裁判所予算の拡充こそ

 国民の利便性に資する制度であれば、義務化をしなくても、必然的に利用者は増えていきます。

 民事訴訟IT化と無関係の「期間限定裁判」制度は撤回すべきです。IT化はセキュリティーを含めて信頼性・安定性・利便性を確保したシステムづくりから制度設計をやり直し、必要な人員、予算を拡充することが重要です。


pageup