2022年1月21日(金)
志位委員長の代表質問 衆院本会議
日本共産党の志位和夫委員長が20日の衆院本会議で行った岸田文雄首相に対する代表質問は次のとおりです。
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オミクロン株から命を守る――岸田政権の対応を問う
私は、日本共産党を代表して、岸田総理に質問します。
新型コロナのオミクロン株から国民の命を守ることは、最優先の課題です。総理は、「スピード感」をもって対応してきたと言いますが、実際は、対応が後手後手になっています。私は、緊急にただすべき四つの問題点を提起するものです。
ワクチン追加接種――遅れの原因を明らかにし、最大限の迅速接種を
第一は、ワクチン3回目接種の遅れであります。総理は、昨年12月6日、2回目接種後8カ月を待たずに「できる限り前倒し」をすると表明しました。しかし、現時点で3回目接種を終えたのは全国民のわずかに1・3%。「前倒し」どころか「8カ月」にも追いついていません。OECD(経済協力開発機構)加盟の36カ国で日本の3回目接種はダントツ最下位です。
総理、なぜこんなに遅れてしまっているのですか。政府が、昨年11月12日に、何の根拠もなく「8カ月以上」を「原則」とする方針を決め、それを今年1月7日まで続けてきた結果ではありませんか。追加接種が遅れた原因を明らかにし、最大限の迅速接種のために政府の責任を果たすことを強く求めるものであります。
PCR検査――自治体まかせを根本からあらため、国が主導して抜本的拡充を
第二は、PCR検査体制の遅れであります。急速な感染拡大による医療と介護の崩壊を防ぐうえでも、高齢者施設や医療機関などを頻回の定期検査によって守ることが急務となっています。ところが政府の対応は、「一斉定期検査」の事務連絡を出しただけで、実施の判断は自治体まかせとなっています。
総理、自治体まかせの姿勢を根本からあらためるとともに、国が主導して、「いつでも、誰でも、無料で」受けられるPCR検査体制を確立し、検査キットなど資材の調達、陽性者の保護に責任をもつべきではありませんか。答弁を求めます。
医療と保健所体制――「自宅放置」で亡くなる方を二度と出してはならない
第三は、医療と保健所体制の問題です。昨年夏の「第5波」の時のような「自宅放置」で亡くなる方を二度と出してはなりません。総理、地域の医療体制強化が急務であるにもかかわらず、発熱外来への補助金や診療報酬の加算を昨年中で打ち切ってしまったのは、どういう理由からですか。補助金の復活、診療報酬の引き上げなど、医療機関への支援を抜本的に強化すべきではありませんか。
来年度予算案には、保健所の恒常的な人員増に向けた新たな施策が盛り込まれていません。東京都の墨田区保健所は、昨年夏の「第5波」に際し、定数の10倍以上にあたる110人の感染症対策の体制をつくり、重症・死亡事例を数カ月にわたってゼロに抑えています。総理、こうした取り組みをすべての地域でできるよう保健所体制の抜本的強化をはかることは、本来、国の責任ではありませんか。答弁を求めます。
米軍基地が水際対策の「大穴」に――日米地位協定の抜本改正に踏み切れ
第四は、沖縄をはじめとする米軍基地が水際対策の「大穴」になっていることです。
昨年12月、沖縄県・玉城デニー知事が総理あての要請書で、米軍の入国停止、基地からの外出禁止を、米側に求めるよう要求していたにもかかわらず、対応を怠ってきた責任はきわめて重大です。厳しい反省に立ち、知事の要請にこたえるべきではありませんか。
この問題の根本には、米軍に治外法権的な特権を保障している日米地位協定があります。ドイツでも、オーストラリアでも、韓国でも、受け入れ国側が検疫を行う権限が保障されています。ところが日本だけは、検疫は米軍まかせで、日本政府は何らの関与もできません。総理、これで独立国と言えますか。日米地位協定の抜本改正に踏み切るべきではありませんか。答弁を求めます。
新自由主義から転換し、“やさしく強い経済”を
新自由主義の「自由」とは誰にとっての「自由」か
総理は、施政方針で、「新しい資本主義」の実現を唱え、「新自由主義的な考え方が生んだ、さまざまな弊害を乗り越え」るとのべました。そこで聞きます。
そもそも総理は、新自由主義の「自由」とは、誰にとっての「自由」だと認識していますか。私は、それは国民にとっての「自由」ではなく、大企業のもうけの「自由」だと考えます。そのために邪魔になるものはすべて取り払う。国民には「自己責任」を押し付け、「弱肉強食」を強いる。ここに新自由主義の本質があると考えますが、総理はどのように認識していますか。まずお答えいただきたい。
新自由主義が、日本経済を“もろく弱い経済”にしてしまったという事実を認めるか
