2021年10月12日(火)
主張
「強制送還」は違憲
判決確定の重みを受け止めよ
政治的迫害を理由に難民認定を求めていた外国人を裁判の機会を与えず強制送還したことは、裁判を受ける権利を保障する憲法32条に違反するとした東京高裁判決(9月22日)が、先週確定しました。被告の国が、判決を覆すのは困難として、期限の6日までの上告を断念したためです。国と出入国在留管理庁は違憲判決を正面から受け止め、外国人の人権侵害が後を絶たない入管行政を根本からたださなければなりません。
裁判の機会すら奪った
原告はスリランカ国籍の男性2人です。1999年と2005年にそれぞれ入国し、在留資格を超えて滞在したとして入管施設に収容されましたが、一時的に身柄拘束を解く「仮放免許可」で出所していました。2人は難民申請が不認定にされたことに異議を申し立てていました。
14年末、2人が仮放免更新の定期出頭で東京入管を訪れた際、すでに40日前に決まっていた異議申し立て棄却決定をその場で伝えられ、直ちに収容され、翌日早朝に強制送還されました。
1人は弁護士に連絡を取りたい、訴訟を提起したいと何度も訴えたにもかかわらず、弁護士と連絡が取れないまま送還されました。行政事件訴訟法は、処分を出した場合は本人に伝え、6カ月以内に裁判を起こせることを伝えなければならないとしています。ところが、別の1人には、裁判が保障されていないかのような不当な説明が行われました。東京入管の対応は、同法や難民異議申立事務取扱要領などに違反しています。
高裁判決は、入管が送還直前まで棄却を知らせなかったことについて「男性らが訴訟を起こす前に送還するため、あえて告知を遅らせた」と判断しました。そして「司法審査を受ける機会を実質的に奪った」ことは、憲法32条が定めた裁判を受ける権利を侵害したと結論付けました。また憲法31条の適正手続きの保障、同条と結びついた13条(個人の尊厳の保障)にも反すると明確に述べました。
国側は、スリランカ人男性の難民認定申請は日本に在留したいがための方便で、難民不認定処分への異議申し立ても乱用的に行われたものと主張しました。これに対し高裁判決は、難民該当性の問題は司法審査の対象となるべきで、裁判の機会を奪う理由にならないことも明らかにしました。
原告代理人の弁護士は高裁判決後の記者会見で、「入管は裁判に訴える時間を与えず強制送還するやり方を繰り返してきた」と指摘しました。強制送還は命の危険にかかわります。国は関係者に謝罪するとともに、同様の事例の有無などを徹底調査すべきです。
人権を保障する制度に
自民・公明政権は、送還拒否への刑事罰新設、難民申請者を強制送還する仕組みの強化などを盛り込んだ入管法改定案を先の通常国会に提出しました。改悪案は、国民世論と野党共闘の力で事実上廃案に追い込まれました。法案の審議では、外国人を非人間的に扱う入管行政の実態が浮き彫りになりました。名古屋入管でのスリランカ人女性死亡事件(3月)のビデオ全面開示を、法務省がいまも拒否していることは重大です。入管行政を根本的に改め、外国人の人権を保障する制度にすることが求められます。