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2022年3月31日(木)

主張

ヤジ排除違法判決

表現の自由封じた警察を断罪

 2019年の参院選の際、札幌市内の安倍晋三首相(当時)の街頭演説で「安倍辞めろ」「増税反対」などと声を上げた市民2人を北海道警が排除した問題で、札幌地裁は、表現の自由を侵害したとして北海道に損害賠償を命じました。判決は「公共的・政治的事項に関する表現の自由は、特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならない」と述べました。政権への異論を封じた警察の対応を違憲・違法と明確に断じたことは画期的です。道警にとどまらず、全ての警察機関は判決を重く受け止めるべきです。表現の自由侵害を繰り返すことは許されません。

民主主義基礎づける権利

 ヤジを飛ばした2人は、警官らに肩や腕などをつかまれて移動させられたり、長時間つきまとわれたりしました。道警側は裁判の中で、2人は他の聴衆から危害を加えられる恐れなどがあり、警察官職務執行法(警職法)に基づく正当な行為だと繰り返しました。

 判決は、これらの主張を退けました。市民が撮影した動画や関係者の証言からは、2人が危険な事態にあったとはいえず、警察が体をつかんで移動させた行為などは、警職法の要件を満たしておらず、違法と認定しました。

 判決は、憲法21条で保障された「表現の自由」について「立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって、民主主義社会を基礎付ける重要な権利」と位置づけました。2人が声を上げたことは、重要な権利の中でも特別に尊重されなければならない「公共的・政治的事項に関する表現行為」にあたるとしました。

 2人は言葉を発してから10秒程度で排除されました。警察がそのような行為に及んだことについて判決は「安倍総裁の街頭演説の場にそぐわない」と警官が判断し「表現行為そのものを制限し、また制限しようとしたものと推認せざるを得ない」と指摘しました。

 道警の行為は「不偏不党且(か)つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない」ことを掲げる警察法にも真っ向から反しています。

 判決は、2人の表現行為は、差別意識や憎悪を誘発・助長するものではなく、演説自体を不可能にするものでもなかったとして制限する理由はないと述べました。市民の1人が警察に執拗(しつよう)につきまとわれたことについても、移動・行動の自由、名誉権とプライバシー権を侵害したと認めました。

 憲法上の権利を市民が行使することを保障するための強い姿勢を示した判決といえます。

異論許さぬ社会にするな

 安倍首相は17年の東京都議選の街頭演説で「安倍辞めろ」と声を上げた市民に向かって「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と発言し、異論に耳を貸さない強権体質をあらわにしました。安倍政権下では、首相らの街頭演説でヤジを飛ばした人や政策批判のプラカードを手にした人を排除する事態が各地で相次ぎました。

 時の首相や政権に異議を唱える表現や言論に対して警察が介入し、規制や制限を加えることは、民主主義の土台を掘り崩します。

 自由闊達(かったつ)な議論を封殺した戦前のような社会に逆戻りさせてはなりません。


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