2022年3月24日(木)
ウクライナ侵略1カ月
ロシア 人道無視の戦争犯罪 「侵略やめよ」の世論で包囲へ
ロシアによるウクライナ侵略の開始から24日で1カ月。攻撃は激しさを増し、ウクライナ国土は破壊され、人口の4分の1の人々が避難を余儀なくされ、人道危機が深刻化しています。「侵略をやめよ」「国連憲章に基づく戦後の国際秩序を守れ」の声は、世界中に広がり、ロシアとプーチン大統領を包囲しつつあります。侵略1カ月の情勢、国連をはじめ国際社会の動きから見えてきたものは―。
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人道危機 常態化する無差別攻撃
当初、多くの専門家は侵略開始から2~3日でロシア軍が首都キエフを包囲または制圧すると予測していましたが、戦闘は長期化の様相を呈しています。深刻な人道危機が広がり、民間人の犠牲者が飛躍的に増加。国連難民高等弁務官事務所によれば、避難者は国内外合わせて人口の4分の1となる1000万人を超えました。
米国防総省高官は22日、記者団に対し、ロシア軍はこれまでにミサイル1100発以上を使用したと説明。一方、キエフから最短で15キロ地点まで迫っているものの、ウクライナ軍の抵抗に遭い、前進を阻まれているとしています。ハリコフやオデッサなどの戦略目標も攻略にいたっておらず、こう着状態となっています。
ロシア軍の最大の弱点だと指摘されているのが補給です。とりわけ燃料や糧食、さらに弾薬が不足。指揮統制にも重大な欠陥があり、前線の兵士も戦闘能力や士気の低さがみられるとしています。
戦争が長期化すれば、経済制裁の影響で、いずれ戦費の調達が困難になります。焦るロシアはウクライナとの交渉で優位に立つため、ここ数日、住宅・学校・病院・避難所・商業施設など民間地域への無差別攻撃を強めています。非武装の一般市民を殺傷して降伏を迫るという、卑劣極まりない戦術です。
そうした無差別攻撃の最大の犠牲になっているのが、南部の港湾都市マリウポリです。ロシア軍は16日、子どもを含む多くの市民が避難していた劇場を空爆するなど、連日、激しい攻撃を加えており、市街地は焼け野原になっています。国際人権団体「ヒューマンライツ・ウオッチ」(HRW)は、マリウポリだけで民間人3000人以上が死亡した可能性があるとしています。さらに多くの市民が取り残され、水や食料、医薬品も欠如しているといいます。
ある専門家はこう指摘します。「こうした無差別攻撃は、ロシアがシリアなどで繰り返してきた常とう手段だ。最初に形だけの『人道回廊』を設け、逃げなかった者は『テロリスト』とみなし、あとは無差別に殺害または身柄拘束する」
ロシア側は、ウクライナが市民を「人間の盾」に利用していると責任転嫁しています。しかし、避難中にロシア軍の攻撃を受けて死亡した市民や、ロシア軍による強制的な連れ去りも報告されています。「残るも地獄、行くも地獄」―市民はこうした状況に追い込まれているのです。
さらに、米国防総省は、ロシアが生物・化学兵器を使用する可能性を指摘。HRWは、クラスター(集束)爆弾が民間地域で繰り返し使用されたと告発するなど、残虐兵器の投入も危ぶまれます。ロシアがさらに追いつめられれば、戦術核兵器の使用に踏み切る危険も指摘されています。
ロシアによるウクライナ侵略は主権侵害、領土の一体性を損なう重大な国際法違反です。加えて、戦争下であっても最低限守られるべき民間人の保護を定めたジュネーブ条約など国際人道法を踏みにじるものであり、戦争犯罪そのものです。
対ロ外交 根本的な転換が不可欠
ロシアは日本政府が科した経済制裁への対抗措置として、領土問題を含む平和条約締結交渉の中断や「北方4島」での経済協力活動の協議からの離脱を一方的に表明しました。
