2022年3月12日(土)
主張
外環工事差し止め
大深度工事の安全神話捨てよ
陥没事故を起こした東京外郭環状道路(外環道)の大深度地下トンネル工事について東京地裁は2月28日、工事の一部差し止めの仮処分決定を出しました。以前から危険性が指摘されていた外環道の大深度地下工事に差し止めを命じる初めての司法判断です。事業者である国と東日本・中日本高速道路は「安全神話」を捨て、すべての区間で工事をやめるべきです。
施工者に丸投げは無責任
大深度地下工事は地下40メートルより深い地中を掘削します。地上部の買収や地権者の同意は必要なく、補償も不要です。都市部の地中深い空間を開発に利用するため2001年に施行された大深度地下法で可能になりました。
外環道では東京都内で14・2キロにわたって大深度地下にトンネルを建設します。これに対して地上の沿線住民が、地上の環境が損なわれるとして20年5月に差し止めを申し立てました。同年10月には調布市の住宅街が陥没し、警告が現実のものとなりました。
東京地裁は、事業者が陥没の再発防止策を示せなかったことを指摘し「陥没や空洞が生じる具体的なおそれがあるといわざるを得ない」と判断しました。
現場周辺では陥没のほか地盤のゆがみ、外壁などのひび、家具の損傷など深刻な被害が生じ、移転を余儀なくされる人もいます。
地上部への影響はないと言い張って工事を認可した国の責任は重大です。いまだに国は「事故の責任は第一義的に施工者にある」(斉藤鉄夫国土交通相)として、補償など住民への対応を東日本・中日本高速に丸投げしています。
掘削ルートには陥没現場と同じような地盤条件が複数確認されています。他の場所でも事故が起きる可能性があります。にもかかわらず、差し止めが命じられた箇所以外で工事が再開され、沿線住民から不安の声が上がっています。
杉並区議会は2月、区民の疑問が解消されず、工事再開に懸念の声が出ているとする意見書を国土交通省に提出しました。武蔵野市議会外環道特別委員会の委員長は、事業者の説明に対して納得できないと表明しました。
外環道建設では国の大深度地下工事の認可取り消しを求める住民訴訟が起こされています。大深度地下法は憲法で保障された財産権を侵す違憲の法律だと原告は主張しています。
憲法第29条は財産権を「侵してはならない」と定めています。私有財産を公共目的で利用する場合は「正当な補償」が必要です。大深度地下法はこの条項と相いれない法律であり廃止が当然です。
認可取り消し事業見直せ
大深度地下工事はリニア新幹線でも東京都内、名古屋市内など計50キロの区間で認可されています。21年10月には北品川工区で調査を名目にした工事が始まりました。
大深度工事ルート上の沿線で家屋調査を行うとしていますが対象が狭すぎ、不十分と批判されています。ボーリングなどで調査しても、長距離の地盤の把握には限界があります。地上への影響を完全に防ぐことができないのは調布市の陥没事故で明らかです。
平穏な住環境を奪う陥没事故を繰り返してはなりません。国は外環道、リニアとも大深度地下工事の認可を取り消し、事業そのものを見直すべきです。