2022年3月3日(木)
主張
米一般教書演説
目指すべき国際秩序は見えず
バイデン米大統領が一般教書演説を行いました。この1年の総括として注目されましたが、ロシアによるウクライナ侵略への対処では、当面の侵攻に対して同盟での対応強化策は列挙したものの、ロシアが破壊している国際秩序の回復・擁護に向け、国連憲章の精神の下に諸国を結集して積極的に外交をリードする展望は聞かれませんでした。
対ロ制裁とNATO結束
ロシアを侵略者と批判してきたバイデン氏はこの日も、プーチン大統領に「代償を払わせる」として、ロシア航空機の領空飛行禁止など追加の対ロ制裁を発表し、ウクライナへの軍事・経済・人道面で支援強化を訴えました。
同時に力点を置いたのは、北大西洋条約機構(NATO)の重要性です。第2次世界大戦後の秩序の要として、国連憲章による平和秩序ではなくNATOの意義を強調したバイデン氏は、「自由と独裁」のたたかいという構図を描き、ソ連崩壊後新たに加盟した諸国も含め、NATO防衛への米国の責任を力説しました。NATOとその連携国との対応強化で、対ロ抑止を図る姿勢が鮮明です。
しかし、ロシアによるウクライナ侵略に対し、国際社会の最も幅広い、最も強力な反対を結集するのに必要なのは、バイデン氏が強調する「同盟の重要性」「民主主義と独裁のたたかい」ではなく、戦後国際秩序の基本原則を定める国連憲章を守れとの主張です。
バイデン演説と同じ時、ニューヨークの国連本部では、40年ぶりの国連総会緊急特別会合が開かれ、ロシアを非難する発言が相次ぎました。日本時間の3日に予定される総会決議は、国際秩序を回復・擁護していく外交的展望につながるものでなければなりません。
アフガニスタン戦争の教訓を生かすと国民に公約しているバイデン氏には、「力の論理」を超えた、国連憲章中心の国際構想と外交努力の強化が求められます。
一方、コロナ禍からの国の立て直しと内政課題では、引き続き、新自由主義的な経済社会のあり方からの転換の必要性を強く訴え、「トリクルダウン政策は、経済成長を弱め、賃金を下げ、財政赤字を増やし、貧富の格差を拡大した」と述べました。
「良質な雇用」づくりに焦点を当てた財政支出策や、最低賃金の時給15ドルへの引き上げと、医療費、子育て、教育費負担の軽減による貧困家庭の根絶、学費負担の軽減、現役世代への支援、財源として富裕層増税や多国籍企業への最低税率の導入など税の不公正の是正策等を列挙し、法人税ゼロという優遇を受け続ける大企業を痛烈に批判しました。
新自由主義転換へ正念場
問題は、こうした公約が議会の抵抗で実らないことです。秋の中間選挙を見越して、野党・共和党は対決姿勢を強めています。
ただ、議会の外を見れば、この間、賃上げ、労働条件改善など、さまざまな運動が広がりをみせ、ストライキ勝利や労組の結成、24州で最低賃金が引き上がるなどの例も相次いでいます。
「トリクルダウン」からの決別を公約したバイデン政権には、その実現のために、この新しい運動の力ともダイナミックに連携して、国民に理解と支持を広げていけるかどうかが問われています。