2021年9月30日(木)
岸田新総裁は安倍・菅直系
何から何まで路線継承
29日に、河野太郎規制改革担当相、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行を破り、自民党新総裁に選出された岸田文雄前政調会長。岸田氏のコロナ対応や外交、改憲への姿勢などは「安倍・菅政治直系」ぶりが鮮明です。
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外交
安保法・同盟強化を担う
岸田氏は、第2次安倍政権発足から17年8月まで、戦後最長の約4年8カ月にわたり外相を務めました。稲田朋美氏の辞任に伴って、17年7~8月は防衛相も兼任。安倍氏との「蜜月」ぶりを示しました。
安倍氏は当初、米中双方から「超タカ派」とみられており、「ハト派」のイメージがある宏池会会長・岸田氏の起用は、そうした印象を和らげるためとの見方もありました。しかし、実際は、安保法制や辺野古新基地建設の強行など、安倍氏と一体になって日米同盟強化を推進しました。
24日のオンライン公開討論会では、外相時代の実績として15年6~9月の「安保法制国会」で「216時間答弁に立った」ことを誇示。これに先立つ同年4月、安倍氏が米議会で安保法制の成立を米側に誓約し、日米同盟を「希望の同盟」だと言い放った屈辱的な演説について、岸田氏は著書『核兵器のない世界へ』の中で「歴史的な演説」だと絶賛しています。
さらに13日の会見で、安倍氏が推進してきた「自由で開かれたインド太平洋構想」の継承を宣言。憲法違反の敵基地攻撃能力の保有についても「有力な選択肢」と表明しました。5年間の軍備増強計画である「中期防衛力整備計画」(19~23年度)については前倒し改定も視野に入れ、軍事費は「結果的に増額になる」と述べ、軍拡路線を推進する考えも示しています。
岸田氏は、被爆地・広島県の選出であるにもかかわらず核兵器禁止条約を一貫して否定し、被爆者の願いを踏みにじってきました。
国連の核兵器禁止条約交渉会議(17年3月)では、米国の圧力を受けて日本は決議に反対。岸田氏は会見で「核兵器国と非核兵器国の対立を一層深め、逆効果になりかねない」と表明し、これが同条約に対する政府の基本見解になっています。
日米実務者が抑止力について協議する「日米拡大抑止協議」は当初、非公表でしたが、岸田氏の外相時代から実施を公表。著書で岸田氏は、同協議の「政治レベルへの格上げ」を提唱しており、米国の「核抑止」強化の姿勢を示しています。
疑惑と強権政治
真相解明に背 手法継承
安倍政権下で相次いだ政治の私物化、「政治とカネ」の問題など、疑惑の真相解明にも背を向けています。
森友学園問題をめぐり、岸田氏は当初、「調査が十分かどうかは国民側が判断する話。国民は足りないと言っている」(2日、TBSのBS番組)と発言していました。しかし、この発言に対する安倍氏の「不快感」が伝えられると、「再調査等は考えていない」「すでに行政において調査が行われ、報告書も出されている。司法において今、裁判が行われている。そうしたことを踏まえ、必要であれば説明を行う」(7日、記者団から問われ)と発言を後退。わずか5日で自身の発言を覆し、安倍氏への忖度(そんたく)ぶりが鮮明です。
岸田氏は、菅首相による強権政治も継承。憲法が保障する「学問の自由」を踏みにじった日本学術会議への人事介入・任命拒否について「人事の理由説明は難しい」などと述べ、撤回を否定しています。
安倍政権下で政府や党の要職を務めてきた自身の共同責任についても無反省。広がった国民の政治不信に向き合うこともなく、疑惑にふたをし、政治の私物化・強権政治を引き継ぐのが岸田氏です。
憲法破壊
改憲明言 歴史観も共有
岸田氏は、安倍・菅政権が進めてきた憲法蹂躙(じゅうりん)・立憲主義破壊を反省することなく、憲法9条への自衛隊明記を含む「自民党改憲4項目」の実現に取り組む立場を示しています。総裁選の公開討論会では、「自衛隊の(9条への)明記は違憲論争に終止符を打つために重要だ」などと安倍氏の持論をそのまま代弁。自身の総裁任期中に改憲実現を目指すとまで明言し、憲法破壊に拍車をかける危険な姿勢を打ち出しています。
岸田氏は著書の中で、安倍氏の掲げた改憲案は「『自衛隊の存在を明記すること』に重点が置かれており、同時に『平和主義』の放棄を一切、考えているわけではない」として、「現実的なものだ」と評価しています。その上で安倍氏を「現実主義に則(のっと)った政治のリーダー」「極めて実直な『リアリスト』」などと礼賛。安倍氏の憲法破壊に共鳴し、同じ道を歩もうとしています。
