2021年8月2日(月)
東京五輪
“バブル”は破れている
社会部長 三浦誠
「安全・安心な大会」―。菅義偉首相、小池百合子都知事、バッハ・国際オリンピック委員会(IOC)会長らが、東京五輪・パラリンピックの開催にあたり繰り返して使う言葉です。このスローガンは、大会が新型コロナウイルスの感染とは無縁であるかのような幻想をまき散らす役割を果たしています。
五輪では新型コロナ対策として、「バブル方式」が採用されています。選手らを外部と遮断した環境、つまり大きな“泡”の中に囲い込んで感染を防ぐという仕組みです。
バブル方式が有効に作用するには、泡の中に感染者が入り込まないようにする必要があります。五輪組織委員会はこの肝心な点をあいまいにしています。一例をあげると、入国時には通常14日間ホテルなどで待機することが求められますが、五輪は特別扱いです。選手らは定期的な検査といった条件付きで入国後すぐに活動できます。
あいまいにした結果、組織委と内閣官房が公表した選手ら大会関係者の感染者数は、1日までに計278人に。バブルの中で感染者が増えているのです。
選手の「安全・安心」すらも守られていません。感染者の濃厚接触者となった選手との対戦が、事実上拒否できない仕組みになっているからです。
本紙が入手した内閣官房の文書によると、濃厚接触者と対戦する際、相手選手の「同意」は不要としています。誰が濃厚接触者かは伝えないとしています。選手の人権にかかわる乱暴な行為です。
大会関係者を輸送するバスの乗務員たちもひどい扱いを受けています。宿舎はホテルではなく研修施設で、シャワー、トイレ、洗面台などが共用です。バブルの中にいる乗務員たちが、いつクラスター(感染者集団)が起きるかと不安を抱いています。
「安全・安心」という言葉は原発業界が好んで使っていました。いわゆる原発の「安全神話」です。
電力会社の元幹部は、「電力業界は原発の安全対策にどんなに穴が開いていても『安全』と言い続けた。五輪も同じだ」と指摘します。原発業界は自ら作り出した「安全神話」に浸り、「事故は起きない」と信じ込むようになりました。
五輪の主催者たちも「安全・安心」という言葉を繰り返すことで、根拠のない楽観論=「安全神話」を作り出しています。その「安全・安心」を担保するバブル方式の破たんは明白です。いや、最初から一瞬で割れるシャボン玉にすぎなかったのでしょう。一刻も早く「安全神話」の幻想から抜け出し、五輪の中止へと踏み出すべきです。