2022年3月24日(木)
主張
日ロ領土交渉中断
屈従外交の抜本的な見直しを
ロシアのプーチン政権が日本との平和条約締結に関する交渉を中断すると一方的に発表しました。ロシアによるウクライナ侵略に対して日本政府が発動した経済制裁への報復措置とされます。しかし、もともと、国連憲章をあからさまにじゅうりんする侵略を進めて、国際人道法に違反する戦争犯罪をおかし、核兵器の先制使用による威嚇まで行っている政権と、平和条約の協議をする条件はありません。日本政府は、これまでの対ロ外交を抜本的に見直すことが必要です。
ロシアによる侵略に起因
ロシア外務省が21日に発表した声明は、「日本がウクライナ情勢に関してロシアに対して発動した一方的制裁のあきらかに非友好的な性質に鑑み」た結果として、▽現状において日本との平和条約に関する交渉を継続する意思はない▽国後、択捉、歯舞、色丹の4島をめぐるビザなし交流や元島民らの自由訪問の廃止を決定した▽4島での共同経済活動に関する日本との対話から離脱する―ことなどを明らかにしました。
声明は、日本について「公然と非友好的な立場を取り、わが国の利益に損害を与えようとする国家」だとして、「全責任は反ロシアの方針を意図的に選択した日本政府にある」と主張しています。
これは、とんでもない言い分です。今回の事態が全てロシアによるウクライナ侵略に起因することは明白です。ロシアが日本側の対応を一方的に非難し、元島民のためのビザなし交流・自由訪問の廃止を決めたことは言語道断です。
岸田文雄首相は、ロシア外務省の声明を受け、「日本政府として、領土問題を解決して平和条約を締結するという対ロ外交の基本方針は不変だ」と述べました(22日)。しかし、日本政府はこれまでの対ロ外交をしっかりと検証する必要があります。
とりわけ問題にしなければならないのは、安倍晋三元首相の対応です。第2次安倍政権以降、同氏は千島列島や北海道の一部である歯舞、色丹を不法に占拠したロシアの覇権主義を批判せず、プーチン大統領をファーストネームの「ウラジーミル」と呼ぶなど個人的な信頼を築き、日ロの経済協力を進めて領土問題を解決するという方針を取りました。
2014年にロシアがウクライナの一部であるクリミアを一方的に併合した際、欧米諸国が厳しい制裁を科す中で、安倍政権はロシアには実質的に何の害もない措置にとどめ、16年の日ロ首脳会談では4島での共同経済活動に関する交渉の開始や8項目の経済協力プランの具体化で合意しました。
18年の首脳会談では、安倍首相は、「4島返還」という従来の日本政府の立場さえ投げ捨て、事実上、歯舞、色丹の「2島返還」で終わらせようとする合意をプーチン大統領と結びました。
安倍元首相の責任は重大
その後、領土問題は何の進展もないばかりか、ロシアが20年の憲法改正で「領土の割譲禁止」を明記するなど対ロ外交の破綻は明確になっていました。その原因が、ロシアの覇権主義に追随し、領土問題で重大な譲歩をしてきた安倍元政権の屈従外交にあることは間違いありません。日本政府にはこのことについての真剣な総括が求められています。