2021年8月9日(月)
主張
被爆国政府の責務
「核抑止力」論を捨て去る時だ
長崎にアメリカ軍の原子爆弾が投下されてから76年となります。核兵器禁止条約が発効し、平均年齢が83歳を超える被爆者からは「核兵器廃絶を見とどけたい」「長崎を最後の被爆地に」との切実な声がいっそう強まっています。日本政府には、この悲願に正面からこたえる責任があります。
背を向ける菅首相に怒り
松井一実広島市長は6日の記念式典での平和宣言で「被爆者の思いを誠実に受け止めて、一刻も早く核兵器禁止条約の締約国となる」ことを政府に求めました。ところが菅義偉首相はあいさつで、禁止条約に一切触れません。原稿にあった「核兵器の非人道性」などの重要部分を読み飛ばし、意味不明になっても読み続けました。その直後の記者会見では同条約に「署名する考えはない」と明言しました。被爆地の願いに背を向けた姿は多くの国民を失望させ、怒りの声が広がっています。
菅政権は、「核抑止力の正当性が損なわれる」との理由で禁止条約参加を拒んでいます。日本が頼るアメリカの「核の傘」と相いれないというのです。しかし、「核抑止」とは、核兵器による相手への威嚇です。いざとなれば使うことが前提です。NGO主催の各党討論会(5日)で日本共産党の志位和夫委員長は、「核抑止」は「広島・長崎のような非人道的惨禍を引き起こすことをためらわないという議論」と指摘し、核兵器の非人道性を認めるなら、「核抑止」から抜け出すべきだと訴えました。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長も原水爆禁止世界大会で、「広島や長崎が被った惨害が他の都市に繰り返されてもいいのでしょうか」(6日)と批判しました。被爆国の政府が「抑止力」論を振りかざすことは断じて許されません。
「核抑止力」論は日本の平和と安全にとっても有害で危険です。志位氏は「一方が核を使用するならば、他方は、核の報復でこたえる」と述べ、「核抑止」が「誰の安全も保障しない」(5日の討論会)と強調しました。同討論会では、オーストリアのアレクサンダー・クメント大使も、「核抑止」の考え方こそが、「世界の人々の安全保障を損なっている」と発言し、危険な政策からの転換を呼びかけました。アメリカの「核の傘」からの脱却は急務です。
禁止条約は核兵器の使用とともに威嚇も禁じています。「核抑止」をきっぱり否定しているのです。日本は「核抑止力」論を捨て去り、禁止条約に署名、批准すべきです。そうしてこそ日本をとりまく北東アジアの緊張した情勢も前向きに打開する展望が開けます。
日米安保なくす以前でも
日米安保条約をなくす以前にも禁止条約に加わることはできます。核兵器の使用・威嚇への支援や奨励などを禁じた条約の義務を果たせば、条約の締約国となることは可能だからです。政府も「法的な理由で入れないということではない」「(不参加が)わが国の方針だ」(茂木敏充外相、昨年3月6日の衆院外務委員会)と述べています。
世論調査でも7割以上が禁止条約への参加を支持しています。「核抑止力」論と決別し、禁止条約への参加を決断する新しい政権が求められています。「核兵器のない世界」のためにも、総選挙で野党連合政権を樹立しましょう。