これに対し、日本共産党の小池晃書記局長は22日の記者会見で、「プーチン政権は国連憲章と国際人道法を踏みにじる侵略を行っており、この政権と平和条約を協議するような条件はありません」と指摘。日本政府の側からこそ、対ロ外交の全面的な見直しが求められると主張しました。「朝日」23日付社説も「懐柔外交から脱却せよ」の見出しで「むしろ、日本側から交渉中断を表明しておくべきだった」としています。
ところが岸田政権は「極めて不当で受け入れられない」などと“抗議”してみせた一方で、2022年度予算を8項目・21億円の日ロ経済協力関連予算を修正しないまま22日に成立させました。16日の参院内閣委員会で日本共産党の田村智子議員が「侵略行為を正当化する国とは経済協力できないとの表明が必要だ」と迫っても、松野博一官房長官は「予算の執行段階で判断したい」と述べるだけでした。
こうした及び腰の根底には、ロシアのプーチン大統領にすり寄り、“個人的な信頼関係”で領土問題を扱おうとした安倍晋三元首相の屈従外交があります。16年末の日ロ首脳会談で安倍氏は、官民で3千億円規模を投融資する「8項目の経済協力プラン」に合意。18年の首脳会談では従来の「北方4島返還」から「2島返還」へ後退させました。
安倍氏は、ウクライナ侵略の発端となった14年のクリミア併合を免罪するなど、権威主義的な体制を強めるプーチン氏に甘い顔を見せ続け、プーチン氏の覇権主義的な行動を助長してきました。その結果として全てを袖にされてしまったのです。プーチン大統領との“個人的関係”に偏重した対ロ外交は総破綻しています。
日本政府は、これまでの屈従的な対ロ外交を根本的に転換し、旧ソ連、ロシアによる千島列島の占領の不当性を国際社会に堂々と訴えるべきです。
国連、非難の総意示す
国連はウクライナへの侵略開始直後から、ロシアの行動を非難し、平和的解決を求めてきました。
「国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任」(国連憲章)を負う安全保障理事会は侵攻翌日の2月25日、ウクライナ情勢に関する会合を開きました。米国などがロシアによるウクライナ侵略を非難する決議案を共同提案。これには約80カ国が賛同に名を連ねました。
これはロシアの「拒否権」で否決されました。しかし、同27日には国連総会の緊急特別会合を要請する決議を賛成多数で可決。安保理決議によるものとしては40年ぶりの開催となる特別会合は28日~3月2日に開かれました。
会合では発言に立ったほとんどの国が「国際法の枠組みや国連憲章の原則が、大きさや地位に関係なくすべての国に安全な環境を提供すると確信している」(ジャマイカ)など、国際法の原則にもとづいて、ロシアの侵略を非難しました。
会合は2日、ロシアによるウクライナ侵略を国連憲章違反だと断定し、ウクライナでの武力行使停止、軍の「即時、完全、無条件撤退」をロシアに求める非難決議を採択しました。
賛成は国連加盟国193カ国の7割にあたる141カ国。これは、1989年の米国によるパナマ侵略を非難する決議(同75)などと比べても、圧倒的多数の賛成となりました。79年末のソ連によるアフガニスタン侵攻を非難する決議(同104)は侵略国ソ連を名指しできませんでした。今回の決議は賛成国の多さだけでなく、その内容でもロシアの蛮行を多面的に厳しく糾弾するものとなりました。
ウクライナは2月26日、国連の主要機関の一つである国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)にロシアを提訴しました。
ICJは3月7日に審理を開き、ロシア側が出廷を拒否するもと、ウクライナ側は意見陳述で、侵攻の即時停止を命じる仮保全措置を出すよう要求。16日の審理で、ウクライナへの侵攻を即時停止するようロシアに命じる仮保全措置が出されました。
ICJは、ロシアの侵攻で「人命が失われ、人々が苦しみ続けていることを強く懸念している」と表明。ロシアによる武力行使は「国際法に関する非常に深刻な問題を提起している」と述べました。