さらに聞きます。総理は、「新自由主義的な考え方」が、「さまざまな弊害」を生んだとのべましたが、「新自由主義的な考え方」がこの日本にもたらした「弊害」をどのように認識しているのですか。
1980年代にはじまり、90年代に本格化した新自由主義は、日本社会を人々に「自己責任」を押し付ける“冷たい社会”にしてしまっただけではありません。“強い経済”をつくるといううたい文句とは反対に、日本経済を“もろく弱い経済”にしてしまったのではないでしょうか。
まず「賃金が上がらない国」になってしまいました。1人あたりの実質賃金は、ピークだった1997年から2020年までに何と64万円も減りました。OECD加盟で比較可能な22カ国のうち、この30年間の日本の賃金の伸びは世界最低になっています。
また「成長できない国」になってしまいました。OECDによるとこの7年間――2013年から20年で見て、名目GDP(国内総生産)の伸びは、アメリカは25%、ユーロ圏は14%に対して、日本はわずか6%です。日本は世界で最も「成長できない国」になってしまっているのであります。
さらに「競争力の弱い国」になってしまいました。スイスのシンクタンク・IMDが発表した各国の競争力ランキングで、日本は90年代初めの世界1位から、直近では31位にまで落ち込んでいます。
総理にうかがいます。新自由主義が、日本経済を“もろく弱い経済”にしてしまったという事実を、お認めになりますか。端的にお答えください。
「人件費抑制で収益を確保する経営」を応援してきたのが歴代自民党政権ではないか
さらに聞きます。日本経済をここまで“もろく弱い経済”にしてしまった責任はどこにあるか。私は、大企業の利益を最大にするために、財界の要求にこたえて、人件費をかぎりなく削減していくことを応援してきた歴代自民党政権に重大な責任があると考えますが、総理にその自覚がありますか。
人件費削減を目的に、90年代後半から労働法制の規制緩和が行われ、派遣労働をはじめ非正規雇用が自由化され、派遣・パートなどの割合は20%から40%にまで上昇し、「使い捨て」労働がまん延しました。
企業の社会保険料負担=人件費の抑制・削減を求める財界の要求にこたえて、自公政権が20年間にわたって推進してきた社会保障費の自然増削減路線は、医療・介護・年金など、あらゆる分野で国民に激痛を押し付けています。
人件費だけでなく税負担の軽減を求める財界の要求にこたえて、大企業と富裕層への減税と一体に、消費税の連続大増税が行われました。
総理、労働法制の規制緩和、社会保障削減、消費税連続増税――この3本柱で、実質賃金が減り、負担が増え、将来不安が社会を覆い、GDPの5~6割を占める家計消費を冷え込ませた結果、日本は「成長できない国」になってしまったのではありませんか。
『文芸春秋』で総理は、「労働力をコストと捉え、人件費の抑制によってわずかな収益を確保するという経営は、新しい資本主義における企業の理想像ではありません」と指摘しておられます。しかし、まさに、「人件費の抑制によってわずかな収益を確保するという経営」を応援してきたのが、歴代自民党政権ではありませんか。総理にその自覚と反省はありますか。そして、こうした財界応援政治と決別し、転換する意思はありますか。
“やさしく強い経済”への大改革を――日本共産党の五つの提案
日本共産党は、新自由主義を転換し、“やさしく強い経済”への大改革を行うために、つぎの五つの提案を行います。
第一は、政治の責任で「賃金が上がる国」にすることです。人間らしい雇用のルールをつくり、非正規雇用の正規化、サービス残業の根絶、中小企業支援と一体に最低賃金の1500円への引き上げ。この三つを行うだけで、平均賃金を97年のピークに戻すことができるという民間シンクタンクの試算もあります。これらの政策を実行する意思はありますか。
第二は、社会保障を削減から拡充に転換することです。消費税を財源にした20万床の急性期病床の削減計画はきっぱり撤回すべきです。75歳以上の医療費2倍化を中止し、国庫負担を引き上げるべきです。値上げラッシュのもとでの年金削減は中止し、「減らない年金」にする改革を行うべきではありませんか。
第三は、富裕層と大企業に応分の負担を求め、消費税を5%に減税することです。世界62カ国で実施・計画されている消費税減税こそ、コロナから暮らしを守り、経済を立て直す決定打です。小規模事業者やフリーランスに大打撃をもたらすインボイス(適格請求書)制度は中止すべきではありませんか。
第四は、気候危機打開の本気の取り組みです。日本自動車工業会は、このまま火力発電への偏重が是正されない場合、製造時に二酸化炭素排出の多い日本生産の車の輸出ができなくなり、約100万人の雇用が失われ、経済損失は26兆円に及ぶと訴えています。総理は、この警告をどう受け止めますか。石炭火力ゼロ、原発ゼロ、大規模な省エネ・再生エネ普及こそ、経済を強くする道ではありませんか。
