2021年12月23日(木)
主張
リニア新幹線建設
見通しない事業 中止しかない
JR東海によるリニア中央新幹線のトンネル工事で発生する水資源問題について国土交通省の静岡工区有識者会議が19日、中間報告をまとめました。静岡県と流域自治体が求めている大井川の減水対策は示されませんでした。影響は軽微とするJR東海の主張を事実上追認したものです。地元が納得できないのは当然です。もともとリニア建設は必要性が乏しく、採算でも破綻必至の国家プロジェクトです。中止を決断すべきです。
大井川減水に具体策なし
JR東海は、南アルプストンネルの工事で湧き出た水の流出によって大井川の水量が減少するとの予測を2013年に静岡県に示しました。大井川は流域の生態系や住民の生活、産業を支え「命の水」と言われます。県は、工事中に出るものを含めてすべての湧水を大井川水系に戻すよう求めていますが、回答がないため着工を認めていません。
中間報告は、導水路をつくって湧水をすべて大井川に戻せば「中下流域の河川流量は維持される」と明記しました。しかし、湧水全量を戻すことが技術的に可能なのかという肝心な疑問には答えがなく、戻す方法はJR東海に委ねただけです。
県は「解決策が示されていない」とするコメントを発表しました。JR東海については、県が求める資料を提示しない不誠実さや、地域の思いを理解しない経営トップの発言を挙げて「地域の信頼は低い」と批判しました。
静岡工区の着工が認可されないことで、27年に予定する東京・品川―名古屋間の開業は延期が不可避となっています。大井川の減水以外にも以前から指摘されていた問題が次々に深刻化しています。
新型コロナウイルス危機によって大きく減った旅客需要は、テレワーク、リモート会議の普及で今後も元に戻らないと予想されます。東海道新幹線に加えて、首都圏と関西を結ぶ高速鉄道をもう一つつくる前提は崩れています。
品川―名古屋間の工事費はすでに約1・5兆円増えて7兆400億円に膨らんでいます。東海道新幹線を主体とするJR東海の運輸収益はコロナ危機で悪化しています。巨額の工事費を回収できる見込みはますます薄く、安倍晋三政権が投じた3兆円の財政投融資がつけとなって国民にのしかかってくる恐れが強まっています。
工事の安全が確保されていないことも重大です。リニア建設では都市部で50キロにわたって地下40メートルより深い所を掘る大深度地下工事を行います。同じ工法で地下を掘り進んだ東京外郭環状道路の工事は東京都調布市の住宅街で陥没事故を引き起こしました。
大深度以外のトンネル工事でも崩落事故が相次ぎ、死者が出ています。安全を置き去りにして工事を急ぐことは許されません。
次の世代に負担を残すな
リニアは既存の新幹線の何倍もの電力を消費します。気候危機を打開するための省エネルギーに逆行しています。
気候変動が原因とみられる大規模災害が頻発しているもとで、リニアのトンネル工事で発生する膨大な残土の処理も大問題です。
あらゆる点でリニア建設が次世代に負担を残すことは明らかです。政府は事業を見直し、工事認可の取り消しに踏み出すべきです。