また、国際刑事裁判所(ICC、同)も2月28日、カーン主任検察官がウクライナでの戦争犯罪や人道に対する罪の捜査開始手続きを進める方針を表明。3月2日には、ウクライナでの戦争犯罪や人道に対する罪に関する捜査を開始したと発表しました。英独仏やカナダなど39カ国のICC設立条約締約国が捜査を付託したことを受けたものでした。
米エール・ロー・スクールのオナ・ハサウェー教授(国際法)は米誌『フォーリン・アフェアーズ』(電子版)で「国際法はウクライナにとってロシアと対抗する最も強力な武器の一つ」と指摘。国際法がよりどころとなって、「前例のない国家連合ができ、ロシアの侵略に反対している」と国連を中心とした国際社会の対応がロシアを追い詰めていると解説しています。
世界 撤退求め数十万の波
ウクライナを侵略するロシア軍の撤退を求めるなどの反戦集会・行動は、世界各地で広がり続けています。
欧州の大都市では数万人規模のデモが相次いでいます。スペインの首都マドリードで20日、反戦デモが行われました。参加者は「交渉によって平和を目指す外交努力を強化すべきだ」と訴えました。
19日、タイの首都バンコクやトルコの首都アンカラ、米ニューヨークなどでの集会・行動では、犠牲者を追悼し、ロシア軍の無差別攻撃に対して怒りの声が上がりました。
韓国の市民団体で構成する「ウクライナ平和行動」も18日、ソウル市内のロシア大使館の近くで集会を開催。「戦争反対の声が戦争を止める。人ごとではない。戦争反対の声を上げよう」との呼び掛けがありました。
侵略当事国ロシアの国内でも大規模な反戦デモが行われました。参加者を警察が多数拘束、弾圧してはいるものの行動は収まらず、インターネット・SNSを駆使して反戦メッセージを発信する人たちもいます。
14日夜、ロシアの政府系テレビのニュース番組の生放送中、女性編集スタッフがキャスターの後方で、「戦争反対」などと書かれた紙を掲げ、「戦争をやめろ」と訴えました。
多数のロシアの医師・看護師らによるプーチン大統領にウクライナでの戦闘をやめるよう求める公開書簡や、科学者・科学ジャーナリストらのウクライナ侵攻に断固反対する公開書簡も発表されています。
日本 広がり続く「反戦」の声
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ロシア軍の侵攻開始以降、日本全国各地でも撤退を求めるデモやパレード、スタンディングなど大小さまざまな規模の取り組みが続いています。中高生による抗議集会や、日本在住外国人が呼びかけたパレードも。世代も国籍も多様な人々が反戦を訴えています。
春分の日の21日、東京都渋谷区であった抗議集会には2500人が参加しました。作家の澤地久枝さんらがステージでメッセージを伝えた後、「NO WAR」などのカードを掲げた参加者が、休日の繁華街をデモ行進しました。
同日、平和問題を学ぶ東京高校生平和ゼミナールと首都圏の高校生らは港区のロシア大使館前で抗議集会。「なぜウクライナの人たちが悲しまなければならないのか。私たちは抗議する」などと声を上げました。18日には愛知県の中高生200人以上が名古屋市の中心街をパレードしました。
侵攻開始直後の2月26日、JR渋谷駅前で在住ウクライナ人有志が呼びかけた抗議集会にはおとなから子どもまで多数が参加。ネットなどで知った日本人も、ウクライナ国旗にちなんだ青と黄色のカードを掲げるなどして集まりました。時間とともに群衆は膨らみ、一時は2000人が交差点の一角を埋めました。
ウクライナ人有志らは翌週の3月5日にも、渋谷区内で大規模な反戦パレードを呼びかけ、4000人が参加したと発表しました。
この日は多くの外国人の姿もありました。
ロシア人女性の一団は英語で「私はロシア人だ。そして戦争に反対する」と書いた紙を掲げました。40歳代の自営業の女性は「ロシアではプーチン政権のプロパガンダが強いが、戦争の実態を知ればロシアの人も反対する」と口調を強めました。(人数はいずれも主催者発表)