2022年1月14日(金)
主張
原発活用への固執
重大事故の教訓を忘れたのか
経団連など財界トップから、脱炭素に向けたエネルギーとして、原発の活用を求める発言が相次いでいます。岸田文雄首相も「再生可能エネルギーのみならず、原子力、水素などあらゆる選択肢を追求」(『文芸春秋』2月号)と述べ、原発に頼る姿勢を示しています。3月で東京電力福島第1原発事故から11年です。いまも多くの住民がふるさとに戻れず、地域社会は大きな困難を抱えたままです。温暖化対策を口実に原発を「クリーン」と言って推進することは、環境と住民生活に甚大な被害を及ぼした事故の教訓を忘れた「安全神話」の復活に他なりません。
地球温暖化対策を口実に
「原発という選択肢を排除することはあり得ません」(十倉雅和・経団連会長)「原子力の積極的な活用、位置づけを明確に」(三村明夫・日本商工会議所会頭)。5日の財界団体共同会見での発言です。
経団連元会長の今井敬・日本原子力産業協会会長は年頭所感(6日)で「脱炭素社会の実現と、経済発展を両立させるためには、クリーンでかつ、発電コストが安定している原子力を最大限に活用することが最も合理的」と強調しました。気候危機打開の機運を利用し、原発の本格的な復権を図ろうという狙いがあからさまです。
岸田政権が昨年10月に決定した第6次エネルギー基本計画は、原発をベースロード(基幹)電源と位置づけました。2030年度の電源構成に占める原発の割合を20~22%にすると明記し、「必要な規模」の持続的活用を打ち出すなど原発依存を鮮明にしています。
一方、財界や電力業界が求める建て替えや新増設は、国民世論を意識し、エネ基本計画に書き込めませんでした。政府や電力会社は各地で再稼働に向けた動きを加速しているものの、住民や自治体の不安や批判から狙い通りに進展していません。財界トップらが年頭から「原子力の正当な価値が認められ、将来にわたる活用が明示される」(今井氏の所感)ことを求める発言をしているのは、焦りの反映でもあります。
原発は、事故の際に放射能汚染という最悪の環境破壊を引き起こす危険があるだけではありません。使用ずみ核燃料は数万年先まで環境を脅かし続けます。とても「クリーンエネルギー」とは言えません。「原発は低コスト」という主張も崩れています。政府の試算でも、太陽光発電や風力発電よりも原発は高コストになっています。原発を正当化する根拠はありません。
岸田政権と財界は、次世代の原発として「小型モジュール炉」などの開発で国際的に連携するとしています。しかし、安全性の検証はこれからであり、放射性廃棄物を出し続けることは既存原発と変わりません。いつまでも原発に固執する姿勢を改めるべきです。
再エネの普及にこそ力を
石炭火力発電からの撤退とともに、原発からの脱却を決断する時です。30年度までの二酸化炭素50~60%排出削減の実現に向け、エネルギー消費を4割減らし、再エネで電力の50%をまかなう道に踏み出すことが重要です。脱炭素化、省エネ、再エネの推進は、新たな雇用創出、地域経済の活性化、新技術の開発など持続可能な成長をとげる社会づくりにつながります。社会システムの大改革を進める転機の年にしていきましょう。