2021年12月30日(木)
「黒い雨」新指針の再考を
新たな分断に批判広がる
原爆投下直後に降った「黒い雨」による健康被害をめぐり、国が救済対象となる被爆者の認定指針にがんなどの11疾病の発症などの要件を入れる方針を固めました。広島高裁判決から4カ月。「来年度運用を目指して」と厚労省が年末に提案してきた要件に、「新たな線引きだ。国は時間稼ぎをし、広島の現地を訪れることなく何をしていたのか」と被爆者や元原告らは憤りを隠しません。
厚労省が提示した案は▽「黒い雨」に遭った人や遭った可能性が否定できない人▽がんなどの11種類の疾病にかかっている▽白内障の手術歴がある―です。
厚労省の指針案に広島の被爆者7団体と、広島「黒い雨」被害者を支援する会、長崎の被爆地域拡大協議会、第二次全国被爆体験者協議会などが抗議。「議論の対象から外された」と長崎県、市もこの認定指針を「受け入れられない」と反発しています。
毎日新聞の社説(29日付)では、「なぜ被害者全員を救済しないのか。高裁判決は疾病の有無を問わなかった。その判断に従い、政府は要件を撤廃すべきだ」。
朝日新聞の社説(28日付)では、「政府の新指針では、被爆者の全員救済につながらず、司法から否定されたはずの線引きが新たな形で残る。広島と長崎の間で分断を生みかねない。再考するべきだ」と指摘しています。
長崎新聞の論説(26日付)では、「広島と長崎は同じ被爆地であり、広島の原爆被害者だけを救済し、長崎を置き去りにするならば、これは国による差別だ。国の援護法政策の原則は平等で合理性があることだ。このままでは広島と長崎の救済に格差が生じてしまう。岸田首相の速やかな政治決断を求める」と述べています。
「黒い雨」認定指針に対し、被爆者をはじめ、多くの抗議や厳しい批判が出ていることを踏まえれば、合意が得られない指針は撤回し、原爆被害者を一人も取りこぼすことなく救済するために認定指針を再考すべきです。 (加來恵子)