2022年4月10日(日)
主張
IPCC報告書
「1.5度以内」へ取り組み直ちに
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3作業部会が5日、新しい報告書を公表しました。地球の平均気温上昇を産業革命前から1・5度に抑えるためには、2025年までに温室効果ガスを増加から減少に転じさせることが必要だと強調しました。
化石燃料依存からの脱却は不可欠としています。気候危機の加速をくいとめるため、真剣な取り組みが急がれます。
再エネへの転換大規模に
今回の報告書は、「気候変動の緩和」についてです。産業革命前からすでに1・1度気温上昇しており、各国が現在表明している30年の温室効果ガス削減目標の合計では、21世紀中に1・5度を超える可能性が高いとしました。削減政策を強めなければ、今世紀末までに3・2度の温暖化をもたらすと警告します。排出削減の強化に一刻の猶予もありません。
大量に温室効果ガスを排出する化石燃料については、「使用全般の大幅削減、低排出エネルギー源の導入」などの「大規模な転換を必要とする」と述べました。対策をしない石炭火力発電所など化石燃料インフラを今後も新設したり、使い続けたりすれば、1・5度は達成できないとしています。
報告書は、低炭素技術のコストが10~19年の間に劇的に下がった事実を示しました。太陽光発電は85%、風力発電は55%、電気自動車に使うリチウムイオン電池は85%安くなりました。太陽光や風力などの再生可能エネルギーや電気自動車の普及など現在ある技術の活用が重要です。
産業全般については、「産業部門由来の二酸化炭素(CO2)排出を正味ゼロにすることは、困難であるが可能である」として、産業と流通全体の削減技術や生産過程の革新的変化を求めました。
無駄な食品廃棄を抑えることなど需要側の分析をしていることも注目されます。需要側の新技術採用、社会的行動変化などで50年までに温室効果ガスを40~70%削減できるとしており、これらは「全ての人々の基本的幸福の向上と整合的である」と記しました。
気候変動による損害などを回避する温暖化対策は、経済的効果を発揮します。報告は、CO21トンあたり100ドル以下で削減できる対策として、太陽光発電や植林などの推進をあげ、世界全体の温室効果ガス排出量を30年までに19年の半分にできるとしています。温暖化を2度に抑える対策をしなかった場合は、対策をした場合に比べ、50年に国内総生産(GDP)を数%下げるとしています。
化石燃料から再生可能エネルギーへの大規模な転換や、食品ロスの削減など暮らしの変革を今すぐに行えば1・5度の達成は可能であるとし、各国に早急な対策を迫っています。
地球を「窒息」させるな
国連のグテレス事務総長は報告書を受け、温室効果ガスの大量排出を続ける政府と企業について「より安価で再生可能な解決策がグリーン・ジョブ、エネルギー安全保障、一層の価格安定をもたらすにもかかわらず、彼らは、化石燃料の既得権益と過去の投資のために地球を窒息させつつある」と指摘し、対応を求めました。
日本政府は、石炭火力発電に固執する姿勢を直ちに改め、削減目標を大幅に引き上げるべきです。