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2022年1月13日(木)

主張

読売・大阪連携協定

報道機関の役割果たせるのか

 読売新聞大阪本社と大阪府が昨年末、包括的な連携協定に調印したことについて、ジャーナリズムの役割が損なわれるのではないかとの批判が高まっています。新聞社が公権力である自治体と広い分野で連携協定を締結するなどというのは極めて異例で、権力を監視する報道機関本来のあり方が問われています。大阪府の吉村洋文知事は「大阪維新の会」代表を務めています。「維新」の政治的影響力が強い自治体と協力を強めることは、公正な報道という原則を揺るがしかねません。

知る権利ゆがめる危険

 「読売」大阪本社と大阪府の包括連携協定は、教育・人材育成、情報発信、安全・安心、子ども・福祉、地域活性化、産業振興・雇用、健康、環境など広範な分野で、協力することをうたっています。2025年開催予定の大阪・関西万博の開催に向けた協力も盛り込んでいます。

 協定は、「読売」の大阪府への取材・報道に制限が生じないことや、大阪府が「読売」を優先的に取り扱うものではないと記していますが、具体的運用は明らかにされていません。「読売」が大阪府の広報紙になるおそれは消えません。

 協定の締結を受け、「ジャーナリスト有志の会」は抗議声明を発表し、協定の解消を求めました。声明では、取材される側と取材する側の「一体化」は、知る権利をゆがめ、民主主義を危うくすると批判しています。声明への賛同署名は全国的に広がり続けています。

 「読売」も参加する日本新聞協会の「新聞倫理綱領」は、「国民の『知る権利』は民主主義社会をささえる普遍の原理」であり、「この権利は、言論・表現の自由のもと、高い倫理意識を備え、あらゆる権力から独立したメディアが存在して初めて保障される」と明記しています。「読売」と大阪府の協定は、こうした立場とは相いれないものです。

 権力を持つ行政機関と報道が一体化することの危険性は、歴史に学ぶことが重要です。かつてアジア・太平洋戦争の際に、日本の国内の新聞やラジオは侵略をあおり、国民を戦争に駆り立てました。戦争末期には「朝日」の主筆を務めた緒方竹虎氏が政府の情報局の総裁に就任し、「読売」社長の正力松太郎氏は情報局の参与になり、戦争に協力しました。「読売」の大阪府との協定はこうした過去をも思い起こさせるものです。

 「読売」と大阪府の協定締結に対し、内田樹(たつる)神戸女学院大学名誉教授は「メディアとしては自殺行為」とのべ、上西充子法政大学教授は「権力の監視機能が損なわれる危険があります」と批判します(11日付、本紙インタビュー)。こうした声に、真摯(しんし)に耳を傾けなければなりません。

志ある記者の心折るな

 「ジャーナリスト有志の会」の声明は、「志を持った記者が心折れることなく、尊厳を持ってジャーナリズムに専念できる環境を取り戻す必要があります」と指摘します。権力から独立してこそ、健全なジャーナリスト活動ができます。協定は志ある記者の活動にも、大きな妨げになりかねません。

 報道機関が権力と結び付きを強めることは市民のメディアに対する信頼を失わせます。「読売」は公正な報道が求められる、報道機関の原点に立ち戻るべきです。


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