岸田氏と安倍氏は当選同期(1993年)。ともに自民党の「歴史・検討委員会」に所属し、日本の侵略戦争を美化する歴史わい曲の「英才教育」を受けてきました。その後、安倍氏が事務局長を務めた「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(後に「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」となる)や、改憲推進の「日本会議国会議員懇談会」にも所属。歴史教科書への介入、日本軍「慰安婦」問題への旧日本軍の関与を認め、謝罪した「河野談話」への攻撃などを行ってきた“靖国派”の一員です。
岸田氏は、首相就任後の靖国神社参拝について「時期、状況を考えた上で、参拝を考えたい」とも述べています。日本の過去の植民地支配と侵略戦争を正当化する歴史観を踏襲しています。
コロナ対策
無策・逆行に反省なし
岸田氏は新型コロナウイルス対応について、「危機管理の要諦(ようてい)は、最悪の事態の想定だ。『多分よくなるだろう』では、コロナに打ち勝つことはできない」などと述べていましたが、新総裁決定の当日まで自ら共同責任者である安倍・菅政治の逆行と無策について具体的な反省を一切語りませんでした。
所見表明では菅首相について「身を粉にして奮闘された」と称賛。安倍晋三前首相の退陣表明時と同様のメッセージを送り続けています。
岸田氏が新たに打ち出したコロナ対策は、「11月中の希望者全員のワクチン接種完了」「年内の経口薬普及」と菅路線の継承と言えるものばかりです。臨時医療施設の開設や国公立病院のコロナ重点病院化によって、病床・医療人材の確保を徹底すると主張しますが、具体的な規模・期限は明確に言及していません。
コロナ病床の確保では「公衆衛生上の問題が経済・外交問題にも発展する『有事』になり得る」として、「緊急時は半強制的に協力してもらう。応じなければ罰則も考える」と述べるなど、安倍・菅政治の強権発動も引き継ぐ考えを見せました。
昨年、党コロナ対策の責任者として安倍前首相とともに一定基準を満たす世帯へ30万円給付を行う緊急経済対策を進めていましたが、反対する多くの国民の声に押されて一律10万円給付に変わる迷走を生み出しました。
経済・気候危機
「アベノミクス」を礼賛
岸田氏は「新自由主義からの転換」などと述べながら、金融緩和、財政出動、成長戦略を三つの柱とする大企業優遇のアベノミクスについて「間違いなく大きな成果があった」と評価し、これを継承する姿勢を示しています。
安倍政権は消費税率を2度にわたり引き上げ、コロナ危機とダブルパンチで国民生活に打撃を与えました。世界では61カ国で消費税減税が実施されていますが、岸田氏は「当面、消費税にさわらない」と減税を否定。一方で、企業への“税制支援”などを主張しています。
気候危機にも後ろ向きです。国連の「気候変動に関する政府間パネル」が人間の活動が地球温暖化に与える影響について「疑う余地がない」と断定していることに対し、岸田氏は「科学的検証が前提」と懐疑的な姿勢をとり、菅政権が策定した「エネルギー基本計画」の2030年の再エネ比率36~38%目標について「十分」との認識を示しています。多くの環境団体・シンクタンクが掲げる再エネ40~50%と比べてあまりに低い数値目標です。「温暖化対策」を口実に、原発再稼働、核融合炉の研究開発まで狙っています。
自民党タウンミーティングで高校生からの「気候変動は待ってくれない。積極的に行動してほしい」との呼びかけに対して、岸田氏は「国民運動として努力する雰囲気をつくることが大事」と述べるだけで、政府や大企業の責任を棚上げしました。
ジェンダー問題
選択的夫婦別姓先送り
「『家族の絆』との整理がついていない。引き続き議論を」。岸田氏は、総裁選への立候補表明の記者会見(8月26日)でこう述べ、選択的夫婦別姓の実現を先送りしてきた安倍・菅政治を引き継ぐ姿勢を示しました。
1996年に法制審議会(法相の諮問機関)が同制度導入を答申しましたが、「家族の絆が壊れる」として日本会議国会議員懇談会(日本会議議連)メンバーが強硬に反対し、いまだに実現の見通しは立っていません。岸田氏も同議連のメンバーで、歴史観とともにジェンダー平等でも特異な認識を背景にしています。
また岸田氏は、総裁選立候補者によるテレビ番組の討論(9月17日)で「同性婚を認めるとは言ってない」と述べ、「LGBT(性的少数者)理解増進法」にも「留保」(「毎日」アンケート)の態度です。自民党で8%(8月時点)となっている次期総選挙候補者の女性比率の改善にも「努力の必要」を述べるにとどまっています。
コロナ危機によって、男女間の賃金格差による女性の困窮という構造的な女性差別が浮き彫りとなり、ドメスティックバイオレンス(DV)や自殺者の増加への対策は急務となっています。しかし岸田氏の「政策集」には、女性の困窮に関する言及はありません。