2022年2月28日(月)
主張
強制不妊賠償命令
国は上告せず救済責任果たせ
旧優生保護法(1948~96年)下で不妊手術を強制されたとして、近畿地方に住む3人が国に損害賠償を求めた訴訟で大阪高裁は、原告の訴えを退けた一審の大阪地裁判決を取り消し、賠償を命じました。強制不妊手術を認める旧法の規定は違憲としました。一連の訴訟で国の賠償責任を認めた判決は初めてです。原告の被害に向き合い、救済に道を開いた司法判断は画期的です。国は上告せず責任を果たすことが求められます。
被害実態踏まえ壁を崩す
全国の被害者25人が障害を理由に不妊手術を強いられ、子どもを持つ機会を奪われたとして9地裁・支部に提訴しています。これまで6地裁で判決が出され、4件は旧法を違憲と判断したものの、国家賠償は全て退けています。
賠償を阻んできた最大の壁は、損害を被ってから20年を過ぎると賠償請求権が消える「除斥期間」の厳格な適用でした。
除斥期間の起算点について一審判決が50年以上前の不妊手術時としたのに対し、高裁判決は旧法が廃止された96年9月としました。その時まで被害者らは旧法のもと、非人道的で差別的な烙印(らくいん)を押されたに等しい状態に置かれ、「個人の尊厳が著しく損なわれた」と指摘しました。その場合でも、原告が提訴したのは2018~19年であり、不法行為から20年以上経過しています。
高裁判決は、旧法に基づく国の優生施策が「障害者らへの差別・偏見を正当化・固定化した上、これを相当に助長してきた」ため、原告が訴訟提起の前提となる情報などを得ることが非常に困難な状況にあったと認定しました。そして、除斥期間の適用をそのまま認めることは「著しく正義・公平の理念に反する」とし、原告は他の地域で同様の訴訟が提起(18年)されてから被害を知って、その6カ月以内に訴訟を起こしていることから、請求権は消滅していないと判断しました。
判決は、旧法の目的「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」が、特定の障害や疾患のある人を一律に「不良」であると断定するものであり、「日本国憲法の基本理念に照らして是認できない」と批判し、憲法13条(個人の尊重)や14条(法の下の平等)に反すると明確に述べています。国会議員が旧法を制定したことは違法だとしています。
旧法下で不妊手術を受けた人は約2万5千人に上ります。被害者に一律320万円を支給する一時金支給法が2019年4月に施行されました。しかし、請求数は約1100件、認定は960件程度にとどまっています。同法が広く知られていないことがあると言われています。亡くなっている被害者も少なくありません。自治体が独自に強制不妊手術に関する調査に取り組み、被害を掘り起こした個人記録をもとに個別に通知することなどが欠かせません。
一時金支給法改正も必要
一人でも多くの被害者を救済するために、一時金支給法の改正に国会が取り組む必要があると障害者団体は指摘します。
日本国憲法の制定後にもかかわらず、特定の障害や病気のある人の尊厳と人権を踏みにじり、偏見と差別を助長する旧法を制定した行政府と立法府の姿勢も検証されなければなりません。