第五は、ジェンダー平等の視点を貫くことです。12年連続でジェンダー平等世界一のアイスランドの首相は、男女の賃金格差をなくすため、企業に同一賃金の証明を義務づけ、違反があれば罰金を科す取り組みを行うなかで、経済を強くするという「副産物」が生まれたとのべています。総理、日本も学ぶべきではありませんか。年収で240万円もの男女の賃金格差解消に向けて、企業に実態を公表することを義務づけるべきではありませんか。
以上、わが党の提案に対する総理の見解を求めるものです。
「戦争する国」づくりを中止し、東アジアを平和と協力の地域にしていく平和外交を
“相手を殲滅するような打撃力を持つ”(安倍元首相)――この議論を拒否できるか
米中対立がさまざまな分野で強まるもと、日本の進路が問われています。
中国による東シナ海や南シナ海での覇権主義の行動に対しては、国連憲章と国際法にもとづいた冷静な外交的批判が何よりも大切です。
軍事に対して軍事で構えるならば、軍拡競争の悪循環に陥り、衝突や戦争という破局的な事態を招きかねません。この点で、総理が、米国に追随して、敵基地攻撃能力保有に踏み出していることは、きわめて重大です。
敵基地攻撃にかかわって、安倍(晋三)元首相は昨年11月の講演で、“敵基地だけに限定せず、「抑止力」として相手を殲滅(せんめつ)するような打撃力を持たなければ日米同盟はなりたたない”という趣旨の発言をしています。いざという時には相手国を殲滅する全面戦争を行う、それができる軍事力をもてというのであります。このような議論は、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」し、「戦争放棄」をうたった日本国憲法とは絶対に相いれない議論です。総理は安倍元首相が主張する「打撃力」という議論をきっぱり拒否できますか。総理が検討するという敵基地攻撃能力とは、結局、ここに行きつくのではないですか。明確な答弁を求めます。
日本共産党は、日本を「戦争する国」につくりかえる動きに、断固反対を貫くことを表明するものです。
東アジアサミットを活用・強化して、東アジアを平和と協力の地域に
それでは、どうやって東アジアを平和と協力の地域にしていくか。国連憲章と国際法にもとづいて、あらゆる紛争を平和的な話し合いで解決し、平和的に共存していく道を追求する外交努力に徹することが、今求められているのではないでしょうか。
こうした道を一貫して追求してきたのがASEAN(東南アジア諸国連合)であります。ASEANは、紛争を平和的な話し合いで解決することを義務づけた東南アジア友好協力条約を締結し、徹底した粘り強い対話を積み重ねることで、この地域を「分断と敵対」から「平和と協力」の地域へと大きく変えてきました。
日本にとって重要なのは、ASEAN10カ国+日米中を含む8カ国で構成される東アジアサミットが、毎年首脳会議を開催し、この地域の平和の枠組みとして発展していることです。2019年のASEAN首脳会議では、「ASEANインド太平洋構想」が採択され、東アジア地域の全体を、「対抗でなく対話と協力の地域」にし、ゆくゆくは東アジア規模の友好協力条約をめざすことが提唱されています。
総理、いま日本政府がやるべきは、ASEAN諸国と手を携え、東アジアサミットという、すでにつくられている平和の枠組みを活用・発展させて、東アジアを平和と協力の地域にしていくための、憲法9条を生かした平和外交ではないでしょうか。答弁を求めます。
本土復帰50年の沖縄――普天間基地の無条件返還、辺野古新基地建設の中止を求める
最後に、本土復帰50年を迎える沖縄の基地問題について質問します。日米両政府が、1996年に普天間基地の全面返還に合意してから25年以上が経過しました。総理は、いまだに返還が実現しない根本的な原因がどこにあると認識していますか。
もともと96年の日米合意は、その前の年の米兵による少女暴行事件に対する島ぐるみの怒りが沸騰するもとで、それに押されて交わしたものでした。しかしこの日米合意には重大な問題点がありました。普天間返還の代わりに新基地を県内につくることが条件とされていたのであります。
総理、少女の人権を奪っておいて、普天間を返してほしければ、新しい基地をつくってよこせ。こんな理不尽な要求を沖縄県民が受け入れるはずがないではありませんか。
国際法に違反して強奪した土地の上につくった普天間基地は無条件返還を求めて米国と交渉すべきであります。軟弱地盤の存在など破綻が明瞭になった辺野古新基地建設は中止することを強く求めて質問を終わります。